2012 Fiscal Year Research-status Report
炭素ナノ粒子の妊娠期曝露による母子免疫系のエピジェネティックな変化に関する研究
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24790130
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
梅澤 雅和 東京理科大学, 総合研究機構, 研究員 (60615277)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / 妊娠期曝露 / カーボンブラック / 胸腺リンパ球 / リンパ球分化 / 脾臓 / 転写因子 / マイクロアレイ |
Research Abstract |
本研究の目的は、炭素ナノ粒子の妊娠期曝露が母子の各個体の免疫系に及ぼす影響を、抗原感受性とエピジェネティックな変化を評価指標として明らかにすることである。当年度は、カーボンブラックナノ粒子(CB-NP)の次世代影響について、とくに新生児期の脾臓および胸腺に生じる影響を検討した。その結果、新生児脾臓におけるCD3、CD4、CD8発現リンパ球の割合を指標とし、CB-NP曝露(妊娠前期から中期)の影響を生後3~5日目において評価できることが明らかになった。とくに、CB-NP曝露群の脾臓においてCD3陽性細胞(T細胞)数の減少が認められ、併せてCD4陽性細胞、CD8陽性細胞の減少傾向が認められた。しかし、マイクロRNAを中心としたエピジェネティクス解析を行った結果、リンパ球表現型への影響の発現機序を示す変化が脾臓組織および脾臓リンパ球中では認められなかった。そこで、生後3~5日目以前の新生児胸腺を解析した結果、胸腺リンパ球(Tリンパ球前駆細胞)の成熟が抑制される傾向が認められた。網羅的遺伝子発現データから胸腺に生じる影響の機能解析を行った結果、生後1~5日目の新生児胸腺において、CB-NP曝露群では転写因子NF1、GFI1の下流遺伝子の多くが発現低下することが明らかになった。また、CB-NP曝露群における脾臓中T細胞数の減少は、生後14日目までに対照レベルにまで回復していた。回復時期の脾臓組織において、ケモカインCcl19およびその受容体Ccr7をはじめとする複数のケモカイン、ケモカイン受容体の発現亢進が生じていた。また、CB-NP曝露を妊娠中期から後期に行った場合にも、胸腺リンパ球のCD4/CD8発現パターンに変動が生じるというpreliminaryなデータを得つつあり、曝露時期による影響発現の詳細およびメカニズムの解析を始めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展と言える理由は、1)カーボンブラックナノ粒子の妊娠期曝露が次世代免疫系に及ぼす影響が、新生児期の胸腺で明瞭に現れることの示唆と、2)妊娠中におけるカーボンブラックナノ粒子の曝露時期により、次世代免疫系に生じる影響のパターンの比較とを、初年度中に始めることができたためである。なお、1)の部分については、まもなく論文投稿をする予定である。加えて、カーボンブラックナノ粒子の妊娠期曝露により新生児期の胸腺に生じる影響について、すでにマイクロアレイからの網羅的遺伝子発現データが得られた。このデータ解析により、新生児期の胸腺に生じる複雑かつ雑多な影響の機能的特徴(とくに鍵となる転写因子)もすでに把握できつつある。また、新生児期胸腺に生じる影響の経時的変化についても、多くはないものの、すでに有意なデータを得ることができた。さらに、新生児期に生じる影響の一部が収束していく過程についてもデータが得られつつある。この影響が収束していく過程の存在は、カーボンブラックナノ粒子の妊娠期曝露による次世代影響に対する生体防御機構の存在を示唆するものであり、ここにはナノ粒子曝露に対する生体側の頑強性/脆弱性/感受性を決定し得る情報が含まれていると考えられる。現在までに、ナノ粒子の妊娠期曝露が母子の各個体に及ぼす影響についても、カーボンブラック以外のナノ材料についてデータが得られつつある。ここでは分子生物学実験に通じた研究者の協力を仰ぎ、エピジェネティクスのうちとくにマイクロRNAの発現パターンについてデータを取得した。本研究課題の実施期間(2年間)で当初の計画を完遂するために必要なデータを、1年目に十分に得ることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、カーボンブラックの妊娠期曝露により、一次リンパ組織の一つである胸腺に生じる影響を主要な研究対象とする。研究開始時は一次リンパ組織(胸腺)と二次リンパ組織(脾臓、リンパ節)の両方を研究対象にしていた。しかし、二次リンパ組織に生じる変化は、一次リンパ組織に起こった変化を反映しているに過ぎないことが判ったため、その観察だけではカーボンブラックナノ粒子の妊娠期曝露による影響の発現機序に迫ることができないと考えられる。そのため、本研究課題では今後、一次リンパ組織に研究対象を絞ることが妥当であると考えた。また、リスク評価に向けた研究方針として、本研究課題では用量依存性よりも材料(粒子の組成)間での影響比較を推進する予定である。それは、初年度の実績を踏まえて、材料間比較によりナノ粒子の性状と次世代免疫系への影響との相関性を明らかにすることが、用量依存性を検討することよりもリスク評価に有用かつ優れた知見を提供できると考えられるためである。以上の方針のもとで、今後(二年目=本研究課題の最終年度)は、1)妊娠期間中のカーボンブラックナノ粒子の曝露時期の違いによる次世代免疫系への影響の差異の検証、2)次世代免疫系への影響についての経時的変化の検証、3)ナノ粒子の組成・性状の違いによる次世代免疫系への影響の差異の検討を、初年度に明らかになった標的RNA群を中心に行っていく。とくに2)については、新生児期リンパ組織で認められた影響が、成長後の個体の免疫機能や抗原感受性にどのような変化を及ぼすのかについての検討を進める。最後に、本研究課題の中で影響発現に重要なマイクロRNAを明らかにし、RNAiの観点から影響発現を制御できる方法、すなわちリスク回避の方法を本課題の中で検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(29 results)