2012 Fiscal Year Research-status Report
嚢胞腎発症を決定する繊毛から核へ移行する新規シグナル複合体の解析
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24790198
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
芝 大 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50360722)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 一次繊毛 / 核移行 |
Research Abstract |
哺乳類では大部分の体細胞が、細胞あたり1本の不動性繊毛(一次繊毛)持つ。一次繊毛の欠失や機能異常により嚢胞腎や内臓逆位などの遺伝性疾患が引き起こされることから、一次繊毛から細胞体へ形態形成に関係する何らかの情報が伝達されていることは明らかである。しかし、その伝達機構はほとんど明らかにされていない。 Inv と相互作用する蛋白を抗体ライブラリーを用いスクリーニングを行ったところ、繊毛蛋白である Nek8 (セリン/スレオニンキナーゼ:基質未同定) が Inv/Nphp2 と結合することを見出した。Nek8 の個体レベルでの機能を調べるために、Nek8 の発現をアンチセンスオリゴのゼブラフィッシュ胚への注入により抑制したところ、嚢胞腎と内臓逆位が観察された。さらに Inv/Nphp2 と Nek8 のアンチセンスオリゴを同時添加すると、嚢胞腎の発症頻度・重篤度は相乗効果的に著しく増加した。これらの実験成果から、Inv/Nphp2とNek8が複合体として細胞内で機能し、腎嚢胞化に関与している可能性が想定された。 臨床的に重要な点は、今回標的とした Inv や Nek8 はヒトの小児嚢胞性腎疾患(若年性ネフロン癆:NPHP)の責任遺伝子であり(それぞれ NPHP2, NPHP9)、これら分子の機能を明らかになったことにより、嚢胞腎という頻度の高い遺伝性疾患発症メカニズムの全貌解明に足がかりができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
細胞周期と繊毛形成の関係を解析する過程で、Inv/Nphp2 がS 期に一次繊毛から「核」へ局在変化することを発見した。S 期は細胞分裂に先立ち繊毛が消失し始める時期であり、この時期に繊毛から核へ局在変化する蛋白は報告されていないため、この結果は繊毛から核へのシグナル伝達経路解明に大きな手がかりとなる。この局在変化が、importinによること、また、Inv/Nphp2 内に新規の3つの核移行ドメインを見だした。この解析中に さまざまなInv/Nphp2 の領域欠失蛋白の局在解析から、カルモジュリン(CaM)結合が Inv/Nphp2 の繊毛局在を制御していることも見出した。CaM 結合が失われると、 Inv は基底小体(繊毛の根元)に集積、もしくは細胞質へ拡散するという別の発見につながった。 繊毛タンパクの繊毛移行シグナルの解析はまだほとんど行われていないため、この成果はインパクトの高いものとなると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2つの方向で研究を進める。 1)Inv に存在する IQ ドメインが Inv 蛋白局在制御およびゼブラフィッシュ個体での腎嚢胞形成に関与することを発見したが、より定量的にデータを取得する。IQ ドメインはカルモジュリン(CaM)が結合するドメインであり、繊毛/細胞内 Ca2+ 濃度が Inv 局在を制御している可能性がある。すなわち、Pkd1/2 チャネル下流シグナル分子として Inv が機能し、Ca2+ 応答後に繊毛各部位に移行し、結合パートナーを変え、繊毛の複雑なシグナル経路に関与している可能性が想定される。しかしながら、この成果をさらに発展させるのは現状況では技術的に困難である。そこでさまざまな文献を参考にするとともに、IQ ドメインが Inv 蛋白局在制御およびゼブラフィッシュ個体での腎嚢胞形成に関与することまでを成果として論文にし発表する。 2)一次繊毛が外界刺激感受のセンサーとして機能していることから、水流刺激(嚢胞腎の場合)以外の機械刺激入力系に対する応答メカニズム解析系構築にも取り組む。 本年度より所属が変わり、新たに活用できる重力刺激付加装置(遠心機)がある。そこでこの刺激応答において、内耳(蝸牛や半規管)など他の繊毛細胞で、機械刺激で繊毛部から核へ移行する因子がないか検索する。腎嚢胞形成に関与する因子は、他の繊毛病にも関与するため、その可能性検討についても取り組みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前項推進方策1)公表する論文の英文校正、論文出版、学会参加を計画する。また、共著となる福井一博士(循環器病センター・研究員)との研究打ち合わせを計画する。 前項推進方策2)マウス解剖、細胞培養関連費用、抗体・測定試薬などを消耗品として計上する。また、腎臓細胞で得られた成果の適用をさらに広げるため、腎臓以外で繊毛を有する細胞・組織の取得も目指すため、実体顕微鏡の取得も計画する。 内耳の組織取得については、非常に難しい技術であるため、すでに摘出手術の経験のある杉山紀之博士(大阪医科大学・解剖学)に内耳組織解剖の手技指導を計画する。 また、機械刺激や繊毛病関連の学会などへの参加を計画する。
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Research Products
(2 results)