2013 Fiscal Year Research-status Report
男性型不妊にかかわるバソプレッシン受容体異常の研究
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24790259
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
土屋 裕義 自治医科大学, 医学部, 助教 (80508755)
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Keywords | バソプレッシンV1a受容体 / 欠損マウス / 分娩 / オキシトシン受容体 |
Research Abstract |
前年度の結果からバソプレッシン受容体ならびにオキシトシン受容体は雄性生殖器に発現していることが分かった。そこで当該年度は、受容体遺伝子欠損マウスを用いて生殖機能異常の解析を行った。 今回の研究に先だって行った解析から、バソプレッシンV1a受容体欠損マウスで産仔数の減少が観察されていた。そこで、それがオスとメスのどちらに由来する障害なのか解析を進めた。すなわち野生型マウスとV1a受容体欠損マウスのオスとメスについて、それぞれのホモとヘテロの4通りの組み合わせの交配を行い、生殖機能の異常を観察した。その結果、野生型のメスを用いた群では産仔数の減少などの異常は観察されず、V1a受容体欠損マウスを用いた群でのみオスの遺伝子型にかかわらず生殖異常が観察された。このことから産仔数減少などの生殖異常はメスの遺伝子型に由来することが明らかとなった。また、胎仔がV1a受容体遺伝子を持つ場合も母体の遺伝子型に依存して障害が見られることから、観察された異常は受精卵や胎仔に由来するものでもないことが示唆された。 これまでの報告から、V1a受容体ならびにオキシトシン受容体は、子宮収縮に重要な役割を持つことが示されている。実際にオキシトシン受容体は妊娠後期にかけて発現増加し、一方のV1a受容体は発現変動はないものの子宮での発現が観察されている。こうした報告のほとんどがヒトや大型実験動物であるヒツジで行われたものであるため、遺伝子欠損マウスを利用する都合上マウスでの発現変動を解析する必要があった。そこでマウスにおける発現変動を調べたところ、ヒトなどと同様にオキシトシン受容体は妊娠後期にかけて子宮での発現が増加する傾向が観察され、V1a受容体は変化していないことが分かっている。これはバソプレッシン受容体やオキシトシン受容体の発現変化が種を超えて保存されていることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度にin vitroの解析、平成25年度にin vivo の解析を行うことにより、生殖領域におけるバソプレッシンV1a受容体の重要性が明らかとなった。具体的にはこれまで不明であった雄性生殖器におけるV1a受容体の発現から、オスの生殖生理へのV1a受容体の関与が示唆され、V1a受容体遺伝子欠損マウスの解析においてメスの遺伝子欠損が生殖障害を誘導したことから、メスの生殖生理へのV1a受容体の関与も示唆されている。こうしたV1a受容体に注目した生殖領域の報告は無く、今回の結果は生殖障害の成因解析や治療薬開発に有益な新規知見であると考えられる。一方で、これまでの解析では未だ明らかとされない点も数多く残されている。オスの解析では、雄性生殖器に見られるV1a受容体の発現がどのような機能に関与しているのか分かっていない。また、メスに関して言えば観察された生殖異常がどの組織のどの細胞の役割が消失したものによるのかが分かっていない。これらを解決するためには、早急にV1a受容体の生殖組織における分布を明らかにすることが必要である。 以上をまとめると、一連のin vitroとin vivo の解析により新たな問題点が明らかとなり、解析すべき対象が当初の想定よりも広範囲にわたることが洗い出された。研究開始時点では想定されなかった研究対象の拡大に対して柔軟に対応することで、V1a受容体が内包する真の生理的重要性に到達できることと考えられる。今後はオスとメスのそれぞれの生殖組織とV1a受容体の関わりについて、分布解析を中心に明らかにすることを研究の中心とする予定である。 これまで全く議論されなかった観点からV1a受容体の重要性を解析することは創薬においても重要な知見を与えるものであると確信している。また、V1a受容体の機能を詳細に解析している点では当初の目的を達している。
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Strategy for Future Research Activity |
今回のin vivoの解析から、バソプレッシンV1a受容体欠損マウスで観察された産仔数減少などの障害はオスの精子異常よりも、むしろ母体のV1a受容体の欠損で生じる可能性が高いことが考えられた。また、ヘテロ交配の実験から胎仔の遺伝子型に依存せずに異常が現れることから、胎仔からの因子によるものではないことも示唆された。これらのことから、当初の想定にあったとおり、オスの生殖器異常に加えて、メス側の異常についても焦点を当てる必要が生じたと考えられる。 これまでの研究からオキシトシン受容体の発現については多くの知見が蓄積し、分娩に関与していることが明らかとなり臨床的にも利用されている。しかしながら、類縁であるV1a受容体に関しては、生殖組織での発現が見られるにもかかわらず、ヒトだけでなくマウスなどの実験動物でもその詳細な解析は行われていない。そこで、まず生殖組織内のどの細胞に発現しているかを明らかにすべく、V1a受容体の分布解析を優先して行うことを予定している。 当年度までの解析からV1a受容体はオスの精巣上体で強い発現が観察されている。精巣上体は精子の成熟に関わる組織であることが知られているため、V1a受容体欠損マウスでは精子の成熟不全が想定される。そこでオス生殖組織では精巣上体を中心にin situ hybridization等を行うことにより、その発現分布を解析する。一方で、in vivoの実験ではメスのV1a受容体欠損が産仔数減少などの障害をもたらすと推察された。そこで、メスの組織では排卵に直接的に関わる卵巣やその後の分娩に至るまで胎仔を捕捉する子宮について同様に分布解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度までの解析から、バソプレッシンV1a受容体は生殖生理に関与していることが明らかとなったが、生殖組織での分布報告は全くない。今後の詳細な解析を遂行するためには、V1a受容体の分布情報は必要不可欠であるが、技術的制約のため解析には困難を伴った。mRNAの分布を解析するin situ hybridizationも受容体の発現量が少ない問題があったが、申請者は特殊な技術を利用して感度が高いin situ hybridizationの系(米ACD社)を行うべく準備を進めている。 この技術を利用するためにはV1a受容体の特殊なプローブの作製や専用試薬を準備する必要があるが、その設計などに時間を要し、納品及び支払い請求が年度を跨いでしまった。そのため、25年度の使用額に次年度繰越分が発生している。 注文しているバソプレッシンV1a受容体の特殊プローブが届き次第、in situ hybridizationによる分布解析を進める。 当年度までの解析からV1a受容体はオスの精巣上体で強い発現が観察されている。そこで、その部分を中心にin situ hybridizationを行い真に発現している細胞を同定する。一方で、in vivoの実験ではメスのV1a受容体欠損が産仔数減少などの障害をもたらすと推察された。しかしながら、これまでの解析ではどの組織のV1a受容体の影響か明らかとなっていない。そこで、メスでは卵巣や子宮を中心に分布解析を同様に行う。 このように広範囲での分布解析が必要なため、in situ hybridizationを行うためのコストも大きなものとなる。今回の繰越金額はその分の解析に必要なものであり、速やかに消費されるものである。
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