2014 Fiscal Year Research-status Report
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24790520
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
北澤 健文 東邦大学, 医学部, 助教 (30453848)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 疾病費用 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国における疾病別の社会的費用負担については、患者調査や社会医療診療行為別調査等に基づいた推計が行われているが、今後の人口の年齢構成の変化等を考慮した将来推計を行った研究は少ない。包括的な経済分析のためには、直接的な医療費に加えて、通院や入院に伴う間接的な経済損失や、早世に伴う生産性損失も考慮した疾病費用(Cost Of Illness:COI)の試算が必要である。本研究は、我が国におけるがんを中心とした疾病別のCOI推計とその将来推計を行い、それぞれの社会的経済負担の特徴を明らかにすることを目的としている。 COIは直接費用、罹病費用、死亡費用の3つの費用から構成される。直接費用には、疾病罹患によって直接生じる入院費、検査費等の医療費が含まれる。罹病費用は治療によって失われた労働の対価であり、疾病に伴う入院や通院のために失われる機会費用が含まれる。死亡費用は死亡に伴う人的資本の喪失であり、死亡した当人が死亡していなければ将来にわたって稼ぎ出したと考えられる所得の合計額として求める。 将来推計は、以下の4つの方法で行った。すなわち、(1)健康関連指標を2008年の値で固定し人口構成の高齢化のみを勘案した方法(固定型推計)、(2)人口構成の変化に加え、受診率等の健康関連指標の変化を線形近似により得た方法(線形型推計)、(3)対数近似により得た方法(対数型推計)、(4)健康関連指標毎に2つのうち最適な近似を選択した方法(混合型推計)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
近年死亡者数が増加している乳がん(ICD-10:C50)・子宮頸がん(同C53)・前立腺がん(同C61)の各がんについてCOIを算出した。2008年のCOIは、乳がん6,520億円、子宮頸がん1,455億円、前立腺がん2,759億円と推計された。将来推計の結果、乳がんのCOI推計額は、もっとも妥当と考えられる混合型で7,130億円、7,430億円であった(それぞれ2014年、2020年の推計額。以下同様)。子宮頸がんのCOI推計額は、混合型で1,487億円、1,485億円であった。前立腺がんのCOI推計額は、混合型で4,826億円、5,485億円であった。COIの構成別にみると、乳がん、子宮頸がんでは死亡費用が、前立腺がんでは直接費用がそれぞれCOIの大部分を占めていた。乳がんの罹患率は30歳代から増加し、50歳前後がピークとなっている。また、50歳~60歳代の死亡数増加に伴う死亡費用の増加が見込まれ、COIの緩やかな増加が見込まれた。子宮頸がんでは30~40歳代と80歳以上の高齢者の死亡数増加が見込まれ、COIは微減あるいは横ばいに推移すると推計された。前立腺がんは、65歳以上人口の増加に伴いCOIの増加傾向も続くと見込まれた。なお平均死亡年齢は、乳がんと前立腺がんは今後も上昇、子宮頸がんは横ばいで推移すると推計された。 死亡費用の将来推計に影響を与える要因の一つに、年齢階級別死亡数の動向が挙げられる。若年の死亡者が増加しているがんでは、COIの増加が見込まれた。年齢階級別死亡数の動向は、がんによって異なっていた。また、死亡者に占める高齢者割合の増加は、死亡費用減少の要因となり、その傾向もがんによって異なっていた。 前立腺がんについては、2017年のCOI将来推計値を追加算出したうえで研究成果をとりまとめ学術誌に投稿したが、査読中であり掲載が予定よりも遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
投稿論文が早期掲載となるよう対応する。これまでに研究で構築したCOIを推計するためのデータセットの整備を継続する。また、目的外使用申請の承認が得られた官庁統計データを用いて、認知症患者に対する介護負担についても明らかにし、認知症のCOIの算出を試みる。固定型推計、線形型推計、対数型推計、混合型推計の4つの方法それぞれに応じて構築してきたCOI将来推計ワークシートの整理を継続し、より効率的な算出が可能となるよう、各シートの算出ロジックの検証と改善をすすめる。 引き続き国内外のCOI算出に関する先行研究を対象とした体系的な調査を行う。特にイギリスをはじめとする欧米諸国におけるCOI推計結果の医療政策策定への活用状況を明らかにする。 新たに得られた結果については、国内外の学会において発表するとともに、論文投稿する。
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Causes of Carryover |
研究成果をまとめた論文を学術誌に投稿したが、査読が継続しており掲載時期が翌年度以降となる予定である。また、官庁統計データの目的外使用の承認が2014年度に得られたため、そのデータ解析時期が計画よりも遅れた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
論文掲載に伴う諸費用に使用するほか、関連学会において研究成果を報告する際の出張旅費等に使用する。また、官庁統計データの解析に必要な機器の整備等にも使用する。
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