2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒト母性獲得メカニズムの脳・内分泌・遺伝子連関からの解明
Project/Area Number |
24790235
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
西谷 正太 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (50448495)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 発達・成長・老化 / 母性 / エピジェネティックス / ホルモン / メチル化 / NIRS |
Research Abstract |
児童虐待の7割は実の母親が虐待者であり、母性の未熟性が指摘されている。未熟な母性の発達を促すには、「母性が如何なる過程を経て獲得されるのか」の解明が必要と考え、研究目的とした。本年度は、母性愛を反映している可能性のある脳活動(わが子の映像を呈示し、他児の映像の呈示条件と比較した脳活動)を測定済みの母親43名を対象に、採取済みの唾液試料からDNA抽出し、オキシトシン受容体(OXTR)遺伝子プロモーター領域のメチル化解析を行った。この領域のメチル化率は、健常者に比べ、自閉症スペクトラム患者で高いことに加え、社会性に関する脳活動との相関性も報告されている。そこで、この領域に絞ったメチル化解析を進めた。現在、方法論を確立し、10名分のメチル化解析を実施したが、残りの解析は次年度に実施する計画である。また、唾液由来のDNAメチル化の特性を、他の生体試料(PBMC、全血)とも比較するべく、各生体試料別のDNA(10名分×3種類)との相関性を調べている。一方、本研究では、上記の対象者に加え、未産婦10名、前向きコホート24名(妊娠12週、30週、産後4ヶ月、10ヶ月)からの生体試料採取も行った。更に、一卵性双生児1組から生体試料(1人が母親、もう1人が未産婦)を採取し、この検討を行った。その結果、自閉症スペクトラム患者でメチル化率が顕著に高かったとされる5つのCpG部位のうち、3箇所(-860、-934、-959)のメチル化率について、母親では未産婦に比べ、低いことがわかった。この結果から、母親では同プロモーター領域に脱メチル化が生じている可能性が示唆された。同領域のメチル化率が、母性愛を反映した脳活動と如何なる関係にあるかを調べ、次年度では、更なる証拠を明らかにしたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまであまり試みられてこなかった唾液試料を用いたDNAメチル化解析手法を確立した点が大きな進捗となった。ヒトを対象としたメチル化解析の場合、PBMCなどの採血を必要とする生体試料を用いる場合が多いが、唾液由来のDNAはその74%が白血球であるとされ、侵襲性のない新たな解析方法となり得る。本研究では、他の生体試料との比較も同時に進めることで、この妥当性の検証も行っている。一方、当初計画に含めていなかった一卵性双生児間のメチル化解析も行った結果、申請者の仮説に沿った違いが見出された為、他の解析の結果もこれを支持する可能性が高まった。また、メチル化解析を行う生体試料については、当初計画の大半を採取・保存することができた為、次年度は追加試料の採取と、解析が中心となる。こうしたことを鑑み、初年度としては、おおむね順調に進展しているものと判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、母性愛を反映している可能性のある脳活動を測定済みの母親の唾液由来DNAからのOXTR遺伝子プロモーター領域のメチル化解析を継続して行う。同時に、各生体試料別のDNAメチル化解析も行い、唾液由来のDNAメチル化の特性を、他の生体試料(PBMC、全血)と比較する。また、未産婦、前向きコホートの解析も開始し、横断的、縦断的な比較を行うと共に、死後脳組織での検討も進め、脳での特性との関連性も明らかにすることで、更なるデータの質を担保する。これらを踏まえ、ハイリスクな母親から生体試料を得ることで、メチル化解析を開始し、ここまでの成果を鑑み、実際に虐待の予防に資するバイオマーカーとなり得るかを検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、本年度確立した標的領域のメチル化解析に使用する消耗品等が研究費の使用用途の大半となる。また、死後脳組織の入手・解析については、初年度の解析の目途が経った後に行うことに計画を変更した為、次年度はこれを入手する為の研究費の使用も計画している。また、メチル化解析の補助にあたる者の人件費、謝礼等を計上することで、解析の迅速化を図る。論文の投稿費、英文校閲料、学会旅費についても、一部、使用する予定である。
|