2012 Fiscal Year Research-status Report
キンギョのまだら模様体色パターン形成における体色調節ホルモンの役割
Project/Area Number |
24780192
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
水澤 寛太 北里大学, 水産学部, 講師 (70458743)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | キンギョ / 皮膚 / 鱗 / 体色パターン / 色素胞 / 黒化 / ホルモン / 受容体 |
Research Abstract |
黒色素胞刺激ホルモン(MSH)とメラニン凝集ホルモン(MCH)は硬骨魚類の皮膚色素細胞における色素運動を調節するホルモンである。MSHは色素細胞の分化も誘導する。MSHの作用を拮抗阻害するアグーチシグナリングタンパク質(ASP)は腹側の皮膚における鱗以外の真皮組織において特異的に発現し,体色の背腹パターンを形成する。本研究はシュブンキンやニシキゴイに特徴的な体色のまだら模様形成におけるこれらのホルモンの役割の解明を目的とする。 皮膚色を指標にしてシュブンキンの背側と腹側の皮膚を類型化した。シュブンキンの皮膚においてMSH受容体であるMC1RとMC5R,MCH受容体であるMCHR2,ならびにASPが発現することが逆転写(RT-)PCR法により示された。さらにMCHR2の発現は背側皮膚において腹側皮膚よりも多いこと,ASPの発現は腹側皮膚において背側皮膚よりも多いこと,皮膚の色の違いは両者の発現量と関連しないことが示唆された。MC1RとMC5Rの発現と皮膚の色との関係は明確ではなかった。さらに詳細に解析するため,ワキンのMC1R,MC5R,MCHR,およびASPをcDNAクローニングしてmRNAの定量系を構築した。ワキンの鱗の色素胞におけるMC1R,MC5R,MCHR2の発現を明らかにするため,シングルセルPCR法を試みたが,再現性のある結果が得られなかった。 皮膚の黒化は黒色素胞の異所的な分化による。白色水槽において長期間飼育されたワキンを黒色水槽に移したところ,1日で背側の皮膚と背鰭の一部が黒化し,数日で元の赤色に戻ることを見いだした。カレイの仲間において背景色が黒化現象に関わることが知られている。実験的に取り扱いが容易なキンギョにおいて同様の黒化現象を見いだしたことは,魚類における黒化メカニズムの解明において極めて有意義である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的はシュブンキンの皮膚において発現するMCR,MCHR,ASPをcDNAクローニングすること,皮膚の色の異なる領域におけるそれぞれの遺伝子発現をRT-PCRによって評価すること,さらにそれらの定量系を構築することであった。シュブンキンとワキンの遺伝的差異は極めて少ないと考えられることから,当該年度ではワキンのMCR,MCHR,ASPの遺伝子情報を元にしたRT-PCRを行い,シュブンキンの各皮膚領域において発現するMCRサブタイプを明らかにした。また半定量的評価によってMCHRとASPの発現量が皮膚色と対応しない可能性を示した。さらにワキンのMCR,MCHR,およびASPのmRNA定量系を構築した。今後はこの定量系がシュブンキンの各遺伝子に適用できるか検討する必要があるが,当初の目的は達成できた。 色素胞1つからMCRおよびMCHRのmRNAを検出するため,シングルセルPCR法を試みたが,再現性のある結果は得られなかった。mRNA量が本法の検出限界以下であることが示唆されたことから,別の方法としてマイクロダイセクション法の適用を検討する。この変更は当初の研究計画の想定内である。 皮膚の黒化現象については,当初目的では外傷による黒化誘導に関する研究を進める予定であった。しかし,背景色の変化によって一時的な黒化現象を誘導できることを確認した。本現象には体色調節ホルモンであるMSHやMCH,または交感神経系が関わる可能性が高い。さらに背景色の操作は外傷に比べて非侵襲的であり,試験方法として優れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の目的に従って,ワキンのMC1R,MC5R,MCHR,およびASPのmRNA定量法をシュブンキンに適用し,まだら模様皮膚の各領域におけるこれらの遺伝子発現を解析して皮膚の色との関連を明らかにする。さらに各皮膚領域から採取した鱗におけるMC1R,MC5R,およびMCHRのmRNA量と色素胞の分布との関連を明らかにする。 色素胞におけるMC1R,MC5R,およびMCHR遺伝子を定量する手段として,シングルセルPCR法に替えてマイクロダイセクション法を検討する。すなわち,顕微鏡下において鱗上の色素胞をレーザーで切り抜き,得られた組織片からRNAを抽出してRT-PCRを行う。あるいは鱗からコラゲナーゼ等によって細胞を遊離させた後,塗抹標本を作製して色素胞をレーザーで切り抜く。さらに色素胞に対するMSH/MCHの色素拡散/凝集活性を解析し,鱗や色素細胞の種類による違いを明らかにする。 背景色の操作による黒化のメカニズムを解明するため,黒化皮膚において新たに分化した黒色素胞を解析する。発現するMCRとMCHRのサブタイプを上記の方法にしたがって同定するとともに,MSHとMCHの活性を明らかにする。黒化部位が背側の皮膚と鰭の一部に限られることから,体全体ではなく部位特異的に作用する交感神経系の関与が疑われる。そこで各種のアドレナリン受容体に対する作動薬と拮抗薬が色素胞におよぼす影響を解析し,当該黒色素胞の調節に関わる神経系を明らかにする。 当初の目的ではASPを背側皮膚において異所的に発現させてその影響を検証する予定であった。しかし,これまでの結果によってシュブンキンにおいてはASPの発現とまだら模様の形成に関与しないことが示唆された。したがってこの項目は実施せず,他の試験項目に注力することとする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|
Research Products
(11 results)