2012 Fiscal Year Research-status Report
植物プランクトンの消長に伴う浅海域の光環境変化と底生微細藻類の応答
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24780187
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
山口 一岩 香川大学, 農学部, 助教 (50464368)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 浅海域 / 光透過性 / 植物プランクトン / 底生微細藻類 / 瀬戸内海 |
Research Abstract |
大別して2つの小課題に関する調査・研究を実施した。 (1)現場観測:播磨灘とその近傍に位置する2定点(浅海域とその沖合域)で,海水の光透過性の時間変動を,光の減衰に関わる各種成分(海水自身,有色溶存有機物,植物プランクトン,鉱物やデトライタス等の非生物粒子)の動態と共に調べた。瀬戸内海の海水の濁りの主体は非生物粒子であり,全体の光減衰に対する非生物粒子由来の光減衰の寄与は,50%以上と他成分を超えることが分かった。植物プランクトンの寄与は,30%以下と非生物粒子よりも低かった。一方,光透過性の時間変動には,非生物粒子と共に植物プランクトンの存在が大きく関与していたことが判明した。沖合は言うに及ばず,堆積物の再懸濁が盛んな浅海域でさえ,光透過性の時間変動に対する植物プランクトンの影響度は,非生物粒子に匹敵する(約50%)と見積もられた。以上から,「水柱植物プランクトンの減少に伴う海底光環境の好転」という現象が,瀬戸内海で実際に起きること,また,その規模は最大30%程度の光透過性の増加を起こすと試算された。なお,上記試算は現在までの調査による速報値であり,最終試算は2013年度の結果を交えたうえで導く。 (2)培養実験のための予備検討:浅海域定点で採取した堆積物を用いて,泥中に生息する底生微細藻類の泥からの選り分け法(捕集法)を検討した。「走光性」を利用した底生微細藻類の泥からの選り分けに当たり,照射光量,光照射時間,泥上に敷く微細藻回収基盤(ガラスビーズに決定),回収に用いるビーズ粒径,泥上に敷いたビーズの効率的回収法,ビーズ中に混在する微細泥粒子の排除法等について検討を加えた。一応の確立をみた方法で,実際に底生微細藻類の光合成-光曲線の作成を試みたところ,2012年12月に描写に成功し,その様子が直上水柱の植物プランクトンと全く異なることを具体的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小課題1(現場観測)における平成24年度計画の最大の目標は,「浅海域での光透過性の変動に果たす植物プランクトンの寄与率(貢献度)を見積もる」ことであった。これに対して,実際に,その貢献度が非生物粒子に匹敵する高いもの(約50%)であるとの回答を導くことができた。加えて,瀬戸内海の海水の濁り成分としての植物プランクトンの寄与は,30%以下であることが見えてきた。これら2つの成果により,本研究の主目的の前半部“「水柱植物プランクトンの減少に伴う海底光環境の好転」が実際どの程度の規模で起こり得るのか”,との問いに対する一定の定量解が得られた。従って,小課題1の内容は,当初の計画を超えて,順調に進展したと判断している。 小課題2(培養実験のための予備検討)における平成24年度計画は,堆積物と底生微細藻類を選り分け,単離した底生微細藻類の光合成-光曲線を描く前段階として,「単離状態の底生微細藻類をいかに量的に確保するのか」という問題の克服を主目的に据えていた。この課題に対して,一応の選り分け法を確立させ,実際に一度,堆積物から単離した底生微細藻類を用いて,その光合成-光曲線を描くことができた。従って,研究は一定の進展を見せている。ただ,現在の方法では,堆積物からの選り分け過程で加える物理的刺激が,底生微細藻類細胞にダメージを与えている懸念が残されている。そのため場合によっては来年度,更なる方法の改善を図る必要が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
現場観測に関して言えば,平成25年度は引き続き,海水中の光透過性の変動に対する各種成分の寄与解明に当たる。現在,科学研究費補助金を受ける以前からのものを合わせると,2年分のデータ蓄積がある。これに,さらに1年間の観測結果を交えてデータ解析を実施することで,瀬戸内海海水の光透過性の変化に対する植物プランクトンの役割をより正確に評価する。また,導かれる試算結果の正当性,妥当性をより確固なものとする。 底生微細藻類の光合成-光曲線の描写実験に関して言えば,平成24年度に一応の確立をみた現場底生微細藻類群集の単離方法を用いて,平成25年度は光合成-光曲線の四季にわたる特徴を解明する(なお,平成25年度春季までに,未だ若干の検討課題を残している現場底生微細藻類群集の単離方法に改善が加えられるようであれば,改良法を適用する予定である)。各季節に得られる底生微細藻類の光合成-光曲線を解析することで,光変化に対する光合成能の応答を解析する。最終的に,それらの結果に基づき,海底光環境の変化が海底面での植物生産に及ぼす影響について,定量的な観点から言及していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(5 results)