2012 Fiscal Year Research-status Report
スフィンゴ糖脂質による腸管上皮細胞の消化吸収機能の制御メカニズム
Project/Area Number |
24790298
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
田島 織絵 中部大学, 生命健康科学部, 准教授 (10362237)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | スフィンゴ糖脂質 / 腸管上皮細胞 |
Research Abstract |
本研究では糖鎖改変マウスで認められた消化吸収障害の分子基盤を明らかにし腸管上皮細胞機能調節におけるスフィンゴ糖脂質(GSLs)の具体的な役割とその作用メカニズムの解明を目指している. まず,GM2/GD2合成酵素遺伝子およびGD3合成酵素遺伝子欠損(DKO)に伴う小腸GSLsの発現パターンの変化を検討した結果,野生型(WT)マウスでは主にGA1やfucosyl-GA1を発現していたが,DKOマウスではLacCerやスルファチドの発現が顕著であった.また,WTマウス,DKOマウスのいずれにおいても,これらのGSLsはほとんど脂質ラフト分画に存在していた.さらに,小腸から絨毛部上皮細胞とcrypt部未分化細胞を単離し,それぞれから脂質ラフト分画を調整してラフト構成分子群のfloatingパターンを検討した.いずれの部位においてもFlotillin1やCaveolin1などのラフトマーカー分子の挙動に変化は認められなかったが,DKOマウスでは絨毛部においてGalectin4のラフト局在やラフト分画のコレステロール濃度が著しく低下しており,GSL組成の変異に伴ってラフトの分子構成に異常をきたすことが確認された. また,本DKOマウスでは栄養障害に起因すると思われる成長障害を示すため,腸管上皮細胞における栄養素輸送関連分子の発現変化を検討した.DKOマウス空腸では脂肪酸輸送体FAT/CD36の発現が減少傾向にあったが,他の脂質輸送関連分子の発現量に有意な差異は認められなかった.しかし,これらの分子のラフト局在を検討した結果,FAT/CD36やFATP4のラフトでの発現量はWTマウスに比較してDKOマウスで減少していた.さらに,単離した腸管上皮細胞を用いて脂肪酸の取り込み能を検討した結果,WTマウスに比較してDKOマウスでは脂肪酸取り込み能が低下していた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,特に成熟上皮細胞の消化吸収機能と未分化細胞の増殖・分化シグナルに着目してラフトを介したGSLsの役割を細胞レベルで検討するため,5つの実験(① GSL組成変化や脂質ラフト構成分子に対する影響を生化学的に検討する.②成熟吸収性上皮細胞の分布を組織形態学的に検討する.③消化吸収関連分子の発現量および細胞内局在を分子生物学的に検討する.また,脂肪やグルコース負荷による栄養素輸送体発現の変化と消化吸収能を検討する.④Crypt部未分化細胞の増殖・分化状態について形態学的および分子生物学的に検討する.⑤糖鎖リモデリング細胞(初代培養)を用いて上記より抽出した機能異常メカニズムを検討する.)を計画した. 平成24年度は,主に糖鎖変異に伴う成熟上皮細胞の消化吸収機能異常についての検討を進めてきた.実験計画の変更(着手順位の変更)に伴い,in vivoでの栄養素吸収能の検討(高脂肪食負荷実験)については,現在,実験準備を進めている段階であるが, これまでの解析から,特に腸管上皮細胞においてはGSLsが脂質ラフト構成分子の局在を制御し,脂肪酸輸送に関与している可能性を見出している. また,平成25年度には,糖鎖リモデリング細胞(初代培養)を用いた腸管機能異常メカニズムの検討(実験⑤)を予定しているが,本年度,腸管上皮細胞の培養系確立のための予備検討にも着手した.単離した成熟上皮細胞の長期培養系の確立には至らなかったが,現在,クリプト未分化細胞からの成熟腸管上皮細胞培養を試みており,3次元培養系において絨毛様の構造を形成することが確認できている.今後,至適培養条件の検討を行う必要があるが,25年度に計画しているin vitroでの詳細なGSLsの作用メカニズムの検討に用いる目処がついたと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,現在進行中の高脂肪食負荷実験を行ないin vivoでの脂質吸収能を検討する.また,25年度実験計画に従い,crypt部未分化細胞の増殖・分化状態やアポトーシスについて形態学的,分子生物学的に解析し,GSL変異の影響を検討する.具体的には①cryptに焦点をあて,形態学的変化(HE染色)および幹細胞の増殖状態(増殖マーカーKi-67抗体による免疫染色,BrdUアッセイなど)やアポトーシス状態(TUNEL染色,抗caspase-3抗体による免疫染色など)について検討する.②小腸上皮よりcrypt部の細胞を分離採取し,Western blottingによりcryptマーカー分子(CD133,c-mycなど)の発現レベルをWTマウスとDKOマウスで比較検討する.③crypt部におけるWnt経路関連分子(β-catenin,GSK-3,EphB2など)や増殖,分化シグナル経路関連分子(Erk1/2,p38,Aktなど)の発現レベルやリン酸化レベルについて検討する. 最終的には,これまでの解析から明らかとなったGSL変異に伴う腸管上皮細胞機能異常に焦点をあて,糖鎖変異マウス由来初代培養細胞を用いて具体的な作用メカニズムを検討する. そのために,①樹立した細胞株に脂肪酸またはグルコース,アミノ酸等を添加し,膜輸送体の発現変化や細胞内局在変化およびシグナル経路を検討する.②成長因子添加や増殖刺激時におけるラフト局在分子の変化や細胞内シグナル変化を検討する.③methyl-β-cyclodextrin処理による細胞膜コレステロール除去を行なって上述と同様の実験を行ない,ラフト構造との関連を検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に予定していた実験補助員の雇用が困難となり,また,海外出張も延期となったため,55万円程度の繰越金が生じた.平成24年度からの繰越額のうち,40万円程度は現在進行中の高脂肪食負荷実験のための飼料代,マウス飼育費,血液生化学検査試薬等に使用する.また,25年度に計画している実験のうち,マウス由来腸管細胞の培養は3次元培養が必要であり,特異的な成長因子や阻害薬を必要とするため,当初の予算20万円に24年度の繰越額の残り15万円程度を加えた35万円程度を使用する予定である.その他は25年度予算に計上した通り,生化学・分子生物用試薬に25万円程度,組織化学用試薬に20万円程度を使用する予定である.また,サンプルの採取や保存に用いるドライアイス,液体窒素等に10万円程度使用する.25年度にも継続して遺伝子改変マウスの使用を計画しており,中部大学動物実験施設におけるこれらの維持・管理費は月2~3万円,年間約30万円程度必要であると考えられる. 本研究を効率的に遂行するために実験補助員の雇用を検討している.実験補助員は週3日の勤務と考え,月5万円程度,年間約50万円で概算した. 国内外の学会および関連シンポジウム参加のための旅費として計35万円,学会発表ポスターや投稿論文等の作成に必要な紙,インク代等の印刷費として10万円程度を予定している.
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