2012 Fiscal Year Research-status Report
サバ類における抗病性の種差を規定する分子基盤の解明ーゴマサバはなぜ病気に強いのか
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24780183
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
矢澤 良輔 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (70625863)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 抗病性 / サバ科魚類 / マイクロアレイ |
Research Abstract |
平成24年度には、サバ科魚類の遺伝子情報をもとに設計したマイクロアレイがマサバおよびゴマサバの両種に使用可能かどうかを確認した。具体的には、サバ科魚類であるクロマグロ、スマ、マサバおよびゴマサバの稚魚期の表皮から抽出したRNAをプローブとして、サバ科魚類の遺伝子情報から約29,000遺伝子を高密度に配置した合成オリゴDNAマイクロアレイに対し、それぞれハイブリダイゼーションを行った。その結果、全スポットに対し、クロマグロでは80.9%、スマでは68.4%、マサバでは、60.4%、ゴマサバでは59.5%のスポットにおいてシグナルが検出された。それぞれの魚種における発現パターンは同様の傾向を示したことから、本研究で用いる合成オリゴDNAマイクロアレイは、マサバおよびゴマサバの網羅的な遺伝子発現解析に有用であることが示唆された。次いで、本研究室で生産した3ヶ月齢のマサバおよびゴマサバ幼魚を供試魚としてマサバの低水温/高水温飼育およびゴマサバの高水温飼育を行った。これらの試験区に用いたマサバおよびゴマサバ供試魚の体表から抽出したRNAをプローブに用いマイクロアレイ解析により、それぞれの遺伝子発現パターンを比較した。その結果、低水温飼育マサバおよび高水温飼育ゴマサバの発現パターンと比較し、高水温飼育ゴマサバでは感染時に発現が上昇する免疫グロブリン、炎症性サイトカイン、抗微生物ペプチド等の発現が著しく高く、ミオシン、トロポニンコラーゲン等の表皮および筋肉の構成に関わる遺伝子の発現が著しく低かった。以上の結果から、ゴマサバでは、高水温下において感染症に対する感受性が低いことが、分子レベルであらためて証明された。このような分子レベルでの感受性の差異を、マイクロアレイ解析によって得られたデータをもとに更なる詳細な解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、計画通り本研究室で作出したマサバおよびゴマサバ幼魚(3ヶ月齢)を供試魚としてマサバの低水温飼育(冷却装置を使用)および高水温飼育、ゴマサバの高水温飼育を行った。さらに、次年度に実施予定であったサバ科共通マイクロアレイを用いた、マサバおよびゴマサバの網羅的遺伝子発現解析に着手した。サバ科魚類の遺伝子情報をもとに約29,000遺伝子を配置した合成オリゴDNAマイクロアレイを用いてマサバおよびゴマサバ表皮由来のRNAを解析に供した結果、マサバおよびゴマサバにおいて1万遺伝子以上の発現パターンの解析が可能であった。これらの発現解析の結果から、免疫関連遺伝子あるいは表皮での発現が予想されるような遺伝子の発現が認められたことから、このマイクロアレイが十分利用可能であったことを確認した。これの解析結果から、マサバーゴマサバ間の感染症に対する感受性の種間差を規定していると予想される遺伝子(群)を調査中である。さらに詳細な解析により感染性に差を生み出す分子(群)の詳細が明らかになることが期待される。以上のように分子レベルでの解析は順調に進行中であるが、これらの分子の生理レベルでの機構を解析する必要が今後生じると予想される。平成25年度の実験に使用するマサバおよびゴマサバの種苗生産についても親魚の育成なども順調に進んでおり、これらの供試魚を用いて、より詳細な温度設定による飼育試験の実施および解析個体数の追加等を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に行った、サバ科共通マイクロアレイの解析結果から、マサバーゴマサバ間の感染症に対する感受性の種間差を規定していると予想される遺伝子(群)を調査中である。しかし、解析を進める中でより詳細な水温設定による飼育試験の必要性が認められた。平成25年度には、この温度設定による飼育試験およびマイクロアレイによる解析を実施する予定である。また、マイクロアレイの結果から、表皮および筋肉組織の構成に関する遺伝子の発現が感染症に対する感受性が高い高水温飼育マサバにおいて高かったことから、表皮の組織観察による解析に着手する。その他に、飼育実験とワクチン接種を組み合わせた実験も予定してる。これらのワクチンが実際に効果を示すか、また、そのときの遺伝子発現パターンを比較する計画である。 さらに、申請者はゴマサバの体表粘液中にパルプ紙を溶解させる成分を種特異的に含有していることを発見しており、今後はゴマサバに認められる体表粘液の特徴的な性質を規定しているかの解析にも着手する。具体的には、それぞれの供試魚から体表粘液を採取し、パルプ紙に対する溶解性を温度等の異なる条件下で種間差を比較する。以上の計画を実施し、マサバに見られる水温依存的な細菌感染症の発生機構、また、この水温依存的な細菌感染に抵抗性を示す近縁種ゴマサバの生体防御機構さらに、種特異的なゴマサバ体表粘液成分の抗病性への寄与について分子レベルでの解析を行うことで、水温上昇に伴う細菌感染症発生時の生体防御機構の分子基盤を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
サバ科共通マイクロアレイの結果が、予想以上に良好であったため、計画では何度か試行が必要であると考えていたが、一度目に使用したマイクロアレイが本研究に十分利用可能であった。このため、試行に必要であると計上していたマイクロアレイに関する予算が次年度に繰り越された。この繰り越し分に関しては平成25年度に新たに実施予定であるよりより詳細な水温設定による飼育試験およびこれらの供試魚によるマイクロアレイ解析、またワクチンを用いた飼育試験に利用する。その他の研究費に関しては、計画通り使用する。
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