2012 Fiscal Year Research-status Report
麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎の病原性基盤の解明および治療薬の開発
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24790444
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
渡辺 俊平 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10621401)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 麻疹ウイルス / 亜急性硬化性全脳炎 / SSPE / 膜融合 / 病原性 / 治療薬 |
Research Abstract |
複数のSSPE株が持つFのアミノ酸変異、および我々が以前に同定した融合能を促進するFの1アミノ酸変異を持つGFP発現組換えウイルスをそれぞれ、10日齢以降の哺乳ハムスターに脳内投与を行った。その結果、ウイルス投与量に関わらず投与1週後に神経症状を呈してハムスターの死亡が確認された。さらにハムスターの死亡率、および脳内でのGFP発現ウイルスの広がりの程度は、組換えウイルスの膜融合能と相関が見られた。一方で野生型の麻疹ウイルス(MV)を投与した個体ではいかなる症状も確認されず、投与後1月まで観察を行った所、生存が確認された。従ってハムスターにおいて、ウイルスの膜融合能が神経病原性を規定することを示すことができた。組換えMVに対する感受性について10日齢以降のハムスターを用いて検討したところ、生後3週齢以降のハムスターでは膜融合能亢進ウイルスに対する感受性が失われた。以上の検討から、10の4乗PFU量のSSPE株型F変異ウイルスを10日齢の哺乳ハムスターに脳内投与する、MVの神経感染動物モデルを確立したのでJ. VirolおよびNat.Commun.に報告した。次にF蛋白質Hepatad Repeat-B(HR-B)領域の30アミノ酸からなるペプチドを作製し、膜融合阻害効果を検討した。その結果、これまでに作製した膜融合能亢進組換えウイルスの全てに対して膜融合阻害効果が確認された。HR-Bペプチドは、Virus-cell fusionおよびcell-cell fusionのどちらの膜融合に対してもin vitroで阻害効果が確認された。さらに同ペプチドをSSPE株型F変異ウイルスと混和して、ハムスターに脳内投与を行い、感染防御効果を検討した。しかし投与後1週でハムスターは死亡し、HR-Bペプチドの投与によって膜融合能亢進ウイルスの神経感染を効果的に防御することはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画については、計画通り研究を進め、当初の予定通りの成果を得ることができたため。また25年度の研究計画についても既に実験を進めているため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り、ハムスターを用いた麻疹ウイルスの神経感染モデルを順調に確立することができた。またHR-Bぺプチドを用いて、膜融合能亢進ウイルスに対して十分な膜融合阻害効果をin vitroの実験で確認することができた。しかしさらに研究を進めたところ、HR-Bぺプチドは、ハムスターを用いたin vivoの実験では、動物の神経感染を効果的に防御することはできなかった。従って、より強い膜融合阻害効果を有する阻害剤の開発を次年度は行う。まずHR-Bペプチドを再度作製して、融合阻害効果の増強を目的としてコレステロール修飾を行う。作製したコレステロール化ペプチド(Choペプチド)についても、HR-Bペプチド同様にin vitro、in vivo 両方の実験で膜融合阻害効果および感染防御効果を検討する。またコレステロール基の誘導部位や誘導方法についても、条件検討を行い膜融合阻害効果の増強を図る。さらにハムスター動物モデルは、感染1週程度の短期間で症状が現れるために実験系としては都合が良いが、ヒトのSSPEにおける神経感染と比べると、ウイルス感染の広がりが早く進行する可能性が考えられる。従ってハムスターモデルでは、膜融合阻害剤の融合阻害効果を実際よりも低く見積もる可能性がある。そのため症状が現れるのにより長期を要する、ヌードマウスモデルも利用して膜融合阻害剤の効果を次年度は検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画よりも実験動物やペプチド合成に要する費用が少なかったため、研究計画よりも当該年度の実支出額が少なくなった。しかしこれまでの研究成果から、より強い膜融合阻害効果を有する阻害剤の開発を次年度は行う必要がある。そこで、次年度使用額はその開発に主に使用する。具体的には、コレステロール修飾を行うため、HR-Bペプチドを再度受託合成する。またコレステロール修飾を行ったChoペプチドのクロマトグラフィー技術を用いた分取および精製にも、次年度に新たに請求する研究費と合わせて次年度使用額を利用する。作製したChoペプチドの阻害効果の検討には、培養細胞を用いたin vitroの実験、およびハムスターやヌードマウスを用いたin vivoの実験をそれぞれ行う必要がある。以上の膜融合阻害剤の効果の検討に必要な費用は、次年度に新たに請求する研究費を利用する。また、学会や論文での成果発表にも研究費を使用する予定である。
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