2012 Fiscal Year Research-status Report
脊髄浸潤ヘルパーT細胞を主軸とする難治性動的アロディニアの発生機序の解明
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24790573
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
佐々木 淳 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (10401811)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 帯状疱疹 / 動的アロディニア / T細胞 / インターフェロンガンマ |
Research Abstract |
衣服が擦れるといった動的な機械刺激により痛みが生じる動的アロディニアは神経障害性疼痛の代表的症状であるが,有効な治療薬はない。申請者らはこれまでに,帯状疱疹による動的機械刺激アロディニアをマウスで再現することに成功し,その解析から脊髄後角に浸潤するT細胞が動的アロディニアに関与する可能性を見出した。本研究は,脊髄後角に浸潤するT細胞と脊髄後角細胞を繋ぐ分子メカニズムを解析し,T細胞を主軸とする動的アロディニアの発生機序を明らかにすることを目的としている。 帯状疱疹期マウスの脾臓から得たCD4陽性T細胞のインキュベーション上清を健常マウスに髄腔内投与すると動的アロディニアが生じた。脾臓T細胞に発現する遺伝子群と脾臓T細胞のインキュベーション上清の髄腔内投与により脊髄後角で発現変化する遺伝子群をGeneChip発現解析法により網羅的に調べ,その解析結果からT細胞由来の動的アロディニア誘発分子の候補としてinterferon-gammaを見出した。Interferon-gammaは健常マウスに髄腔内投与すると動的アロディニアを生じ,interferon-gamma中和抗体処置によりこの動的アロディニアは消失した。また,interferon-gamma中和抗体処置によりT細胞誘発動的アロディニアおよび帯状疱疹性動的アロディニアも有意に抑制された。帯状疱疹期マウスの脊髄ではinterferon-gammaが著明に発現誘導され,その発現細胞はT細胞であった。以上の知見から,脊髄後角に浸潤するT細胞がinterferon-gammaの産生を介して動的アロディニアの発生に寄与すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,脊髄後角に浸潤するT細胞と脊髄後角細胞を繋ぐ分子メカニズムを解析し,T細胞を主軸とする動的アロディニアの発生機序を明らかにすることである。本研究において,GeneChip発現解析は脊髄後角に浸潤するT細胞と脊髄後角細胞を繋ぐ分子メカニズムの候補を探索するための鍵となる手法である。脊髄後角に浸潤するT細胞を単離するための技術的な問題がクリアできれば脊髄後角由来のT細胞を実験に使用する予定であったが,技術的な問題がクリアできなかったため脾臓由来T細胞を用いて実験を行った(当初の研究計画通り)。脾臓T細胞に発現する遺伝子群と脾臓T細胞のインキュベーション上清の髄腔内投与により脊髄後角で発現変化する遺伝子群をGeneChip発現解析法により網羅的に調べ,その解析結果からT細胞由来の動的アロディニア誘発分子の候補としてinterferon-gammaを見出し,最終的に脊髄後角に浸潤するT細胞がinterferon-gammaの産生を介して動的アロディニアの発生に寄与することを明らかにすることができた。脊髄後角に浸潤するT細胞を単離して実験に使用することはできなかったが,脾臓由来T細胞を用いることによってinterferon-gamma がT細胞由来動的アロディニア分子のひとつであることを明らかにでき,研究は計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.Interferon-gammaの動的アロディニア発生機序に関する検討 本年度の研究によってT細胞由来動的アロディニア分子のひとつとしてinterferon-gammaを同定できたことから,今後はinterferon-gamma が脊髄後角ニューロンやグリア細胞にどのように働きかけて動的アロディニアを生じるのかについて,その分子メカニズムも含めて明らかする。 2.Interferon-gamma以外のT細胞由来動的アロディニア分子に関する検討 脾臓T細胞に発現する遺伝子群と脾臓T細胞のインキュベーション上清の髄腔内投与により脊髄後角で発現変化する遺伝子群をGeneChip発現解析法により網羅的に調べ,T細胞と脊髄後角細胞を繋ぐ分子シグナルの候補としてinterferon-gammaを見出したが,これ以外に明確な候補を見出すことはできなかった。最終的にinterferon-gammaがT細胞由来動的アロディニア分子のひとつであることを明らかにできたことから,脾臓T細胞のインキュベーション上清の髄腔内投与により生じる動的アロディニアが帯状疱疹性動的アロディニアの一部を反映できていると考えられる。しかし,interferon-gamma中和抗体処置は帯状疱疹性動的アロディニアを有意に抑制したが,その抑制は部分的であった。したがって,interferon-gamma以外のT細胞由来動的アロディニア分子についてもさらなる検討が必要であると考えられる。脾臓T細胞に発現する遺伝子群には疼痛への関与が示唆されている遺伝子がいくつか含まれていた。今後は,脾臓T細胞に発現する遺伝子群の中からinterferon-gamma以外の候補分子の関与についても検討し,interferon-gamma以外のT細胞由来動的アロディニア分子の役割を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.Interferon-gammaの動的アロディニア発生機序に関する検討 今年度の研究計画には,同定できたT細胞由来の動的アロディニア分子の作用細胞を明らかにする検討も予定していたが,interferon-gammaの作用細胞を明らかにする実験に最適な試薬の調査に時間を要したため研究費を一部使用できなかった。現在は試薬の調査は済んでおり,次年度では当該研究費をinterferon-gammaの作用細胞(脊髄後角ニューロンなのかグリア細胞なのか)を明らかにする実験に使用する。 2.Interferon-gamma以外のT細胞由来動的アロディニア分子に関する検討 次年度ではinterferon-gamma以外のT細胞由来動的アロディニア分子の候補としてinterleukin-18とCCL1の関与を調べる。まず,定量的RT-PCR法,ウエスタンブロット法,免疫組織化学染色等を用いて,帯状疱疹関連疼痛マウスの脊髄におけるinterleukin-18,CCL1およびこれらの受容体の発現変化と発現細胞を調べ,候補分子メカニズムのスイッチが入る細胞とそのタイミングを解析する。さらに,薬理学的処置により分子メカニズムのスイッチのON/OFFを切り替え,動的アロディニアへの関与を行動学的に明らかにする。
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