2012 Fiscal Year Research-status Report
微生物による作物依存型一酸化二窒素発生スポット形成メカニズムの解明
Project/Area Number |
24780324
|
Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
多胡 香奈子 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物生態機能研究領域, 研究員 (20432198)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 環境微生物学 / 一酸化二窒素 / 窒素循環 |
Research Abstract |
一般に、温室効果ガス一酸化二窒素(N2O)の主要な発生源は土壌中の脱窒菌などの微生物だといわれている。しかし葉菜類の作物体やその残さからも発生する。例えばキャベツ畑では収穫前後に多量のN2Oが発生するが、このN2Oがキャベツ自体から発生していることを突き止めた。しかし植物常在菌の生態は不明で、残さからのN2O発生がどのような窒素代謝に起因しているのか分かっていない。そこで本研究では作物体(キャベツ)に存在する脱窒菌群集からのN2O発生メカニズムを解明することを目的に、本年度は作物体でのN2O発生スポットを特定し、そこで機能する脱窒菌を分離してそれらの代謝に関する特徴を明らかにすることとした。 本研究では、キャベツ残さでN2Oが発生するホットスポットを特定することが最重要である。そこで、1枚の葉での場所による発生量の違いを調べるため、試料を非破壊的に、直径5cmの葉表面から発生するN2Oを採取する器具を考案した。培養実験を行った結果、培養5日後に葉の一部が腐敗し始め、同時にN2Oが発生し始めた。そこでこの器具を用いて調べたところ、同じ葉でも健全部分より腐敗部分で高いN2O発生が認められた。以上から、葉の腐敗部分がN2O発生スポットであることが示唆された。 つぎに圃場でキャベツを栽培し収穫後の残さのN2O発生部位を特定することにした。残さ(腐敗葉)からN2Oが発生することを従来法で確かめ、考案した器具を使ってさらに詳しく調べた。その結果、1枚の葉の表面でも場所によりN2Oの発生量は異なった。またその量は葉の変色具合や部位(先端・根元など)とは無関係であった。 一方、腐敗葉で機能する脱窒菌を分離する方法を確立する必要がある。これまでに植物体から細菌画分を回収するために、密度勾配遠心分離法が有効であることが示されている。そこでこの方法を応用し、腐敗葉から細菌画分を回収する方法を確立した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず作物残さでのN2O発生部位(ホットスポット)を特定することを目的とした。そのために、圃場で作物体を非破壊的に扱いながら、直径5cmという狭い範囲の葉表面で発生するN2Oを採取する器具を考案した。これを用いることで1枚の葉表面で場所の違いによるN2O発生状況を詳しく調べることが可能となった。そしてその結果、作物残さからのN2O発生ポテンシャルは多様であることを示した。特に腐敗部分が高いN2O発生ポテンシャルを持つことを本研究で初めて明らかにした。 一方N2O発生スポットに含まれる特徴的な有機酸と無機態窒素および微量元素を定量・定性的に評価するための分析方法を検討した。有機酸の分析にはキャピラリー電気泳動が適していることが分かったため、分析のための環境整備を行った。以上から当初の目的を達成したと考える。 またN2O発生スポットの表面と内部に存在する脱窒菌を分離するための方法を確立した。植物体から微生物を効率よく分離するためには、植物組織を除く必要がある。これまでに、密度勾配遠心分離法を用いて植物体から微生物のみを回収する方法が示されている。そこでこの方法を応用し、腐敗葉から植物常在菌を生きたまま回収する方法を確立した。また脱窒菌を単細胞分離するための装置を整備した。 さらに25年度の計画である、葉からのRNA抽出法および次世代シーケンス解析手法についても手法を構築した。以上から、当初の目的を達成したと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度は、残さでのN2O発生スポットを特定した。またキャベツの成分分析法と脱窒菌の分離方法を確立した。25年度は特定したホットスポットから脱窒菌を単細胞分離する。またホットスポットで葉に特徴的な成分を調べ、それらの成分が脱窒菌の活性にどのように影響するか明らかにする。脱窒とN2Oの発生には酸素が強く影響することから、これについても検討を行う。一方で、N2O発生に関わる微生物の群集構造を明らかにするため、N2O発生スポットからrRNAを抽出し、16SrRNA遺伝子を次世代シーケンサーで解析する。またmRNAを抽出し、同様に発現している脱窒遺伝子を調べる。これらの情報からホットスポットで機能する微生物の群集構造と発現する脱窒遺伝子を明らかにする。得られた遺伝子情報を、分離株の遺伝子情報、脱窒とN2O発生に与える酸素濃度の影響に関するデータ、キャベツの成分分析結果と照合して、N2Oが発生している時の脱窒代謝経路を決定する。 脱窒菌群集からN2Oが発生するときの基質と酸素の条件を決定する。上記で得たRNA情報の中にある遺伝子を持つ分離株はN2O発生の鍵を握る重要菌株である。そこでこれらを混合培養し、N2O発生スポットでの脱窒菌群集を再現する。重要菌株の中に葉の表面と内部から分離した菌株がいずれも含まれる場合は、それらを隔離するため、細胞同士を半透膜で仕切って培養できる二槽式透析培養器を使う。キャベツに含まれる有機酸・無機態窒素濃度と酸素濃度を変えて培養を行い、N2Oが発生するときのこれらの環境条件を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品等:酸素測定用マイクロセンサーは有効期間が短く経時測定を行うためには数本必要であるため予算を計上した。 消耗品等:微生物培養および一般的な遺伝子解析のための試薬類、ガラス器具、プラスチック製品が必要である。特に次世代シーケンサーを用いた解析に必要な試薬と二槽式透析培養器は高価であることからそのための予算を計上した。 旅費等:研究成果を国内外の学会で発表するための旅費、および外国語論文校閲と論文投稿料ならびに論文別刷に必要な経費を計上した。
|