2013 Fiscal Year Research-status Report
スフィンゴ糖脂質による腸管上皮細胞の消化吸収機能の制御メカニズム
Project/Area Number |
24790298
|
Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
田島 織絵 中部大学, 生命健康科学部, 准教授 (10362237)
|
Keywords | スフィンゴ糖脂質 |
Research Abstract |
本研究では糖鎖改変マウスで認められた消化吸収障害の分子基盤を明らかにし腸管上皮細胞機能調節におけるスフィンゴ糖脂質(GSLs)の具体的な役割とその作用メカニズムの解明を目指している. これまでの解析から,GM2/GD2合成酵素遺伝子およびGD3合成酵素遺伝子欠損(DKO)マウス小腸ではGA1の欠失に伴ってLacCerやスルファチドが増加し,腸管ラフトの構成分子異常が確認された.加えて脂肪酸輸送体であるCD36やFATP4のラフト局在の減少や脂肪酸吸収能の低下を認め,腸管での脂質吸収におけるGSL構造の重要性が明らかとなった. 25年度は実験計画に従い,crypt部未分化細胞の増殖・分化状態やアポトーシスについての解析を進めた.まず,小腸の組織形態学的な検討を行なった結果,糖鎖改変マウスでは野生型マウスに比較して絨毛部の長さが20%ほど長く,細胞数も27%ほど多く存在していた.crypt部では細胞数の顕著な差異は認められなかったが,増殖マーカー分子であるPCNAやKi-67を標的とした免疫染色の結果,糖鎖改変マウスにおいてcrypt部での陽性細胞数が有意に増加しており,増殖が亢進していることが示唆された.一方,アポトーシスの亢進は確認されなかった.さらに,crypt部未分化細胞の単離法を確立し,腸管幹細胞マーカー分子や種々の受容体の発現レベルを検討した.その結果,糖鎖改変マウスにおいてWnt 受容体(Frizzled)やWnt標的分子(Ascl2及びSox9)の発現亢進を認めた.以上の結果より,糖鎖変異に伴いWntシグナルが増強されて未分化細胞の増殖が亢進したことが示唆され,糖脂質糖鎖は腸管上皮未分化細胞の増殖調節に関与するという新たな生体内機能が明らかとなった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究では,特に成熟上皮細胞の消化吸収機能と未分化細胞の増殖・分化シグナルに着目してラフトを介したGSLsの役割を細胞レベルで検討するため,5つの実験(① GSL組成変化や脂質ラフト構成分子に対する影響を生化学的に検討する.②成熟吸収性上皮細胞の分布を組織形態学的に検討する.③消化吸収関連分子の発現量および細胞内局在を分子生物学的に検討する.また,脂肪やグルコース負荷による栄養素輸送体発現の変化と消化吸収能を検討する.④Crypt部未分化細胞の増殖・分化状態について形態学的および分子生物学的に検討する.⑤糖鎖リモデリング細胞(初代培養)を用いて上記より抽出した機能異常メカニズムを検討する.)を計画した. これまでに,糖鎖変異に伴う成熟上皮細胞の消化吸収機能異常についての検討(実験①~③)を行ない,特に腸管上皮細胞においてはGSLsが脂質ラフト構成分子の局在を制御し,脂肪酸輸送に関与している可能性を見出した.25年度は計画に従い糖鎖改変マウスを用いて15週間の高脂肪食負荷実験を実施したが,期間中に糖鎖改変マウスが突然死を頻発したために本実験の追加が必要となり,予定していた解析が遅延した.現在,高脂肪食負荷実験を進行しており,in vivoでの脂質吸収能を検討中である. また,Crypt部未分化細胞の増殖・分化状態についても検討を進めており(実験④),糖脂質糖鎖は腸管上皮未分化細胞の増殖調節に関与するという新たな生体内機能が示唆された. 26年度には糖鎖リモデリング細胞(初代培養)を用いた腸管機能異常メカニズムの検討(実験⑤)を予定しているが,すでに3次元培養によるクリプト未分化細胞からの成熟腸管上皮細胞培養の予備検討は終了しており,26年度に計画しているin vitroでの詳細なGSLsの作用メカニズムの検討に用いる目処がついたと考える.
|
Strategy for Future Research Activity |
まず,現在進行中の高脂肪食負荷実験を行ないin vivoでの脂質吸収能を検討する.具体的には,野生型マウス,及び,糖鎖改変マウスに高脂肪食を負荷し,①体重変化や血液生化学的変化(血糖,中性脂肪,コレステロールなど)を比較検討する.また,蓄積脂肪量や組織形態学的変化についても検討を加える.②脂肪酸輸送関連分子(FABP,FAT,FATP),コレステロール輸送体(SRB1),細胞内脂質代謝関連分子(MTP,ApoB,AceCS,Perilipin)などの発現変化を検討する.③脂質ラフト分画や膜分画(Opiti-Prep法)を調製し,各脂肪酸輸送体の細胞内局在を明らかにする.脂質ラフトへの局在が確認できた場合,免疫沈降法により脂質ラフト(カベオラ)常在分子であるCaveolin-1や残存GSLsとの分子会合についても検討を加える.④インスリン感受性や炎症応答の変化について検討する. 最終的には,これまでの解析から明らかとなったGSL変異に伴う腸管上皮細胞機能異常に焦点をあて,糖鎖変異マウス由来初代培養細胞を用いて具体的な作用メカニズムを検討する. そのために,①樹立した細胞株に脂肪酸またはグルコース,アミノ酸等を添加し,膜輸送体の発現変化や細胞内局在変化およびシグナル経路を検討する.②成長因子添加や増殖刺激時におけるラフト局在分子の変化や細胞内シグナル変化を検討する.③methyl-β-cyclodextrin処理による細胞膜コレステロール除去を行なって上述と同様の実験を行ない,ラフト構造との関連を検討する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の計画に従い糖鎖改変マウスを用いて15週間の高脂肪食負荷実験を実施したが、期間中に糖鎖改変マウスが突然死を頻発したために本実験の追加が必要となり、予定していた解析が遅延した。また、上記の高脂肪食負荷実験に予定以上のマウスが必要となったため、計画していた糖鎖改変マウス由来初代培養細胞を用いた検討ができず、至適培養条件の検討のみにとどまった。以上の理由により未使用額が発生した. このため未使用額は引き続きマウスの飼育(高脂肪食負荷を含む)とその後の生化学的分析、およびマウス由来初代培養細胞を用いた腸管上皮細胞機能解析に使用する。
|