2012 Fiscal Year Research-status Report
薬剤性腎障害発現における腎細胞分子機構の解明と腎保護薬に関する薬理学的研究
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24790255
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
矢野 貴久 九州大学, 大学病院, 薬剤主任 (90532846)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 腎障害 / バンコマイシン / アポトーシス / ミトコンドリア / 活性酸素種 |
Research Abstract |
(研究目的)医薬品の使用により引き起こされる急性腎不全は薬剤性腎障害と呼ばれ、中でも抗がん剤や抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬やヨード造影剤等による腎障害は発現頻度が特に高い。しかしながら多くの薬剤では腎細胞や腎組織への直接的な薬理作用は想定外であり、腎障害の発現機序はほとんど明らかにされていない。バンコマイシン等の抗菌薬では治療薬物モニタリング(TDM)による血中濃度管理により、腎障害発現の回避が図られているが、血中濃度管理そのものが困難なケースも多くあり、薬剤性腎障害に対する有効な対策法は確立していないのが現状である。本研究は、薬剤性腎障害発現における腎細胞分子機構を薬理学的手法により解明し、腎保護薬を見出すことを目的とした。 (研究方法)ブタ近位尿細管由来LLC-PK1細胞に各種薬剤を曝露して細胞障害を誘導し、WST-8法ならびに乳酸脱水素酵素(LDH)漏出量測定により細胞生存率の変化を評価した。アポトーシスおよびネクローシスの判定には、propidium iodide (PI) 染色法、annexinV染色法およびTUNEL染色法を用いて、フローサイトメーターにより解析した。活性酸素種(ROS)の評価には蛍光指示薬のDCF-DAやMitoSOXを用いた。ミトコンドリア機能評価は、ミトコンドリア膜感受性試薬JC-1を用いた。 (研究成果)抗MRSA薬バンコマイシンは、LLC-PK1細胞に濃度および時間依存的なアポトーシスを引き起こし、その障害発現には、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性低下に基づく活性酸素種産生(ROS)が関与することが明らかとなった。一方、抗酸化剤ビタミンEを併用処置すると、ミトコンドリア由来のROS量が低下し、バンコマイシンによる腎細胞アポトーシスが有意に抑制されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、薬剤性腎障害発現における腎細胞分子機構を薬理学的手法により解明し、腎保護薬を見出すことを目的としているが、初年度においてはブタ近位尿細管由来LLC-PK1細胞を用いたin vitro評価モデルを作製し、同モデルを用いることで抗MRSA薬バンコマイシンによる腎細胞障害分子機構を明らかにすることに成功した。加えて、バンコマイシンによる腎細胞アポトーシスが、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性低下や活性酸素種の上昇、さらにはミトコンドリア機能異常に起因するとの研究成果を基にして、抗酸化剤ビタミンEに着目して検討を進めた結果、ビタミンEの併用によりバンコマイシンによるミトコンドリア由来活性酸素種産生が低下し、腎細胞アポトーシスが抑制されることを見出した。これまでに用いた手法や得られた成果の多くは、当初の研究計画において想定していたものであり、いずれも次年度における研究の基盤となるものである。したがって本研究は、おおむね順調に進展していることが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果を基に薬剤性腎障害発現における細胞分子機構のさらなる解明を行うと共に、これまでに明らかとなった腎障害機序に基づき、腎障害を抑制可能な腎保護薬物の探索を行う。加えて、それらの有用性評価を行う。in vivoモデルでの腎障害の判定には、(1)血清クレアチニン値および血中尿素窒素(BUN)の変化、(2)腎尿細管細胞障害の指標である尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)の変化、さらに(3)腎臓切片をPAS染色およびTUNEL染色した際の病理的所見を指標とする。一方、腎障害の発症機序には、腎細胞への直接的な障害作用の他に、ナトリウムやカリウムの欠乏および血管収縮による腎血流量の低下などの関与が考えられることから、化学療法剤投与による,血清中の電解質濃度変化および、血液中のエンドセリンや一酸化窒素、プロスタグランディン、アデノシンといった血管作用因子の動態変化について検討を行なうとともに、腎血流をモニターし、各薬剤処置による腎血流量の変化を検討する。上記までの検討により腎保護効果が認められた薬物については、保護薬物の副作用や、併用による各薬剤の主作用への影響を検討する。抗がん剤の抗腫瘍効果への影響は、担癌マウスの腫瘍体積への影響により評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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