2012 Fiscal Year Research-status Report
水田地区内に存在する有機態窒素の化学形態分画とその分解過程および動態の解明
Project/Area Number |
24780231
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
濱 武英 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30512008)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 有機態窒素 / 水田 / 排水路 / 底泥 |
Research Abstract |
琵琶湖周辺に分布する低平地水田地区4地区を選定し,土壌(水田および転作田),排水,排水路底泥と排水,用水,田面水を月に1回の頻度で採取した。採取した試料については化学分析を行い,土と水に含まれる窒素,リン,炭素の成分構成と濃度を明らかにした。有機態窒素は,水田地区や時期によらず主要な窒素成分であり,土と水ともに 全窒素濃度の70~90%を占めた。水試料については,営農時期に応じて,各物質の成分構成や濃度に大きな変動が見られたが,土試料については,表層部において濃度の変動が確認され,下層ではほとんど変動が見られなかった。特に,排水路底泥表層のリン濃度は,灌漑期に比べて非灌漑期に高くなる傾向が示された。調査対象の水田地区は,琵琶湖を用水源とする地区と河川を用水源とする地区に分けられるが,用水源の水質が水田土壌や排水路底泥の物質濃度に与える影響は小さいことが示された。一方で,水田地区の地理的条件(地形勾配,地区の位置,土性)と水利構造の違い(用水路と排水路の分離の有無,用水の取水方法)は排水路底泥の物質濃度を決める重要な要素であることがわかった。上記の研究成果の一部は,国際誌の論文で公表した。 非灌漑期に2回にわたり,水田地区3地区の排水路底泥を表層から約10cmの厚さでアクリル円筒に採取し,蒸留水を用いて10cm湛水させ,実験室にて25℃の恒温条件で1か月間培養を行った。培養期間後の窒素,リン,炭素濃度は,現地調査時の排水の濃度と同程度であり,排水路底泥が直上の排水の物質濃度を決定しうることが明らかとなった。特に,培養期間中,底泥中の有機態窒素濃度はあまり変化が見られなかったが,直上水中の有機態窒素は増加しており,底泥は有機態窒素のソースであることがわかった。また,現地採取試料や培養試料の蛍光分析の結果から,排水路底泥は水田土壌に比べてフミン物質を多く含むことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請書に記載したように,本研究の調査地区はすでに調査実績のある地区から選定したため,調査対象の水田地区4地区は早い段階で決定することができ,十分な現地調査と試料の採取を行うことができた。排水や田面水などの水試料については,現地での採取後速やかに化学分析(主に窒素成分,リン成分,炭素成分の分析)を行い,これまで月に1回の頻度で採取した全ての試料の分析を完了した。水田土壌および排水路底泥の土試料については,低温での乾燥に時間がかかるため,一部の試料は化学分析が実施できていない。ただし,現地の現況把握のための高頻度での調査は初年度で終了しており,次年度以降は初年度ほど多くのの試料の採取は行わない。したがって,初年度に採取した土試料の化学分析は,順次実施していき,次年度内で完了することができると考えている。 初年度の目標の1つは,アミノ酸やタンパク質,窒素複素環などの様々な形態の窒素からなる有機態窒素に,再現性の高い,類似した生物分解特性を見出すことであった。しかし,有機態窒素を含む試料の培養に必要となるインキュベーターの搬入が,製造業者の在庫不足によって予定よりも大幅に遅れたため,有機態窒素の分解特性の把握に関する実験の進捗がやや遅れている。ただし,途中段階の分析結果からも,培養期間における有機態窒素の経時変化に一定の傾向を見出している。次年度以降は,研究協力者とともに集中的に培養実験を実施し,有機態窒素の分解特性を明らかにしたい。 本研究では,有機態窒素の化学分析に加えて,有機物の蛍光特性を分析し,有機態窒素の構成についても考察する予定であるが,蛍光分析によって得られた結果の解析に高度な統計解析技法が必要であり,それらの理解と解析手法の習得に時間がかかっている。他研究機関の専門家に意見を求め,できるだけ早く蛍光分析結果の統計解析にとりくむ予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度と同様に,水田からの農地排水,水田土壌,転作田土壌,排水路底泥など有機態窒素を含む様々な試料を採取する。調査対象となる水田地区は初年度で選定した琵琶湖周辺の4地区とする。さらに,所属機関の変更に伴い,熊本県を中心とする九州地方の水田地区への調査が容易になったため,新たに水田地区をいくつか選定し,現地調査を定期的に行って土と水の採取を行う。これにより,琵琶湖周辺水田の灰色低地土だけでなく,黒ボク土や火山灰土を研究対象に追加することができる。 初年度は,現地調査と採取した水および土試料の化学分析に多くの時間を費やし,有機態窒素の化学形態分画手法の開発がまだ十分でないため,次年度は,現地調査頻度を減らして室内実験を中心に行い,有機態窒素の分画手法の開発を積極的に進めていく。有機態窒素の化学形態分画手法の開発では,既往研究で一般に利用されるリン酸緩衝液や塩化カリウムなどを使用し,採取した土試料から抽出される有機態窒素量を比較する。抽出液と土試料を様々な組み合わせで,抽出・分析作業を行い,試行錯誤的に抽出液と有機態窒素の関係を明らかにする。また,抽出液の蛍光特性を分析し,有機物蛍光特性と窒素画分の関係についても考察する。こうした一連の開発では,化学分析に係る作業量が膨大になると考えられるため,新たに熊本大学や九州沖縄農業研究センターから研究協力者を得て,研究体制を充実し,化学分析やデータの解析に要する時間を短縮する。 次年度の後半以降は,有機態窒素の分解特性を明らかにするため,現地から採取した水田土壌や排水路底泥を用いて培養試験を実施する。長期間,土試料を培養し,土(抽出水)や間隙水,直上水に存在する有機態窒素量と形態の経時変化を調べる。さらに,1つの水田地区に絞って有機態窒素の物質収支を正確に推定し,水田での有機態窒素の動態を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は,主に土壌中の有機態窒素濃度の定量化と動態の把握のために使用する。定量化においては,有機態窒素の抽出,測定に必要となる化学薬品やガラス機器の購入に使用する。動態の把握においては,現地調査への移動,土壌や水の採取に必要な機材の購入,現地計測機器の購入に加えて,実験室での培養試験の実施に必要な機材の購入,計測センサ(pHメータ等)の購入に使用する。 さらに,所属機関を変更(京都大学から熊本大学に異動)したため,研究備品(恒温振とう器等)の輸送費用,遠隔調査地(滋賀県琵琶湖水田地区)への移動費用,前機関に所属する研究協力者との打ち合わせに係る移動費用,分析試料の郵送費用として研究費を使用する予定である。また次年度は,他研究者の協力を得て熊本県や鹿児島県内に新たに調査地区を設ける予定であり,予備調査に係る交通費等の費用,新たに追加した調査地区に設置する水文・気象計測機器(水位計や雨量計など)および水質計測に関する機材の購入費用として研究費を使用する。 次年度の後半は,一定の研究成果が得られると期待されるので,学会発表や論文の投稿によって研究成果を適宜公表していく。したがって,研究費の一部は,学会や研究集会への参加に係る費用や論文の英文校閲料や投稿料として使用する。
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Research Products
(3 results)