2012 Fiscal Year Research-status Report
大動脈瘤発症の新規機序の解明-炎症性サイトカイン・シグナル経路の関与-
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24790737
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
孫 輔卿 東京大学, 医学部附属病院, 研究員 (20625256)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 大動脈瘤 / 慢性炎症 / 炎症性サイトカイン / KLF6 / マクロファージ |
Research Abstract |
大動脈瘤は慢性炎症により進行する病態であり、IL-6は炎症反応において最も重要なメディエータである。しかし、大動脈瘤形成におけるIL-6/STAT3経路の制御や標的についてはほとんど検討されてない。我々はアンジオテンシンII依存性の転写因子であるKruppel-like factor 6(KLF6)のノックアウトマウスにおいて、塩化カルシウム刺激とアンジオテンシンII持続投与により誘導される大動脈瘤が野生型に比べて著明に進行していることがわかった。さらに、血中IL-6の濃度が上昇していることや大動脈が破綻し、マクロファージが蓄積している局所においてSTAT3が活性化されていることからKLF6がマクロファージにおいてアンジオテンシンII依存的にIL-6/STAT3シグナル経路を制御する上流の転写因子である可能性が示唆された。さらに、マクロファージ特異的にKLF6がノックアウトされたマウスにおいても大動脈瘤の進展がコントロールのマウスに比べて顕著であることからもマクロファージにおいてのKLF6が重要であり、瘤の形成を制御することを確かめた。また、大動脈瘤のmRNAの発現解析からMMP9の増加による細胞外マトリックスの分解, IL-6およびその下流遺伝子であるSOCS3, iNOSの増加、MCP-1, CCR2などの炎症反応に関わるchemokineの発現の上昇が認められた。タンパクの発現解析からはIL-6の下流遺伝子であるSTAT3のリン酸化、NFkB経路のp65のリン酸化が増加していることがわかった。これらの結果からマクロファージにおいてKLF6はIL-6/STAT3経路を介する炎症反応を抑制する働きがあり、KLF6の欠損によりこの経路が亢進することで慢性炎症が惹起され、大動脈瘤に進行することが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は大動脈瘤の形成において、マクロファージ特異的にIL-6/STAT3経路が重要であり、KLF6がアンジオテンシンII依存性の転写因子として、この経路を制御して慢性炎症および瘤の進展を調節することを明らかにすることができた。具体的にKLF6の全身ノックアウトマウスおよびマクロファージ特異的にKLF6がノックアウトされたマウスを用いて、塩化カルシウム刺激とアンジオテンシンII持続投与により2週間で誘導される大動脈瘤のモデルでIL-6/STAT3の発現の局在を明らかにし、KLF6の有無による発現および局在の変化を確認することができた。さらに、マクロファージ特異的にKLF6が欠損されているマウスからの骨髄由来のマクロファージを用いて、アンジオテンシンII依存的なKLF6の発現の上昇やIL-6の発現の上昇を確認し、in vivoと同様にin vitro実験系へ展開する条件を確立した。また、マウスにおいてIL-6受容体の中和抗体(MR16-1、15mg/kg)を投与することでIL-6/STAT3シグナル経路が阻害され、塩化カルシウム刺激とアンジオテンシンIIによる大動脈瘤の病変形成および進行が抑制できることを検証することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はKLF6がIL-6/STAT3経路を制御する詳細な分子メカニズム、特にマクロファージにおけるKLF6の役割および標的遺伝子を明らかにすることを目標とする。具体的な実験計画としては(1)KLF6が直接IL-6の転写領域に結合することで転写活性を制御するか、(2)液性因子あるいは他の遺伝子を標的にし、結果としてIL-6/STAT3経路に影響を与えるかを追究する。IL-6の転写活性についてはIL-6のプロモーターを作成し、マクロファージをおいてアンジオテンシンIIやKLF6の過剰発現がIL-6の転写活性に影響をあたえるかを検討する。一方、液性因子あるいは他の遺伝子を標的にする場合は、microarrayやIL-6/STAT3シグナル経路のRT2 PCR array解析を用いて、マクロファージ特異的なKLF6の新規標的遺伝子を同定し、IL-6/STAT3経路につながる機構を明らかにする。 臨床への応用の可能性を打診するため、我々は塩化カルシウムとアンジオテンシンII刺激により誘導される大動脈瘤に対するARBとACE阻害薬の効果を検討する。予備実験として我々は動脈硬化促進モデルマウスであるApoEノックアウトマウスを用いて、アンジオテンシンIIの持続投与による大動脈瘤の形成に対する薬剤の効果を検討した結果、ARBの投与群では大動脈瘤の進展が抑えられた。大動脈においてはIL-6の発現やSTAT3のリン酸化が減少されたことからARBによる大動脈瘤の抑制効果を反映するものがIL-6/STAT3を介す炎症反応の抑制である可能性が示唆された。この結果を踏まえて、塩化カルシウムとアンジオテンシンII刺激により誘導される大動脈瘤におけるARBとACE阻害薬の効果とそのメカニズムを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
IL-6/STAT3シグナルが慢性炎症を誘導する分子メカニズムを明らかにすべく、特にマクロファージにおいてKLF6がIL-6を制御する分子機構を明らかにすることを目標とする。 (1) 骨髄由来のマクロファージを用いてアンジオテンシンIIによるIL-6/STAT3シグナル経路の検討と標的遺伝子の同定 我々はマクロファージ特異的にKLF6がノックアウトされたマウス(flox-KLF6/LysM Cre)の骨髄由来マクロファージにおいて、コントロールマウスに比べて、アンジオテンシンIIの刺激によりIL-6の発現が増加するとともにIL-6特異的に炎症性マクロファージのマーカーであるCCR2が増加することからIL-6を介した炎症反応の経路が存在することが分かった。そこでKLF6によるIL-6/STAT3の制御因子と標的遺伝子を同定すべく、microarrayやIL-6/STAT3シグナル経路のRT2 PCR array方法を用いて標的を同定し、炎症反応および大動脈瘤に重要なこのシグナルの経路の詳細を明らかにする。 (2) ARBおよびACEiが炎症反応および大動脈瘤発症や進行に及ぼす影響の検討 治療標的としてIL-6の重要性を検証するため、マウスにおいてIL-6受容体の中和抗体(MR16-1、15mg/kg)を用いて、IL-6/STAT3シグナル経路をブロックすることで、大動脈瘤の形成および進行を抑えることを確認した。さらに、臨床への応用を検証する目的で、ARBやACEiによる大動脈瘤の形成における影響やIL-6/STAT3シグナル経路に対する影響を検討する予定である。さらに、骨髄由来マクロファージを用いたin vitro実験系での詳細な分子メカニズムを明らかにすることで臨床への応用の可能性を打診する。
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