2012 Fiscal Year Research-status Report
卒前医学教育改革の支援システム基盤の構築ー英国医事委員会の役割から
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24790499
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柴原 真知子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40625068)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 卒前医学教育 / 教育質保証 / 専門職教育 / 英国医学教育 |
Research Abstract |
本研究は、イギリスにおける現代医学教育の改革を牽引してきた民間組織「英国医事委員会(General Medical Council、以下GMCとする)」に着目し、①教育改革支援組織としてどのような役割や特徴をもつか、②医学部における個々の教育実践レベルでの改革をどのように実現しているか、③GMCによる教育質保証の現状と課題はどのように評価することができ、日本の現状に対する具体的示唆とは何か、の三点を明らかにすることを目的とする。 現在、日本では国際的に認証される医学教育の質保証体制を整備することが急務となっている。しかし、どのような組織及び体制であれば、最も効果的に教育のもつ可能性を広げ、質の高い医療者の育成につながるか、という点についてはほとんど明らかにされていない。そのような中で、英国医学教育の外部認証機関として機能し、教育改革への貢献が国内外から高く評価されているGMCに注目することの意義は大きい。 平成24年度は、上記の目的に沿って、①日本国内における資料収集及び整理、②英国における現地調査(インタビュー及び視察)を行い、その成果を論文等を通して公表した。①では、国内外における先行研究の整理と検討を行い、またGMCのホームページ等を通して事業内容や近年の動向についての調査を行った。②では、GMCスタッフ及び協議員にインタビュー調査を行っただけでなく、Imperial College London及びSwansea Universityを訪問し、教員及び教育担当職員にインタビューを行った。これらの作業を通して、GMCが特に、その教育質保証事業(Quality Assurance)においてどのような役割を果たしているのか、その全体像を把握し、今後2年間にわたる研究の土台づくりに努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成24年度は、国内外の調査を通して先行研究の到達点と課題を把握し、GMCの全体像を理解することを通して、研究の基盤を整えることに重点を置いた。当該年度における研究成果は主に以下の3点であり、当初想定していた以上の成果となったと言える。なおこれらについては、研究会での発表や学術論文を通して公表した。 ① GMCの近年の改革動向と医師免許を持たない市民の活用について:国内及び英国での調査から、どのような経緯でGMCが教育改革を着手するに至ったかが明らかになった。GMCは1858年創立当時、医師のみをメンバーとする専門職団体であったが、その歴史的経緯を通じて、メンバーとして医師免許を持たない市民(Lay)を採用する等、組織内の改革に着手した。このプロセスにおいて医師と国民のコミュニケーション及び合意形成の仕組みが構築され、現在の改革動向の中核的価値となっていることが理解された。 ② GMCの教育質保証における具体的プロセスについて:特に、GMCスタッフ及び協議会委員そして医学部での教育担当者へのインタビューを通して、どのようなプロセスでGMCが教育質保証事業を展開し、医学部側はどのような経験をするのかを明らかにした。 ③ 英国における医学部入試改革の動向及びGMCの役割:国内調査を通じて医学部入試改革へのニーズが高まっていることが認識されたため、当初の計画になかったものの研究の一部とした。特に2007年以降、イギリスではより多様な社会的・文化的・経済的背景をもった学生の医学部への入学が積極的に取り組まれており、GMCは各医学部と連携しながら入試改革を促していることが明らかとなった。この研究成果については、代表者が所属する大学におけるFaculty Developmentの場で公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、1980年代以降、英国医学教育改革を牽引してきたGMCに注目することを通して、日本における卒前医学教育改革への具体的示唆を得ることを目指すものである。GMCは、医学教育実践が行われる医学部の「外」に位置づけられる民間組織でありながら、改革を促し支援するという独自の役割を担ってきた。このようなGMCへの調査・分析を通して、具体的には各医学部に設置されている医学教育推進部局が果たすべき役割や、GMCのような外部教育認証・評価組織の日本における体制づくり及び運営に関する具体的手がかりを得たい。 上記の目標を達成するためには、国内調査とイギリス調査の2つに分けて、次の方策をとる必要がある。 【国内調査】①近年欧米を中心に発展している専門職の自治(autonomy)に関する研究やGMCに関する先行研究を検討し、本研究で用いる方法論を精緻化する。②国内で収集できる資料や文献等から、GMCが教育改革支援組織としての役割を担いはじめた1980年代の動向及び医師免許を持たない市民(Lay)の役割について明らかにする、③日本における教育質保証に関する文献等を整理するとともに、関連の医学教育研究者・実践者にヒアリングを行う。これらのことを通して、教育質保証についての現代日本の現状及び課題を把握する。 【イギリス調査】現地でのインフォーマントとなる人を増やし、①GMCスタッフ及び協議委員へのインタビュー、②GMCの教育質保証事業に関わる医師免許を持たない市民(Lay)へのインタビュー、③医学教育における教育学専攻者の役割と教育実践の参与観察、④現地でのGMC出版の政策文書やハンドブック等の資料収集、を行う。GMCに関連して医学教育教育に携わる現地の研究者及び実践者らと積極的に交流し、ネットワークをつくることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、国内及び英国調査に加えて、国内外の学会等で積極的に研究成果の発表を行う。特に次の3点に焦点化して研究を行う。 ①1980年代以降のGMCの歴史的発達経緯及び組織としての変遷:GMCの教育改革支援組織としての役割は、1983年医事法改正をもって明確に位置づけられた。それ以後、1993年に政策文書『明日の医師を育てる(Tomorrow’s Doctors)』を発行し、翌年には非医療系教育学専門家を積極的に医学部に供する等の動きが見られた。これら1980年代以降のGMCの歴史的経緯を検討し、現在の教育改革支援体制を構築するに至った契機及び議論を明らかにする。 ②教育改革における医学生・研修医の活用実態及びその方法:GMCでは、教育改革の具体的方策を明確化するプロセスで、教育の影響を直接的に受ける医学生及び研修医を医学部視察のチームに入れる等、積極的に活用している。教育改革を促すにあたって、どのように彼らの学習経験や意見等を汲み取り、教育改革に反映させているのかを明らかにする。 ③GMCにおける市民(Lay)のもつ役割:2003年よりGMCの協議会委員の半数を占めるに至ったLayと呼ばれる市民が、教育改革事業において担う役割やそこでの経験を明らかにする。医学教育改革に医学以外の専門性をもった市民を交えるという発想は、日本では極めて新しい発想であり、日本における医学教育改革への積極的示唆になりうる。 上記の研究計画の遂行にあたっては、平成25年度は、引き続き関連文献の購入が必要である【消耗品】。また、国内調査及び現地におけるフィールドワークを実施する【国内旅費・海外旅費】。さらに、研究成果の公表及び研究者との研究討議のために国内外の医学教育関連学会への参加が不可欠である【国内旅費・海外旅費】。資料整理やデータ分析で補助を得、効率的に作業を進める【謝金】。
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Research Products
(2 results)