2012 Fiscal Year Research-status Report
ピリジン環の還元的アシル化を基盤としたキノリジジン骨格構築法の開発と全合成
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24790010
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塚野 千尋 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70524255)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 合成化学 / 天然物 / 全合成 / アルカロイド |
Research Abstract |
申請者は分子内にピリジンを有するカルボン酸をGhosez試薬で活性化してアシルピリジニウムカチオンとした後、これをHantzschエステルで還元してジヒドロピリジン構造をもつキノリジジン骨格を得る条件を見出している。本反応はケトン共存下でアシルピリジニウムカチオンを選択的に還元して、1,4-ジヒドロピリジンを与える。また、得られた1,4-還元体はエナミドとα,β-不飽和ケトンを持つためさらなる変換が期待できる有用中間体である。平成24年度は、本反応で多様な基質を合成するために、様々な官能基を持つ基質に本条件が適用できるかについて検討した。具体的には、ピリジン環上にピリジル基を有する基質を用いて、キノリジジン環形成反応を成功させた。 また、迅速合成法の確率を目指して、トリメチルシリルピリジンと酸無水物の連結により分子内にピリジンを有するカルボン酸を合成し、one-potでの還元的環化について検討した。本反応は限られた基質にのみ適用できた。 次に、本反応を利用して四環性キノリジジンアルカロイド、Sophoramineの全合成研究へと展開した。Sophoramineは抗腫瘍活性等を示すことが報告されているが、天然からの試料供給量が少ないため、詳細な生物活性発現機構については未解明である。構造的には二つのキノリジジン環を有している点が特徴的である。我々は二つのキノリジジン環のうち一つを独自に開発したキノリジジン環構築法で合成することを計画した。実際、ビピリジル構造を有する基質を用いて酸化度の高いキノリジジンを構築し、その後、エノールトリフラートへと誘導した。種々検討した結果、一酸化炭素雰囲気下パラジウム触媒を用いて一炭素ユニット(エステル)を導入することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、本反応で多様な基質を合成するために、様々な官能基を持つ基質に本条件が適用できることを示している。例えば、ピリジン環上にメチル基やフェニル基、臭素原子を有する基質や分子内にシリル基やアセタールを有する基質を用いてもキノリジジン形成反応が進行することを明らかにしている。本合成方法はアシルピリジニウムカチオンを経由するため、分子中に複数のピリジン環があっても選択的に一つを還元することが可能であると推察されていた。そこで、本反応が複数のピリジン環存在下選択的に進行することを期待して抗腫瘍活性を持つsophoramineの全合成研究を計画した。実際ピコリン酸誘導体からStille反応を含む数段階でビピリジンを合成し、還元的アシル化の条件で処理して6員環アシルピリジニウムカチオン経由でキノリジジンを選択的に合成した。さらに数段階でABD環を有する重要中間体への誘導化に成功している。現在、ケトンを足がかりに一炭素増炭した後、閉環してsophoramineの全合成を目指している。 SophoramineのABD環部合成中間体は二置換キノリジジンであり、さまざまな配座が考えられる。C環部閉環はキノリジジン環の配座に大きく依存すると予測されるので、合成中間体を短段階で調製し、NMRデータ等から配座の解析が可能となった点は、大きな進展である。 一方、1,4-還元体の自在な官能基化、エナミドとα,β-不飽和ケトンを足がかりにした炭素-炭素結合形成については未検討である。これは、当初予想した以上にキノリジジン形成反応で得られる化合物が不安定であるためである。明らかとなった化合物の安定性に関する知見は、本反応の基質設計に重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、現在のABD環を有する合成中間体からC環部を閉環してsophoramineの全合成を目指す。合成中間体は二置換キノリジジンであり、【現在までの達成度】で述べたようにさまざまな配座が考えられる。今後はNMRデータからの配座解析の結果と計算科学での結果を比較しながら、C環部閉環について検討する。また、現在はピリジン環を有するカルボン酸から二環性キノリジジンを合成し、その後、一炭素導入して重要中間体を合成しているが、一炭素増炭の収率など改善の余地がある。保護されたヒドロキシメチル基を有するカルボン酸からキノリジジン骨格を構築し、その後ピリジンを導入する経路についても検討し、合成経路を改善できるかについても検討する。ピリジン環の選択的還元だけでなく、保護基をなるべく利用しないで短段階での合成を目指す。また、sophoramineの類縁体は多数知られているが、不飽和度の高い中間体を経由するため、これら類縁体の網羅的合成も視野に入れている。 同時に、ピリジン環上の置換基にカルボニル基等を有する基質を用いて環化反応を行い、比較的安定なキノリジジンの合成について検討する。安定なキノリジジンを合成して1,4-還元体の官能基化、特に、エナミドとα,β-不飽和ケトンを足がかりにした炭素-炭素結合形成を試みる。キノリジジン骨格を持つ天然物は多様な生物活性を示すため、ライブラリー作成等へ展開はその後の医薬品シード化合物の探索に有効である。本反応を多置換キノリジジン合成へ発展させ、様々な生物活性を有する化合物の迅速な合成に適用可能な方法論として確立を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では還元的アシル化によるキノリジジン骨格の構築法開発と全合成・ライブラリー構築を目指している。したがって、消耗品となる有機合成用試薬・精製用溶媒およびガラス器具は必須となる。これらには申請者が利用可能な実験機器や試薬などを考慮して年間予算の約80%を分配した。また、全合成研究を展開する際に、重要合成中間体の大量合成を行うため、「物品費」(試薬)への配分を重視している。 得られた研究成果について、国内学会(場合によっては国際学会)での発表を計画している。学会に参加するために「旅費」を計上している。 また、国際的な学術誌に発表するため、英文校正を依頼する予定である。「その他」の費用にはこれらが含まれる。
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Research Products
(11 results)