2012 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病によるスパイン形態変性におけるERKの機能的役割の解明と新規治療薬開発
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24790539
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小菅 康弘 日本大学, 薬学部, 助教 (70383726)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 海馬 / 17β-estradiol / スパイン |
Research Abstract |
近年、糖尿病は鬱病や認知症といった海馬の機能低下が関与する疾患を誘発・増悪する要因の1つであることが示唆されるが、そのメカニズムについては不明なままである。本研究は、この糖尿病による海馬機能低下のメカニズムを、海馬神経細胞のスパインの構造変化に着目して明らかにする。特に、申請者がこれまでに見出した慢性的な高血糖により活性化が抑制されるextracellular signal-regulated kinase(ERK)に着目し、スパインの形態異常におけるその役割を精査する。また、中枢神経系において選択的にERKを活性化する化合物を合成し、in vitroおよびin vivoモデルを用いて評価することで、ERKを標的とした治療薬開発の可能性についても検証する。 本年度は、申請者がこれまでにin vitro糖尿病モデルにおいてERKの活性化作用を持つことを見出している17β-estradiol(E2)を基本骨格とする誘導体を38種類合成し、高グルコース条件で培養したSH-SY5Yを用いて評価した。その結果、E2よりも持続的にERKを活性化する化合物を見出した。また、本学化合物ライブラリーに収載されている生薬エキス成分についてもその有効性を検討したが、ERKの活性に影響を及ぼすものは認められなかった。 さらに、化学修飾により中枢移行性を増加させたE2誘導体(E2A)を合成し、STZ投与マウス海馬におけるERKの活性化に及ぼす影響をWestern blot法により検討したが、糖尿病発症により低下したERK活性化を改善する効果は認められなかった。同様に、SH-SY5Yを用いて評価したところ、E2AのERK活性化作用には持続性がないことが明らかとなった。 以上より、次年度は、持続的にERKを活性化する化合物の中枢移行性を改善し、その影響を糖尿病モデルマウス等で検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、17β-estradiol(E2)を基本骨格として合成した誘導体を38種類作成し、高グルコース条件で培養したSH-SY5Yを用いたin vitro糖尿病モデルにおいてその効果を検討した。その結果、E2の持つERK活性化作用を超える化合物を見出すことはできなかったが、E2と同程度のERK活性化作用を持ち、E2よりも持続的にERKを活性化する化合物を見出した。また、本学化合物ライブラリーに収載されている生薬エキス成分50種類についても検討を行ったが、顕著なERK活性化作用を示すものは認められなかった。しかし、一部の成分には、記憶・学習に関与するAktの活性化を上昇する作用や細胞死に関与するCalpain活性化抑制作用があることが明らかとなった。なお、これらの成果は、所属学会で発表した。 さらに、中枢移行性を増加させたE2誘導体(E2A)を作成し、STZ投与マウス海馬におけるERKの活性化に及ぼす影響を検討したが、ERK活性の低下を改善する効果は認めれらなかった。同様に、E2A曝露による影響をSH-SY5Yを用いて評価したところ、E2AのERK活性化作用には持続性がないことが明らかとなった。 一方、本年度は、高血糖刺激が誘発するERKの活性化抑制機構の検討をin vitroレベルで行う予定であったが、化合物の合成とスクリーニングに時間を費やし、ERK以外のMPAKの活性化に及ぼす影響を検討するにとどまり、Inslinのシグナル伝達系については解析するに至らなかった。そのため、次年度以降の課題とした。 以上のように、、ERKの活性化抑制機構の検討については不十分な点があったものの、当初の計画以上に化合物のスクリーニングが進んだため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検証により選び出した化合物を糖尿病モデルマウス(STZ投与マウス)に投与し、シナプス可塑性の低下に及ぼす影響について、Multi-Electrode Dish (MED)システムを用いて電気生理学的に検討する。同様に、新奇物質探索試験、モーリス水迷路試験、受動回避試験等の行動学的解析から、糖尿病が誘発する記憶・学習障害に及ぼす影響についても検証する。これらのin vivoレベルでの検討により、ERK活性化薬が糖尿病による慢性的な高血糖が誘発する海馬機能低下を改善する薬物となるか検証する。 次に、高血糖刺激が誘発するERKの活性化抑制機構の検討をSH-SY5Yを用いたin vitroモデルおよびSTZ投与マウスを用いたin vivoモデルで共通に変化する分子の同定をWestern blot法またはProtein array等を用いて検証する。また、本年度の検証により選出された化合物がこれらの分子の発現に及ぼす影響についても併せて解析する。 さらに、スパインにおけるERK活性化状態を共焦点レーザー顕微鏡によるライブイメージングすることを試み、化合物の影響を検討する。最後に、研究結果については、学術誌に投稿するとともに関係学会等で発表する。また、研究室ホームページにおいても公表を行う。 以上の解析により、糖尿病マウスのシナプス形成異常におけるERKの役割を総合的に解明する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、SH-SY5Yを用いたin vitroモデルおよびSTZ投与マウスを用いたin vivoレベルを用いて、ERKの活性化抑制に関与する分子の同定を分子生物学的手法や生化学的手法等を用いて解析する。そのため、次年度の研究費の大部分は、RT-PCR法、Western blot法またはProtein array等の解析に使用する消耗品の購入に使用する予定である。 また、STZ投与マウスを用いた化合物の効果の検証も行うため、それらのマウスの購入・飼育費、さらには、ラージスケールでの化合物の合成に関わる試薬を購入する費用に使用する。
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