2012 Fiscal Year Research-status Report
活性化マイクログリアにおけるCOX-1の機能に関する検討
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24790269
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
宿里 充穗 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 脳病態統合イメージングセンター 分子イメージング研究部, 流動研究員 (20525571)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | シクロオキシゲナーゼ / 神経変性 / PET |
Research Abstract |
これまでに我々は、Cyclooxygenase(COX)-1がマイクログリア細胞内に発現し、神経炎症時には発現量の増加または活性が亢進されることをPETを用いたin vivoイメージング実験により明らかにしている。本研究課題ではマイクログリアの活性化におけるCOX-1の機能、さらに種々の神経変性疾患の発症過程におけるCOX-1の役割について明らかにすることを目的として検討を行った。 COX-1が神経炎症に及ぼす影響について明らかにするために、COX-1遺伝子欠損マウス脳内にリポポリサッカライド(LPS)を局所注入し、誘発される神経炎症反応の変化について観察したところ、活性化マイクログリア細胞の数は野生型マウスと比較してCOX-1遺伝子欠損マウスで減少することが判った。一方、COX-2遺伝子欠損マウスではほとんど変化を示さなかった。この結果から、マイクログリアの活性化を誘導する際にCOX-1が重要な役割を担うことが示唆された。 次に、中大脳動脈閉塞再灌流による一過性脳虚血障害モデルラットを作製し、COX-1特異的PETプローブ、[C-11]KTP-Meを用いたPET実験により、神経障害および修復の過程におけるCOX-1の動態をモニタリングした。虚血再灌流後5時間より1日までの早期の段階では、[C-11]KTP-Meの集積は梗塞巣周辺部に高かったが、1日後以降では神経細胞死が顕著な梗塞巣において著しく亢進し、その後、3日後にピークを示して徐々に減少することが判った。組織化学的な検討の結果、この[C-11]KTP-Me集積の経時変化はOX-42陽性細胞(活性化マイクログリア/マクロファージ)の経時変化と良く一致しており、脳虚血傷害後の神経炎症過程においてもCOX-1はマイクログリアの活性化に深く関与することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画のうち①COX-1遺伝子が神経炎症に及ぼす影響に関しては、COX-1、COX-2遺伝子欠損マウスを用いたLPS誘発炎症モデルにおける検討を行い、COX-1遺伝子の欠損により神経炎症反応が抑制されることが明らかとなった。一方、COX-2遺伝子欠損マウスでは明らかな変化を認めなかった。この結果により、マイクログリアの活性化を誘導する因子としてCOX-1が重要であることを具体的に証明できたと考えられる。続いて、②COX-1が神経障害過程に及ぼす影響に関しては、神経細胞死から修復の過程を反映し、より実際の疾患病態に則した動物モデルとして一過性脳虚血障害モデルを用いた検討を進めた。一過性脳虚血障害モデルラットのPET実験では、神経障害後に生じる神経炎症反応過程においてもCOX-1がマイクログリアの活性化に重要な役割を果たす可能性をin vivoイメージング条件下で捉えることができた。同時に、活性化マイクログリアの特異的マーカーとしてCOX-1が有用であり、脳虚血障害後の炎症の評価ツールとして診断や治療方針決定に活用できる可能性が示唆された。 上記の研究遂行状況から、当初の計画通り、神経炎症過程におけるCOX-1機能と動態の基礎的解析は順調に進められていると言える。また、次段階にある診断・治療ターゲットとしての活用へ向けた検討の準備も開始し、有用である可能性を示唆する結果も得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの検討では、マイクログリアの活性化を誘導する過程でCOX-1が重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。この結果を受け、次年度はCOX-1を発現する活性化マイクログリアが神経障害または修復においてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることを目的として研究を進める。 一過性脳虚血障害モデル動物におけるCOX-1の動態についてはPET実験により明らかになったところであるが、この虚血障害におけるCOX-1の機能について下記の項目に従って検討する予定である。 ①COX-1遺伝子欠損による虚血障害の変化:COX-1が関与するマイクログリアの活性化が、一過性脳虚血後の脳内において神経障害を増悪させることに関与するのか、むしろ修復に関与するのか等、その機能の特性について明らかにしたいと考え、COX-1遺伝子欠損マウスを用いて虚血再灌流後の神経炎症、神経細胞死の程度をin vivo(PET実験など)とin vitro(生化学実験など)の両側面から解析する。また、この時に脳内で生成されるプロスタグランジン(PG)サブタイプそれぞれの変化についても定量解析し、その変化パターンによってもCOX-1機能を特徴づける知見が得られると期待される。 ②COX-1選択的アゴニストまたはアンタゴニスト投与による虚血障害の変化:上記検討①の結果を踏まえて、COX-1が治療薬剤のターゲットとして有用であるかについて検討を行う。また、PETによる薬物動態学的な検討も併せて行い、薬剤開発に有用な知見を得ようと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は前述の研究計画に従い、実験動物(COX-1遺伝子欠損マウス、正常ラット)の購入に研究費を使用する。PET撮像実験に必要な試薬と消耗品、生化学実験に必要な抗体などの染色用試薬、ディスポーザル実験器具の購入も予定している。最終的に、研究成果の発表を目的として論文投稿および学会参加を行うため、英文校正費、投稿料、学会参加費、旅費等の必要経費に研究費を使用する。
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