2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒト常在性の細菌が糖尿病状態の宿主に感染するための病原性分子ネットワークの解明
Project/Area Number |
24790069
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 靖彦 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60508141)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 感染症 / カイコ / 無脊椎動物モデル / 病原性細菌 / 病原性遺伝子 / 黄色ブドウ球菌 |
Research Abstract |
糖尿病患者数は、世界中で増加しており社会問題となっている。糖尿病が慢性化すると、様々な糖尿病合併症が発症する。糖尿病合併症のひとつである感染症は、多くの場合、元々ヒトの皮膚や咽頭などに常在している細菌が引き起こすが、それらヒト常在性の細菌が糖尿病患者に対して重篤な感染症を起こすメカニズムは不明である。 本研究の目的は、ヒトに常在性の細菌が糖尿病宿主に高病原性を示す分子機構の解明である。 すでに我々は、カイコを高血糖にする技術とカイコに病原体を感染させる技術を組み合わせた、高血糖カイコ感染モデルを確立している。本研究では、この実験系を用いて、高血糖状態のカイコを殺傷するために必要な病原体の遺伝子を網羅的にスクリーニングし、同定した遺伝子の機能解析を行う。 平成24年度において我々は、高血糖カイコを殺傷するために必要な黄色ブドウ球菌の遺伝子を3つ同定した。これらの遺伝子欠損株は、通常状態のカイコに対しては、病原性に影響を与えなかった。また、このうちのひとつであるisdA遺伝子は、糖尿病マウスに対する病原性に寄与するが、通常マウスに対する病原性には寄与しないことも分かった。これらの結果から我々は、糖尿病状態の宿主に対して病原性を発揮するためのヒト常在性細菌の病原性遺伝子の同定に初めて成功したと判断した。IsdAタンパク質は、他のIsdタンパク質と協調して黄色ブドウ球菌のヘム鉄の取り込みに寄与する細胞壁局在性の因子である。これらIsdタンパク質群の細胞壁へのアンカリングに関わるsrtA、及びsrtB遺伝子も高血糖カイコに対する病原性に寄与するが、通常カイコに対する病原性に寄与しなかった。このことから、黄色ブドウ球菌の細胞壁のIsdヘム鉄取り込み機構が糖尿病宿主への感染に重要な役割を果たすことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的のひとつである糖尿病状態の宿主に感染するために必要な黄色ブドウ球菌の遺伝子を三つ同定できている。また、黄色ブドウ球菌のヘム鉄取り込み機構に関わる分子群が糖尿病宿主感染に関わることも明らかとなった。これらの同定された3つの因子間の遺伝子発現における調節機構や生化学的な解析も進みつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
我々が同定した3つの黄色ブドウ球菌の病原性因子について、欠損株を用いた遺伝学、及び精製したタンパク質を用いた生化学を行う。黄色ブドウ球菌のヘム鉄取り込み機構に関わるIsdシステムが糖尿病宿主感染に必要であることを、他のIsdタンパク質の欠損株を用いて確証する。また、糖尿病感染症におけるヘム鉄の重要性について、ヘム鉄の投与実験などで検証する。今回同定された遺伝子のひとつはこれまでに生化学的な解析が報告されていない。この因子を精製し、酵素活性を見出す。このタンパク質は、N-アセチルグルコサミンデアセチラーゼドメインを有しているので、その活性があるか明らかにし、N-アセチルグルコサミン代謝と糖尿病宿主感染の関係性を明らかにして行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
遺伝学的実験のための遺伝子工学試薬やRT-PCR用の試薬を購入する。生化学的な解析のために、組み換え型タンパク質の精製に必要なカラムや試薬を購入する。相互作用因子の同定のためのタンパク質の質量分析を外注する可能性がある。論文作成のために英文校正費としても使用する。人件費はかからない。
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