2012 Fiscal Year Research-status Report
不整脈発症に重要なベータアドレナリン受容体シグナル経路の解析と新規治療薬の開発
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24790219
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
吹田 憲治 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助手 (90569542)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 不整脈 / ベータアドレナリン受容体 / アデニル酸シクラーゼ / Epac1 |
Research Abstract |
これまでの先行研究から、心臓のベータアドレナリン受容体シグナルを仲介する心臓型アデニル酸シクラーゼ(Adenylyl cyclase 5: AC5)ならびにEpac1(Exchange protein directry activated by cAMP 1)が不整脈の発症において重要な役割を果たしている可能性が考えられた。本年度は、我々がAC5選択的抑制剤として見出したビダラビン(抗ヘルペス剤)を用いて、当該薬剤による心房細動(Atrial fibrillation: AF)抑制効果の有無を解析した。 皮下に埋め込んだ微小浸透圧ポンプによりビダラビンをマウスに持続投与した。ビダラビンは、ヒトのヘルペス治療において認可されている15 mg/kgを一日当たりの最大投与量として、計5日間投与した。イソフルラン吸引麻酔下、経食道頻回ペーシングによりマウスに一過性にAFを発生させ、体表面心電図(II誘導)をもとにAF持続時間を計測した。その結果、ビダラビン(7.5-15 mg/kg/day)はβ遮断薬であるメトプロロール(2-4 mg/kg/day)と同様、マウスに誘発したAFを容量依存的に抑制した。また、ノルエピネフリン(NE)を腹腔内投与したマウスに経食道頻回ペーシングによりAFを誘発すると、そのAF持続時間がNEの濃度依存的に延長した。さらに、ビダラビンおよびメトプロロールはNEによるLong AFを有意に抑制した。一方、心臓エコー検査により、ビダラビンおよびメトプロロール投与マウスの左室駆出率(LVEF)を調べた。その結果、上記の投与量においてメトプロロールはLVEFを有意に減少させたがビダラビンはLVEFに影響を与えなかった。 以上のことから、AC5選択的抑制剤であるビダラビンが心機能を低下させることなくマウスの心房細動を抑制することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、交付申請書において平成26年度の研究実施計画に記載した研究を先行して進めた。具体的には、我々が心臓型アデニル酸シクラーゼ(AC5)選択的抑制剤として見出したビダラビンの心房細動抑制効果をマウスモデルで評価した。その結果、ビダラビンはヘルペス脳炎あるいは帯状疱疹に対して認可されている使用量と同等の使用量(15 mg/kg/day、計5日間)を投与することで既存のβ遮断薬であるメトプロロールと同等の心房細動抑制効果があることを明らかにした。さらに、ビダラビンにはメトプロロールと異なり心機能(左室駆出率)の抑制が認められなかった。これらの結果は、「AC5の選択的抑制剤を呼吸器系や心機能への副作用がなくβ遮断薬と同等の作用を有する新規治療薬として開発する」という本研究の目標に合致するものである。当該研究成果は平成24年度の日本生理学会(3月27日~3月29日:東京)において発表した。現在、論文の執筆を進めている。 ビダラビンは既にヘルペス治療薬として長年臨床で使用されてきたため、ヘルペス治療での投与量および投与方法において、ヒトに対する安全性は確立されている。したがってビダラビンの適応外使用としての医師主導型臨床試験を行うことが可能である。現在、横浜市立大学付属病院において術後心房細動を対象としたビダラビンの臨床試験が実施中である(UMIN000006026)。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策を以下に示す。 1.心室性不整脈に対するビダラビンの抑制効果を明らかにする。心室性不整脈のモデルマウスであるCasq2KOマウスに心室性期外収縮(VPC)を発症させる。当該モデルにおいてビダラビンならびにβ遮断薬のVPC抑制効果を解析する。 2.心房細動(AF)ならびに心室性不整脈発症におけるAC5-Epac1経路の重要性を明らかにする。AFについてはAC5TGおよびAC5TG-Epac1KOマウスを用いて解析を行う。平成24年度の研究で新たに見出したノルエピネフリン刺激後に発症するLong AFも評価項目として調査していく。現在、実験に必要なAC5TG-Epac1KOマウスのコロニーを作製中である。一方、複数の2重遺伝子改変マウス(AC5TG-Casq2KO、AC5KO-Casq2KOおよびEpac1KO-Casq2KOマウス)を用いて、心室性不整脈を解析する。AC5TG-Casq2KOマウスは実験に必要な数のコロニー作製を行なっている。また、AC5KO-Casq2KOおよびEpac1KO-Casq2KOマウスは現在Casq2KOマウスとの戻し交配を実施中である。 3.心房細動ならびに心室性不整脈発症の分子メカニズムを明らかにする。マウスの単離心筋細胞を用い、不整脈の発現のしやすさの指標であるCa2+ sparks出現頻度(CaSpF)を解析する。また、AC5-Epac1経路のターゲットであるリアノジン受容体(RyR)やホスホランバン(PLB)のリン酸化を心臓組織のウェスタンブロッティングで調べる。CaSpF出現頻度およびRyR・PLBのリン酸化はカテコラミン刺激により活性化されるが、AC5またはEpac1遺伝子欠損マウスでは、野生型と比較してこれらの活性化が有意に抑制されることが予想される。同様に、ビダラビンは上記の活性化を有意に抑制することが予想される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(1 results)