2014 Fiscal Year Research-status Report
未知の薬剤耐性予測を目的としたインシリコ薬剤耐性評価法の確立
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24790043
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川下 理日人 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00423111)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 薬剤耐性 / 抗ウイルス薬 / ドッキングシミュレーション / インフルエンザ / HIV / ホモロジーモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はインフルエンザノイラミニダーゼ阻害剤の耐性評価における再現性の確認と、HIVプロテアーゼ阻害剤に対する薬剤耐性評価を行った。 インフルエンザでは薬剤耐性評価にて再現性の高い結果を得るため、典型的な流行株であるH1N1、H3N2、B型そしてH5N1亜型のノイラミニダーゼの構造を構築するとともに、種々の文献からそれらの高耐性・低耐性時における変異のデータを取得した。各亜型の構造をホモロジーモデリングにより作成し、オセルタミビルに対する薬剤耐性評価を行ったところ、H5N1亜型とB型に対しては適切な評価が可能であったが、他の2つは適切に評価できなかった。ただし、周囲の水分子を除去して評価することにより、H1N1亜型でも適切な評価が可能となった。その一方で、H3N2に関しては現状適切な評価ができないままであった。 HIVではアタザナビルの薬剤耐性評価を行い、野生型と29種の変異体の構造をホモロジーモデリングで作成した構造を用いて評価を行った。その結果、耐性の強いものに対しては期待値が低くなり適切な評価が可能であったが、中程度の耐性の場合は評価がうまくできていないことが分かった。 このように、一部の系においては定性的な観点での評価が可能となったが、統一した手法で種々の耐性を万遍なく評価できる手法の確立には至っていない。今後はさらに分子力場の変更やよりドッキングの評価を高めるためのスコア関数の導入などを検討してより精度の高い評価に繋げていきたい。また、それと同時に汎用性を高めるべく、HIVやインフルエンザの他の阻害剤のほか、薬剤耐性が発生しやすい抗HCV薬の構造を利用して検討を行いたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
インフルエンザノイラミニダーゼ阻害剤の薬剤耐性評価にて再現性の高い結果を得るため、H1N1、H3N2、H5N1、B型のノイラミニダーゼの構造、および高耐性・低耐性のデータを取得した。各亜型の構造をホモロジーモデリングにより作成し、オセルタミビルに対する薬剤耐性評価を行ったところ、H5N1亜型とB型に対しては適切な評価が可能であったが、他の2つは適切に評価できていなかった。ただし、周囲の水分子を除去して評価することにより、H1N1亜型でも適切な評価が可能となった。その一方で、H3N2に関しては現状適切な評価ができないままであった。なお、ホモロジーモデリング、ドッキングシミュレーションにはMOE2013を用い、分子力場はMMFF94xを用いた。 アタザナビルでは、野生型と29種の変異体の構造をホモロジーモデリングで作成した構造を用いて評価を行った。その結果、耐性の強いものに対しては期待値が低くなり、適切な評価が可能であったが、中程度の耐性の場合は評価がうまくできていないことが分かった。なお、本系においては結晶水の関与が重要となるため、3D-RISM法により水の存在位置を予測し、水分子を配置したうえで評価することが重要であることも分かった。 このように、一部の系においては定性的な観点で適切な評価が可能となったが、統一した手法で種々の耐性を万遍なく評価できる手法の確立には至っていない。今後はさらに分子力場の変更やよりドッキングの評価を高めるためのスコア関数の導入などを検討してより精度の高い評価に繋げていきたい。 なお、本研究課題は当初研究に携わる予定であった大学院生が休学したため研究の進展が遅れており、その空白となった期間を補うべく次年度まで研究期間を延長した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度ではこれまでに得た結果をまとめるとともに、これまでの検討で良好な結果が得られなかった点に関して改善を行い、より精度と再現性の高い薬剤耐性評価を目指す。例えば、前年度の検討ではH3N2とオセルタミビルについて良好な結果が得られていないものの、本系における分子力場の改変および構造作成時のホモロジーモデリングに関する検証や、ドッキング時の期待値計算における評価基準の客観的算出法の検討を行うことで改善を図りたい。後者については主にクラスタリングを用いた手法を考えているが、形状を主にするのか元の結晶構造から移動した距離を基準にするのかなど、その基準についても種々検討する必要がある。 本検討の対象となる抗ウイルス薬は多数存在している。そのため、先の精度に関する検討に加えて、適用範囲の拡大を目指すべく、HIVではアタザなビル以外のプロテアーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤(核酸系、非核酸系)、インテグラ―ゼ阻害剤など標的とした薬剤に対して検討し、インフルエンザではザナミビルやペラミビルなど、他のノイラミニダーゼ阻害剤を用いた検討も行いたい。これらに加えてさらに、薬剤耐性の報告例が多いHCVに対しても同様の検討を行っていきたいと考えている。抗HCV薬も近年臨床で用いられるようになってきたが、これもHIV同様変異の激しいウイルスであり、薬剤耐性を有する変異が多数存在すると考えられるため、本研究の対象として重要であると考えている。
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Causes of Carryover |
当初研究に携わる予定であった大学院生が進学を断念したため、一部研究の進展が遅れており、その空白となった期間を補うべく次年度まで研究期間を延長する予定に変更したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用額の大半は本研究成果を発表するための学会出張(38th ICAR)の旅費及び参加費に使用し、残額は本年度の解析に必要なソフトウェアとその消耗品などに充当する予定である。
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Remarks |
補助事業期間延長承認:平成27年3月20日
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