2012 Fiscal Year Research-status Report
住血吸虫性肝障害発症プロセスにおける、肝臓特異的免疫細胞の機能解析
Project/Area Number |
24790402
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
安達 圭志 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40598611)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 肝臓 / T細胞 / 住血吸虫 / サイトカイン |
Research Abstract |
熱帯地方を中心に、未だ深刻な問題であり続けている日本住血吸虫症やマンソン住血吸虫症の病態の中心は、肝障害である。本研究では、住血吸虫感染症の病態の主体をなす肝障害の発症機構を明らかにすることを目的とする。研究期間の2 年間で、マンソン住血吸虫感染マウスモデルを用いて研究を行い、臨床応用、特に住血吸虫症重篤化防御への基礎的知見を得ることを目指している。 平成24年度は、申請書に記載した計画に従って研究を行い、感染後の初期Th1優位期と後期Th2優位期の間のフェーズ移行期に、次のような特異な反応が認められることを発見した:1)血清中のIL-18レベルが上昇する。2)血中IL-18レベルの上昇と時間的に同期して、非常にユニークなサイトカイン産生能を有するCD4陽性T細胞、すなわち、IFN-γとIL-13、あるいは、IFN-γとIL-4を同時に産生する細胞が、肝臓特異的に誘導されること。 そして、このユニークな肝T細胞集団は、以下のような特徴を持つことも発見した:3)NKマーカーのひとつであるDX5の陽性集団と陰性集団に分けられること。4)γδ TCR陰性であること。5)IL-4、IL-13と同じTh2サイトカインであるIL-5の産生は殆ど認められず、Th2サイトカインの選択的産生性を持つこと。6)IFN-γ、IL-13、IL-4、これら3つのサイトカインを同時に産生する細胞集団も含んでいること。7)IL-18が、このユニークな肝T細胞集団の増殖に関わっていること。 上記のような特徴を持つT細胞はこれまで報告がなされておらず、全く新たなT細胞サブセットの発見である可能性がある。これは、免疫学的、T細胞生物学的に非常に重要な意義を有している。また、肝臓特異的にこの細胞集団が誘導されていることを考えると、病態形成における肝臓の免疫臓器・免疫環境としての重要性が示唆されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、『住血吸虫感染による肝障害に関わる細胞を同定する』という目的で研究を行った。この目的を遂行するため、マンソン住血吸虫感染後、肝臓特異的に誘導される免疫生理学的反応、特に、肝臓特異的に集積されてくる細胞集団を特定することを中心に、詳細な検討を行った。その結果、【研究実績の概要】で述べた成果が得られた。 昨年度に得られた成果のうち、感染後の肝臓特異的に集積する、非常にユニークなサイトカイン産生能を有する新規T細胞集団の発見は、本研究において重要だと考えている。 免疫学的反応を起こすことなく定常状態を保っている肝臓において、免疫反応が惹起されて病態が形成されるということは、肝臓内で、定常状態では、いわば抑制の“箍(たが)”が嵌められた状態にある免疫系が、マンソン住血吸虫感染を契機とした何らかのメカニズムによって、その抑制の“箍”が外された状態になる、ということである。その結果、定常状態では'activated yet resting' な表現型を示していた肝臓内のT 細胞が、’activated’なエフェクター細胞として機能し始め、激しい免疫反応が惹起され、肝障害が誘導される。 本研究代表者は、この抑制の“箍”を外すメカニズムとして、今回発見したユニークな肝T細胞が関わっているのではないかと想定している。【研究実績の概要】で述べたが、IL-18が、このT細胞集団の増殖に関わっている、ということが示唆されたので、IL-18ノックアウトマウスを用いたマンソン住血吸虫感染実験を、昨年度の末から行っており、血清学的、組織学的に現在解析中である。 このような経緯から、申請書の中で述べた昨年度の「研究の目的」の達成度について、“おおむね順調に進展している”と、自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、申請書の「研究の目的」で述べた目標のうち、住血吸虫感染後の肝臓内に集積する細胞について、『細胞内シグナルのspatio temporalな変化とそのoutput』に関わる研究を行い、肝臓内免疫系における”抑制の箍とその解除”機構の解明につながる知見を得る。マンソン住血吸虫感染後、肝臓内には様々な細胞集団が集積してくるが、上記のユニークな肝T細胞に着目して、特異なサイトカイン産生能の獲得メカニズムについて研究を進める。 細胞の反応を一義的に規定するものは、細胞内のシグナルである。従って、細胞内のシグナルを解析することは、T細胞の機能とその変化を理解する上で非常に重要である。そこで、phosphoflow 等のhi-throughput 技術を適用し、住血吸虫感染後の肝障害誘導前・誘導過程・誘導後におけるT細胞シグナルのspatio temporalな変化と、サイトカイン産生能等のoutputを解析することで、肝臓内で”抑制の箍が嵌められた状態”にあった細胞が、肝障害誘導性細胞に分化するメカニズムを解明する。 着目すべき分子として、Th1系サイトカインの産生を支配する転写因子T-betと、Th2系サイトカインの産生を支配する転写因子GATA3が挙げられる。これまでの免疫学的常識では、これらの分子は、互いにその発現を抑制し合う関係にあると考えられており、細胞内で同時に発現しないとされてきた。しかし、今回発見した新規T細胞ではこれらの転写因子が同時に発現している可能性がある。そこで、実際にT-betとGATA3が細胞内で共存しているのか否かを確認し、共存が確認された場合、どのような因子によって共存が可能になるのかについて、サイトカイン等の宿主由来物質、虫体成分の両面から探索していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究においても、マンソン住血吸虫の感染実験は必須である。また、感染実験を行うために、住血吸虫のライフサイクルを維持することもまた必要である。これら、本研究計画における、住血吸虫の感染・維持に関わる部分は、長崎大学 熱帯医学研究所 寄生虫学分野、および濱野真二郎教授の協力のもと行う予定である。 感染後の解析に関しては、申請書の「研究計画・方法」で述べた研究施設、研究者の協力を仰ぎながら行う。また、申請書の「研究計画・方法」には記載していないが、現在研究代表者が所属する山口大学においても、山口大学の規定に収まる範囲内で解析を行う予定である。 【今後の研究の推進方策】で述べたように、平成25年度の研究計画では、マンソン住血吸虫感染マウスの肝T細胞の細胞内シグナルと、outputとしてのサイトカイン産生を中心に解析を行う予定である。従って、平成24年度で使用した、マウス等の実験動物やフローサイトメトリー用抗体・試薬等の物品以外に、平成25年度では、phosphoflow用の抗体・試薬、Western Blotting用の抗体・試薬、real-time PCR用試薬、および各種サイトカインのELISAキットを購入する必要があり、それらについて科研費を使用する。 平成25年度の研究において、上で述べたように、長崎大学 熱帯医学研究所 寄生虫学分野との協力は特に重要になる。そのため、長崎大学 熱帯医学研究所への出張は頻回に行う必要がある。また、研究で得られた成果は積極的に学会発表を行う。それらの旅費についても科研費を使用する。 現在、平成24年度に得られた成果を論文としてまとめているが、海外のジャーナルへの投稿の際に必要となる投稿料等の諸経費についても、平成25年度の科研費を使用する予定である。
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Research Products
(6 results)