2012 Fiscal Year Research-status Report
In vivo 脳刺激による褐色脂肪細胞の分化誘導
Project/Area Number |
24790233
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
片岡 直也 京都大学, 生命科学系キャリアパス形成ユニット, 研究員 (20572423)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光遺伝学 / 褐色脂肪組織 / 誘導型褐色脂肪細胞 / 非ふるえ熱産生 / 交感神経プレモーターニューロン |
Research Abstract |
褐色脂肪組織は、その熱産生機能を通じた積極的なエネルギー消費によって肥満の防止に寄与する。最近、交感神経性の熱産生刺激を長期的に与えることで、白色脂肪組織中における誘導型褐色脂肪細胞(brite cell)の分化誘導を促進できることが示唆され、新たな肥満治療技術の開発につながるものとして注目されている。本研究では、褐色脂肪熱産生の制御に関わる延髄の交感神経プレモーター領域を、光遺伝学的手法を用いて長期的に刺激し、交感神経性熱産生を亢進させることで、brite cellの分化誘導を効率良く促進させる技術を確立する。 光遺伝学的手法を用いて延髄の淡蒼縫線核吻側部(rRPa)を中心とした交感神経プレモーター領域を刺激するため、特定波長の光を受けて神経細胞を活性化するカチオンチャネルChannelrhodopsin-2(ChR2)を発現させるアデノ随伴ウイルスベクターを作製した。申請者は、このウイルスをラットのrRPaおよび近傍のプレモーター領域に注入し、感染したニューロン群がChR2を発現することを組織学的に確認した。ChR2を発現させたrRPaの領域に麻酔下で光ファイバーを挿入し、in vivoで光照射を行ったところ、褐色脂肪組織交感神経の群放電活動の活性化を惹起できた。しかし、ChR2を用いた光刺激には強いレーザー光が必要であり(12 mW)、長期間の光照射による脳組織の損傷が懸念された。そこで、弱い光でも活性化する改良型ChR2(ChIEF)を発現させるウイルスを作製し、同様の光照射実験を行った。その結果、弱い光の照射(6―8 mW)でも十分に褐色脂肪組織の交感神経の群放電活動の活性化を惹起し、交感神経活性化に伴う褐色脂肪組織温度の上昇・脈拍上昇・血圧上昇なども観察された。今後は、これらの実験結果を基に、覚醒下での長期光照射によるbrite cellの分化誘導実験を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画では、①ChR2を発現させるウイルスを作製し、これを用いて、ラットのrRPaニューロン群にChR2を発現させること。②rRPaにてChR2を発現したニューロンに麻酔下でin vivo光照射を行い、褐色脂肪交感神経活動の活性化や褐色脂肪組織温度の上昇(熱産生)が生じるかを観察すること。③in vivo光照射において、効率的に褐色脂肪熱産生を惹起できる光照射条件を検討することを予定していた。 ①交感神経プレモーター領域のニューロンへのChR2遺伝子の導入 申請者はこれまでに、ChR2遺伝子導入に必要なウイルスを作製済みであり、本ウイルスをrRPaへ注入し、多数のニューロンにChR2を発現させることに成功した。さらに、光活性化効率を高めたChIEFを発現させるためのウイルスも作製し、脳内で感染することを確認した。 ②、③褐色脂肪組織交感神経活動を効率的に活性化するための脳内光照射条件の検討 交感神経プレモーター領域にてChR2を発現させたニューロンへの光照射条件の検討を、麻酔ラットを用いて行った結果、褐色脂肪交感神経活動を活性化することができた。しかし、来年度以降に計画している「テレオプトを用いた長期脳内LED照射によるbrite cell分化誘導のin vivo解析」では、脳組織へ傷害の少ない光照射条件が重要である。そこでChR2に替えて、弱い光でも十分に機能しうるChIEFを発現させるウイルスの作製を行った。ChIEFを発現させて同様の光照射実験を行った結果、長期的な脳内光照射が可能な程度の弱い光でも褐色脂肪交感神経活動を活性化することに成功した。以上のことから、現在までの達成度は計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の麻酔下での光照射実験により得られた、褐色脂肪組織の交感神経活動を効率的に活性化する光刺激条件を基に、平成25年度は覚醒条件下での長期LED照射によるbrite cellの分化誘導実験を行う。本研究の長期LED照射実験にはワイヤレスLED照射ユニット(テレオプト)を用いる。 ①テレオプトを用いた長期脳内LED照射によるbrite cell分化誘導のin vivo解析 テレオプトはワイヤレスユニットであることから電池容量に限りがあり、強い光を長時間照射することが困難であった。しかし、比較的弱い光でも十分に機能するChIEFを用いることでテレオプトを用いた長期LED照射が可能であると考えている。ラットのrRPaニューロン群にウイルスを用いてChIEFを発現させた上で、テレオプトのLED光源ユニットを頭部に装着し、rRPaへ挿入するファイバーを通じて光照射を行う。さらに、光照射に伴う交感神経の活性化が褐色脂肪組織の熱産生を惹起するか確認するため、腹腔内と褐色脂肪組織内へ温度測定用のテレメトリー発信器を埋め込み、深部体温と褐色脂肪組織温度を計時的に同時記録する。 ②分化誘導されたbrite cellの分子生物学的・形態学的解析 LED照射によって皮下白色脂肪組織中でのbrite cellの分化誘導が惹起されたか否かを確認するために、brite cellおよび褐色脂肪細胞が発現する分子マーカーであるUCP1や、褐色脂肪細胞分化に重要な役割を果たすPGC-1alpha, PPARgammaなどの発現量を、定量的PCR法により確認する。さらに、抗UCP1抗体を用いた白色脂肪組織の免疫組織染色を行うことで、brite cellが肥大化、もしくは増産されているかを組織化学的に観察する。そして、これらの解析から得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は本年度に引き続きウイルスベクター作製のための細胞培養関連試薬を消耗品として計上している。本研究に必要な高力価のウイルスベクターは、一度の大量の細胞培養ならびに精製からごく少量しか得ることができず、そのために大量の細胞培養培地・血清、プラスチック備品が必要となる。さらに、覚醒条件下での交感神経活性化に使用するテレオプトLED照射装置本体は、再利用が不可能なため、平成25年度は10個購入する費用を設備備品費に計上している。 長期LED光照射実験後の脂肪組織の機能解析に必要な、遺伝子発現解析試薬や、免疫組織化学実験のための抗体を購入する費用などを消耗品として計上している。さらに、生体内温度を同時に2カ所計測可能なテレメトリープローブは、脂肪組織の熱産生を計測する上で必要である。所属研究室では、同時に4匹の測定が可能なテレメーターシステムを導入している。解析時間の短縮のため、4個のテレメトリープローブが必要と考えており、購入費用を設備備品費に計上している。
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Research Products
(3 results)