2012 Fiscal Year Research-status Report
「ケトン体代謝により制御されるエピゲノム修飾と糖尿病の関連性の解明」
Project/Area Number |
24790244
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
上番増 喬 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (10581829)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 栄養学 / エピゲノム / ケトン体 / 代謝の流れ |
Research Abstract |
近年、グルコースを代謝する過程で産生されるアセチルCoAが、ヒストンのアセチル化修飾に用いられることが明らかとなり(Science 2009)、栄養代謝とエピゲノムに関する研究が脚光を浴びてきている。栄養代謝とエピゲノムの関連性における重要な発見は、成人病胎児期発症説に代表される、胎生期の栄養環境が、成人期以降の疾病発症に影響を及ぼすことの発見である。しかしながら、その分子基盤は不明である。 エピゲノム修飾の変化は、栄養代謝と密接に関連することから、ケトン体に着目した。ケトン体は、飢餓や長期間の絶食により、細胞内グルコースが枯渇した場合に、肝臓で合成され、脳や神経細胞等で代替エネルギーとして利用される代謝産物である。さらに、ケトン体は、ヒストン修飾や細胞分化調節作用を有するβ-酪酸と構造が類似しており、ケトン体も同様の作用持つことが予想される。 そこで、ケトン体がエピゲノム修飾に及ぼす影響を、初代培養肝細胞を用いて検討した。ケトン体の一つであるβ-ヒドロキシ酪酸が、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(BDH)依存的に、ヒストン3リジン9(H3K9)のメチル化を調節することを見出した。すなわち、ミトコンドリアに局在するBDH1をノックダウンした細胞では、H3K9のメチル化が増加し、反対に細胞質に局在するBDH2をノックダウンした細胞では、H3K9のメチル化が減少した。つまり、ケトン体の流れ(ketone body flux)を含むケトン体代謝の変化はエピゲノム修飾に影響することから、糖尿病や代謝異常の発症リスク変動に寄与することが想定される。今後、「ケトン体とその代謝の流れ」で生じるエピゲノム修飾の変化が、細胞機能にどのように影響するかを明らかにすること目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
in vitroの解析は、当初の計画以上の進展が見られた。今回注目したケトン体代謝は、組織特異性が高い一方、その機構については古くから研究されている。今年度は、初代培養肝細胞と膵β細胞株といった異なる組織に由来する細胞を用いて検討を行った結果、それぞれの細胞で異なるエピゲノム修飾の変化が見られた。つまり、一つの代謝経路に注目しても、細胞特異的な反応を見出すことができる。これは、エピゲノム修飾が、代謝の流れの変化を鋭敏に感知していることを示すと考えられる。 一方で、マウスを用いたin vivoの研究が順調に進まなかった。動物の導入や、解析系の確立に想像以上の時間を費やすことになった。次年度は、動物実験に関する助言を共同研究者などから積極的に取り入れ、効果的に研究を推進できるように努める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、ケトン体代謝の流れが、初代培養肝細胞において、ヒストン修飾の調節に関与することが明らかとなった。これまでの報告においても、代謝がエピゲノム修飾を制御し、ひいては細胞機能をコントロールすることが明らかとなっている。次年度では、この「代謝の流れ」とエピゲノム修飾、細胞機能の関連性を検討する。すなわち、「ケトン体の流れ」を変化させ、それに伴うエピゲノム修飾の変化とストレス耐性等の細胞機能に重点を置いて検討を進める。加えて、ケトン体代謝の流れ」により、細胞機能が著しく変化した膵β細胞については、糖尿病モデル動物などを利用し、病態と代謝の流れ、エピゲノム修飾の関連性について検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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