2012 Fiscal Year Research-status Report
非正規雇用の増加は健康と医療の格差を拡大したのか―20年間の経時的分析から
Project/Area Number |
24790516
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
可知 悠子 日本医科大学, 医学部, 助教 (10579337)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 社会格差 / 非正規雇用 |
Research Abstract |
本年度は、過去20年間に非正規雇用の増加により健康格差が拡大したかどうかを明らかにするために、疫学と経済学の2つの研究手法に基づいて、官庁統計を用いた全国規模の反復横断研究を行った。具体的には、1986年から2007年までの国民生活基礎調査のデータを用いて、働く世代(20-59歳)の男女を対象に、所得による主観的健康感の格差の経年変化とその要因について分析を行った。 その結果、1986年から2007年にかけてジニ係数で示される所得格差は徐々に拡大した。一方で、集中度指数で示される健康格差は1998年以降の経済低迷期に縮小傾向を示した。健康格差が縮小したのは、全体の主観的健康感が良くなったからではなかった。全ての所得層で主観的健康感が悪い人が増加し、特に高所得層で主観的健康感が悪い人が増加したため、低所得層との差が減少したからであった。健康格差の変化に影響を及ぼした要因について分析を行ったところ、この縮小に影響を及ぼしたのは、所得の寄与の減少であった。全体として健康格差は縮小したものの、男性では失業の増加が、女性では離婚の増加が健康格差を拡大する方向に寄与していた。仮説とは異なり、非正規雇用の増加は健康格差の増減にほとんど影響を及ぼしていなかった。 以上をまとめると、第1に、所得格差が拡大したにも関わらず、健康格差は縮小した。これは他の先進諸国とは異なる結果である。第2に、非正規雇用の増加は健康格差の増減の重要な要因ではなかった。むしろ、男性では失業が、女性では離婚が健康格差の要因として重要になってきていた。これは最近の厳しい雇用失業情勢や女性が自立しにくい労働環境が反映していると考えられる。したがって、依然として残る格差是正のために、雇用失業対策の強化が必要であることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書では、平成24年において(1)国民生活基礎調査ならびに国民健康・栄養調査のデータを突合し、データベースを作成すること、(2)作成したデータベースを用いて、「所得による主観的健康感の格差」とその要因の推移について分析をすることの2点を実施する予定であった。以上を予定通り遂行したのみならず、成果が当該分野で定評のある雑誌Social Science & Medicineに掲載された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は平成24年度に作成したデータベースを用いて、(1)「所得による生活習慣病の格差」とその要因の推移、(2)「所得による医療機関の受診格差」とその要因の推移について分析を行う。さらに、研究代表者がすでに取得している都内事業所の職員に関する雇用管理と定期健診のデータ(2001~2011年分)を利用して、非正規雇用と健康の経時的変化との関連について分析を行う。ただし、このデータの分析対象者数が少ないため、十分な成果が得られるデータではないことが判明した時点で、新たに非正規雇用者を対象に調査を実施する予定である。なお、研究代表者の所属先変更に伴い、新たな研究協力者を加える予定である。大学院生(循環器内科医)の加藤活人さんに、生活習慣病の専門的知識の提供の点でご協力いただき、さらに議論を深めていきたいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究遂行に必要な図書の購入、成果発表のための出張、調査を実施する場合にはそれに係る費用に研究費を使用する予定である。
|