2012 Fiscal Year Research-status Report
水稲農法とその変遷が農村景観内の植物種多様性に及ぼす影響
Project/Area Number |
24780229
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
伊藤 浩二 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 連携研究員 (30530141)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 水田雑草 / 直播農法 / 農法変遷 / 希少種 |
Research Abstract |
水稲の不耕起V溝乾田直播農法(以降V直)は、経営規模拡大に対応した省力化技術として、東海・北陸等の農業法人や担い手農家を中心に普及が進んでいる。聞き取りにより、このV直農法は特定の圃場に固定的なものではなく、圃場の水もちの良さや雑草の生育具合を勘案して、慣行栽培や転作大豆との入替が毎年起きていることが分かった。このような農法入替は生産期間中の水田雑草群落組成に影響を与えるのみならず、埋土種子や栄養繁殖体を通じて入替後の種組成にも影響する可能性がある。 そこでこの農法変遷パターンと雑草群落種組成の関係性を明らかにするため、石川県珠洲市のある生産法人が管理する水田において、過去2年間の同地区内の水田圃場単位での作付変遷についての聞き取り結果に基づき5つのパターンを見出した。そのうち調査可能だった3つのパターン、すなわち2年連続V直、2年連続慣行(移植)、転作大豆からV直に変化、を辿った水田を対象に、収穫直前の2012年9月下旬に計20圃場において植生調査を行い、種組成の特徴を明らかにした。 その結果、種多様性の観点からは、2年連続慣行栽培で平均出現種数20.5種と最も高く、次いで2年連続V溝の18.2種、転作からV直の14.7種の順と評価された。一方、ミズオオバコ、マルバノサワトウガラシ、シャジクモといった水生植物を含む希少種の出現種数は2年連続V溝で2.6種と最大となった。これら希少種は一部の慣行水田内の凹地にも認められた。従って、地域スケールでのV溝直播栽培による種多様性増加の効果は大きくないが、圃場スケールでは希少種の生育場所としての機能が高い可能性が示された。またV溝直播と慣行栽培の植物種組成の差異を序列化手法のDCAにて比較したところ、両者は第1軸に沿って調査地点が区分され、種特性情報から除草体系や水管理、圃場内均平度の差が影響しているものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では3つの目的、すなわち①農村景観内での直播農法導入にかかる土地利用・農法の時間的変遷およびその空間分布の評価、②景観および圃場の各スケールにおける植物種の空間分布特性の解明と、その分布を説明する各種環境要因および農法変遷パターン要因の相対的影響力の評価、③保全上重要な植物種に関する、農法との共存を可能にする機構(特に発芽生理の観点)の解明を挙げている。初年度は目的①②については、予備調査から継続的に調査を行っている珠洲市N地区において調査を行い、農法変遷と雑草群落の関係性について一定の結論を得ることができた。目的③については次年度以降の課題として計画している。 初年度の計画の進行具合としてやや遅れていると判断した理由は以下のとおりである。本研究は結果の一般性を確認するため、当初3地域を対象に調査を実施する予定であったが、1年目については諸般の事情により予備調査から継続的に調査を行ってきた1地域に絞って調査を行った。これは予備調査のデータも活用して、農法変遷パターン間での水田雑草群落組成の差異の程度を明らかにした上で、他の新規地区の調査に取り掛かったほうがより効率的な調査が行えるとの判断にもとづくものである。新規予定地区においてもヒアリング、GIS解析等の予備調査を進めており、今年度の結果を踏まえ、次年度以降の調査の可否を判断したい。また、今年度調査を行った珠洲市N地区では植生調査を実施したが、土壌環境、水環境など一部のの環境条件については十分な測定データが得られなかったため、Hierarchical Partitioningといった一部の統計解析まで行うことができなかった。調査可能時期・方法を再検討し、次年度再度実施したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策として、現在調査が遅れている新規調査地について、残り2か年をかけて当初予定していたとおりの3つの調査地域において、農法間ごとの植物種組成の野外調査と環境要因、農法変遷パターンの調査を行い、統計モデルを作成する。これにより不耕起V溝乾田直播農法の植物種保全効果の一般性・地域性を検証する。また、調査が進んでいる珠洲市N地区の圃場においては、過去の土地改良事業以前の圃場区分を意識した調査デザインに改良し、直近の農法変遷の影響と区別できるような研究計画とする。 上記の野外調査によって得られた農法間の種組成のパターンが生じる原因となった、環境条件に対する植物種の生態的応答のメカニズムを確かめるため、2つの実験を行う。1つ目は、珠洲市N地区の埋土種子集団を含む現地土壌を用いて、実際の農法を模倣した水位変動パターンと土壌耕起時期をコントロールしたメソコスム実験(実験水槽での土壌撒き出し実験)を実施し、埋土種子から成立する植生を今後2年間かけて調査する。これにより直播農法下で水生植物をはじめとした希少種を含む雑草群落の成立を可能にする機構の解明を試みる。2つ目は、特に直播農法との関連が強い植物種(ノビエ類、コナギ、クサネム等)や保全上重要な種(ミズオオバコ、キクモ等)の種子を現地から採取し、次年度以降最終年まで、人工気象室条件下での前処理(保存状態)および温度・光条件を変えた発芽試験を実施し、発芽適温等の解明を行うとともに、永続的埋土種子集団(1 年以上の寿命を持つ埋土種子集団)の形成可能を検討し、発芽特性の観点から現地植生と農法の関連性を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
農法ごとの植物種組成の野外調査と環境要因の調査を行うにあたって、今後2年間、3つの調査地までの旅費、調査補助員の謝金、聞き取り調査協力に対する謝金を計画している。なお、次年度以降に使用する予定の研究費が95,320円発生しているが、計画進捗の変更により初年度の調査地数が減少したことに伴う謝金・旅費等の余剰であり、次年度調査地点を増やすことにより使用する予定である。 また、メソコスム実験(実験水槽での土壌撒き出し実験)にあたり、今後2年間の実験の継続に必要な、環境計測機器、栽培容器等の購入を計画している。さらに営農上問題となる植物種や保全上重要な種の発芽生態を明らかにするための、人工気象室条件下での発芽試験に必要な、シャーレ等の消耗品の購入費、調査補助員の謝金を予定している。 以上の研究成果の発表に係る学会参加や雑誌への投稿に係る経費、消耗品等をその他経費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)