2013 Fiscal Year Research-status Report
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24780212
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 淳史 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00402826)
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Keywords | 農民政策 / 農業移民 / 戦後開拓 / 石黒農政 |
Research Abstract |
本年度は、申請者がこれまで検討を行ってきた農林省による人を直接の対象とした政策(労働・生活の共同化、農民訓練、農業移民、戦後開拓)について、「農民政策」という枠組みで把握し、かかる見地より現在までの成果を単著『日本農民政策史論-開拓・移民・教育訓練-』(京都大学学術出版会、2013年)として公刊した。同書における課題は以下の3点である。 第1に、農民政策について農村現場における実態を明らかにすること。 第2に、戦後における農民政策の展開過程を明らかにすること。 第3に、上記2点の考察を踏まえて石黒忠篤・加藤完治らいわゆる「内原グループ」や彼らによって行われた「石黒農政」について再検討を行うこと。 検討の結果、以下の点が明らかとなった。第1に政策意図と実態の乖離はとりわけ戦時期において顕著であったこと、第2に戦後農民政策の展開過程には戦前・戦時農民政策との連続性が見出されるとともに、1950年代後半から60年代初頭にかけて大きな性格変化が生じたこと(断絶)を確認した。そして、「内原グループ」について、戦後における農民政策への関与の相違をもとに個々のメンバーに関する位置付けを明らかにした。最後に、「石黒農政」について日本農政という枠内において農民の保護育成を追求した一連の施策と捉え、かかる農政の系譜は、産業政策として自らを規定した基本法農政の開始をもって終焉するという戦後農政把握を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前掲拙著の刊行により、農林省による人を直接の対象とした政策について「農民政策」という観点による総合のもと、単に個々のトピックに関する研究史の空白を埋めるのではなく、近現代日本農業史研究に関する新たな把握を提示することは一定程度できたと考えている。ただし、拙著294頁注42に記したとおり、同書の考察においては戦後改革期におけるGHQ天然資源局(NRS)の動向は考察の対象とされていない。また、拙著では日本農政における戦時と戦後の関係について見取図を示し、「1940年体制論」(野口悠紀雄)や「戦時源流論」(岡崎哲二・奥野正寛)の吟味を行ったものの、1990年代以降の歴史研究に大きな影響を与えた「総力戦体制論」(山之内靖)や「戦時戦後体制論」(雨宮昭一)への言及はなされていない。今後、これらの所論に対していかなる含意を提示しうるか考察を加える必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
前項「現在までの達成度」に述べたように、これまでの申請者の研究では戦後改革期におけるGHQ天然資源局(NRS)の動向が検討されていなかった。今後は、国立国会図書館憲政資料室に収蔵されている日本占領関係資料からNRS文書の収集を予定している。従来、NRS文書を用いた研究では、主として農地改革・農業協同組合・農業改良普及事業の成立過程に焦点があてられてきた。農民政策に関しては文書の残存状況も含めてこれからの課題であるが、積極的な収集を進めていきたいと考えている。そして、占領下の資料の分析を通じて、「敗戦」と「占領」という2つの契機を弁別する雨宮昭一の議論について、日本農政の史的展開から再考を試みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
おおむね研究計画通りに研究を遂行したが、3月末の神戸大学への出張時に資料複写等の費用が発生しなかったため残額が発生した。 このため、次年度における資料調査時の複写費用として充てることとしたい。
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