2012 Fiscal Year Research-status Report
セロトニン環境に着目した犬の炎症性腸疾患の病態解析
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24780306
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
井手 香織 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40550281)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 犬 / 炎症性腸疾患 / セロトニン |
Research Abstract |
セロトニン(5ーHT)は腸管クロム親和性細胞(EC細胞)が産生する消化管ホルモンであり、ヒトの過敏性腸症候群や炎症性腸疾患(IBD)の病態に深く関与している。犬のIBDは最も多い慢性消化器疾患であるものの、診断・治療が困難であり、把握できていない複数の病態が混在すると考えられる。本研究では、5-HTに着目した犬のIBD病態解析を行っている。 【腸粘膜組織における5-HT陽性細胞の分布および数の解析】健常犬およびIBDが疑われる症例犬から、内視鏡を用いて十二指腸の粘膜組織を採材した。組織切片を作成し、5-HTに対する免疫組織化学染色によって5-HT陽性細胞(EC細胞に相当)の分布や数を検討した。抗イヌ5-HT抗体や犬の消化管において染色性を確認した抗体の報告がないことから、予備実験としてイヌ5-HTに交叉反応するといわれていた抗体を用いて染色条件を検討した。その結果、ヒトやマウスの免疫組織化学染色所見と同等の結果を得ることができ、イヌの5-HT陽性細胞は逆三角形に近い形で、粘膜上皮細胞の列に散在していることが明らかとなった。現在、健常群での検討はほぼ終了しており、疾患群の症例数を集めているところである。 【腸粘膜組織における5-HT関連因子の遺伝子発現解析】セロトニントランスポーター(SERT)、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH1)、セロトニン受容体(5-HT3, 5-HT4)の各遺伝子のmRNA定量解析を試みた。SERTおよびTPH1遺伝子は、至適プライマーを設計することができた。ところが5-HT3および5-HT4遺伝子では、想定以上に至適プライマーの設計が困難であり、引き続き検索中である。 【疾患群の検体収集】申請者が小動物内科診療を担当する東京農工大学動物医療センターにて、消化管内視鏡検査を行う際に、引き続き腸粘膜生検組織を収集しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【腸粘膜組織における5-HT関連因子の遺伝子発現解析】セロトニントランスポーター(SERT)、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH1)、セロトニン受容体(5-HT3, 5-HT4)の各遺伝子のmRNA定量解析を試みた。SERTおよびTPH1遺伝子は、至適プライマーを設計することができた。ところが5-HT3および5-HT4遺伝子では、想定以上に至適プライマーの設計が困難であり、引き続き検索中である。なお、プライマー設計がほぼ不可能と判断された場合に備えて、5-HT3および5-HT4については免疫組織化学染色を用いた検討も考慮しており、そのための予備実験は現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
【消化管粘膜組織中に浸潤している炎症細胞における5-HT3,5-HT4の発現解析】 5-HT3,5-HT4に対する免疫組織化学染色を消化管粘膜組織で行う。ヒトIBDでは、炎症細胞であるリンパ球がこれらのセロトニン受容体を発現しており、5-HTが炎症の増悪因子である可能性が示唆されている。犬ではまだ調べられていないものの同様の病態が存在する可能性があり、本研究では健常犬とIBD症例犬において比較検討する。両抗原に対する犬用の抗体は存在しないため、ヒトや齧歯類の抗体の中から、使用できるものを現在検討中である。 【セロトニンによるリンパ球刺激作用の検討】犬のリンパ球にセロトニン受容体が発現していることが確認できたのち、5-HT存在下でリンパ球を培養し、幼若化およびサイトカインの産生を検討する。測定するサイトカインは、腸炎モデルマウスで報告のあるもののうち、犬で測定系が入手できるIL-4およびIFN-γを選択する。 【症例犬群における重症度や治療反応性、予後との関連性】犬IBD群で得られた結果については、犬IBDの臨床スコアであるCCECAI(Allenspach, et al., JVIM, 2007)、臨床徴候、治療への反応性、予後との関連性を検討し、予後因子としての利用価値を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、犬に用いることができる抗体をいくつか検討する必要があり、複数購入する必要があるほか、サイトカイン測定用ELISAキットも比較的高額であることから、残りの研究費のうち相当の割合を使用することになると考えられる。
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