2012 Fiscal Year Research-status Report
新規糖鎖リガンドを創製した間葉系幹細胞のホーミングコントロール
Project/Area Number |
24790105
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
酒井 信夫 国立医薬品食品衛生研究所, 代謝生化学部, 主任研究官 (60370938)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 間葉系幹細胞 / 再生医療 / 糖鎖リガンド / ホーミング |
Research Abstract |
近年、幹細胞、前駆細胞の定着、増幅及び機能発現に関与する糖鎖-接着分子群の免疫応答の機序解明が望まれ、細胞、組織を用いた生理的な治療法である再生医療においては、幹細胞、前駆細胞をターゲットとする臓器に効率的に定着、機能させる戦略が必要となっている。本研究課題「新規糖鎖リガンドを創製した間葉系幹細胞のホーミングコントロール」では、炎症性疾患における局所的な免疫応答に関与する細胞と接着分子との二分子間相互作用に着目し、新規糖鎖リガンドを創製した間葉系幹細胞を用いた自己免疫疾患に対する新たな細胞移植療法を確立を目的としている。 平成24 年度は、自己免疫疾患に特徴的な炎症性疾患の治療を指向した間葉系幹細胞の表面分子の糖鎖リガンドの創製に着手した。まず、Balb/cマウス大腿骨骨髄よりmyeloid progenitor cellsを採取し、間葉系幹細胞の分化・増殖を行い、それらの細胞表面分子の発現をフローサイトメトリーで解析すること、更に光学顕微鏡下モルフォロジーを観察することでクオリティチェックを行った。その結果、CD106(VCAM-1), CD105, CD73, CD29(beta-integlin), CD44マーカー陽性、CD11b, CD45マーカー陰性の極めて純度の高いファイブロブラスティックな幹細胞を50x10^6個調製することに成功した。これらの幹細胞は液体窒素中に凍結保存し、平成25年度以降の研究に順次供する予定である。更に、本研究課題の協力研究者であるRobert Sackstein博士(米国ハーバード大学医学部)よりフコース転移酵素(alpha 1-3-fucosyltransferase; FT6)を入手し、供与体GDPフコースを用いた酵素科学的修飾法による、ex vivoにおける間葉系幹細胞上の新規糖鎖リガンドの効率的な創製を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
炎症部位に発現する接着分子(E-セレクチン)に特異的に結合する糖鎖リガンドとしては、ESL-1、シアリルルイスx(sLex)、及びシアリルルイスa(sLea (CA19-9))構造等が知られている。しかしながら、ヒト及びマウス間葉系幹細胞の表面上には、sLex 及びsLea 構造を有する表面分子は全く発現していない。そこで、間葉系幹細胞表面に発現するCD44分子の非還元末端のラクトサミンユニット(Gal beta 1-4GlcNAc, Gal beta 1-3GlcNAc)、及びシアリルラクトサミンユニット(NeuAc alpha 2-3Gal beta 1-4GlcNAc, NeuAc alpha 2-3Gal beta 1-3GlcNAc)を、シアル酸転移酵素(alpha 2-3-sialyltransferase; ST3Gal III 及びSTGal IV)、及びフコース転移酵素(alpha 1-3-fucosyltransferase; FT3, FT4, FT5, FT6, FT7, 及びFT9)を用いて生化学的に糖鎖修飾し、ex vivoにおける間葉系幹細胞上のE-セレクチンリガンド糖鎖の効率的な創製を試みた。 各種糖転移酵素の修飾反応の諸条件は、sLex、sLea 構造を特異的に認識するHECA452抗体、及びリコンビナント マウスE-セレクチン-Fc キメラ型抗体を探索プローブとしたフローサイトメトリー法、ウェスタンブロッティング法、及び免疫蛍光染色法を用いて詳細に検討した。これらの研究成果は、交付申請書に記載した研究計画に従って遂行して得られたものであり、自己点検による達成度の評価としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
【平成25年度の研究実施計画】 平成25年度には、前年度に引き続きマウス骨髄より単離した間葉系幹細胞の表面分子をex vivo において糖転移酵素(シアル酸転移酵素及びフコース転移酵素)を用いて糖鎖修飾し、血管内皮炎症部位に発現するタンパク質に対する特異的糖鎖リガンドを創製する。これらの間葉系幹細胞のクオリティは、生化学的、分子生物化学的な研究手法を用いて多角的に評価する。また、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞を用いたバインディングアッセイにより、糖鎖-接着分子の二分子間相互作用を可視的に解析する。本分析法は、流体力学的に生体内の血流量を模倣した壁せん断応力影響下で二分子間の相互作用を可視的に解析することが可能であるため、表面プラズモン共鳴法等では判断できない、ホーミングにおける第一段階である"tethering"の実効性を的確に評価することが出来ると考えられる。 【平成26年度の研究実施計画】 平成26年度には、24年度、25年度に確立した新規糖鎖リガンドを有する間葉系幹細胞を炎症性疾患モデルマウスに移植し、疾患治療効果及び機能発現のメカニズムを詳細に解析することで、糖鎖に賦与される生物学的意義の解明を試みる。具体的な疾患モデルとしては、潰瘍性大腸炎及びアレルギー性気管支炎を予定している。潰瘍性大腸炎に関しては、5% (w/v)デキストラン硫酸ナトリウム経口投与によって確立された急性疾患モデルを用いる。他方、アレルギー性気管支炎に関しては、卵白アルブミンの腹腔及び経鼻投与によってアレルギー疾患症状を惹起させる。これら炎症性疾患モデルマウスの使用に関しては、形質転換生物を用いることなく、廉価な野生型を用いることで、汎用性、経済性の高い動物実験の実施を試みる。3年間を通じて得られた研究成果については、国内外の関連学会における研究発表及び国際学術雑誌に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費使用計画としては、費目別収支状況等に記載した通り、次年度使用額(平成24年度未使用額)807,201円に、平成25年請求額として600,000円を加算した1,407,201円を所用見込み額とした。 平成24年度予算より繰り越し研究費が生じた理由としては、「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48 年法律第105号、平成17年法律第68号(一部改正))」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年環境省告示第88号)」、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針(平成18年6月1日厚生労働省通知)」、「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(2006年6月1日日本学術会議)」を遵守し、科学的な観点に基づくとともに動物愛護の立場に立脚した適正な実験用動物を実施することで使用個体数を最小限に留めたことが最も大きなファクターとなった。 平成25年度の研究費の使用計画としては、交付申請書に記載された助成金額(交付予定額)1,000,000円に加え、407,201円をフローサイトメトリー分析及びウエスタンブロット解析において使用するモノクローナル抗体のライブラリー作製に充当することで研究の更なる効率化を図り、研究成果生産性の飛躍的向上を目指す。
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Research Products
(2 results)