2012 Fiscal Year Research-status Report
食塩感受性高血圧の病態解析と合併する心拡張不全に関する臨床研究
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24790770
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
山本 英一郎 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (50573614)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 高血圧 / 食塩感受性 / 心拡張不全 / 血管内皮機能 / 一酸化窒素合成酵素 |
Research Abstract |
本研究は、我々の今までの食塩感受性高血圧モデルであるDSラットを用いた食塩感受性高血圧や合併心拡張不全の発症機序の基礎的検討を発展させ、同モデルや血管内皮型一酸化窒素(NO)合成酵素(eNOS)欠損マウスを用いた基礎研究と、食塩感受性高血圧と合併心拡張不全との関連の臨床検討を行う。 これまでの我々の研究で、食塩感受性高血圧ではeNOSアンカップリングによる酸化ストレス(ROS)増加により血管内皮機能障害が惹起され、続発する心拡張不全の発症に関与することが明らかになっているが、本検討によって、高食塩負荷したDSラットの腎組織でもeNOSアンカップリングが惹起されており、慢性腎臓病(CKD)に深く関与することが示唆された。DSラットにeNOSアンカップリング改善薬やROS産生酵素であるNADPHオキシダーゼの阻害薬を投薬したところCKDが有意に改善したことから、これらのROS産生源が食塩感受性発症の基盤となるCKDにも深く関与することが明らかになった。さらに本研究では、eNOS欠損マウスの高血圧がnon-dipper型であることを明らかにしており、食塩感受性高血圧に多いCKDとnon-dipper型血圧変動パターンの合併に、腎臓でのeNOS欠損や機能低下が関与することが示唆された。つまり、心血管病の独立した危険因子であるCKDやnon-dipper型高血圧へのROSやNO低下関与を直接証明した。 さらに臨床研究では、実際の心拡張不全患者においてeNOSアンカップリングの指標となる血中ビオプテリン値の低下とROSの代謝物の有意な増加がみられ、我々の基礎研究の結果と同様に、非侵襲的検査にて測定した末梢血管内皮機能が有意に低下していることを明らかにしている。これにて新たな治療法の確立が待望される心拡張不全へのeNOSアンカップリングへの介入という新たなアプローチの可能性を提示する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、食塩感受性高血圧の増悪因子としてeNOSアンカップリングによるCKD関与の機序の検討、ならびに食塩感受性高血圧でみられるnon-dipper型高血圧で表される血圧日内リズムの障害へのeNOS関与の検討をおこなう基礎研究と、食塩感受性高血圧に合併する心拡張不全への血管内皮機能やCKDの関与を検討する臨床研究を行う予定である。 基礎研究では、当該年度の予定であった高食塩負荷DSラットへの投薬実験は予定通り遂行され、DSラット腎組織でのeNOSアンカップリングやROS産生酵素であるNADPHオキシダーゼの関与が直接的に証明された。また、我々が以前報告したeNOS遺伝子欠損マウスでの高血圧や、病理学的な腎糸球体の硬化や炎症細胞浸潤を主体としたCKDに関して、さらに本研究で検討をすすめ、eNOS欠損マウスの高血圧がnon-dipper型であることを明らかにしている。さらに野生型マウスの腎臓では、eNOS活性に日内変動があることも生化学的に明らかにしており、これらの基礎研究結果をあわせ、これまでの結果から食塩感受性高血圧におけるCKDの発症機序や血圧日内変動の障害に、eNOSの機能不全が深く関与していることが明らかになった。 我々のDSラットの心拡張不全発症機構の基礎研究結果を臨床研究で証明するため、本研究では、心拡張不全患者におけるeNOSアンカップリングと、血管内皮機能や食塩感受性・CKDとの関与を検討する予定である。本研究では、実際の心拡張不全患者において、非侵襲的に測定した末梢血管内皮機能が有意に低下していることがすでに明らかにしており、さらにeGFR値や尿中アルブミン量にて評価されるCKDの重症度との相関を明らかにしている。また、予定通りeNOSアンカップリングの指標として血中ビオプテリン値や、ROSの代謝物を血中にて測定している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、食塩感受性高血圧の増悪因子としてのeNOSアンカップリングによるCKD関与の機序の検討と、non-dipper型高血圧で表される血圧日内リズムの障害へのeNOS関与の検討をおこなう基礎研究と、食塩感受性高血圧に合併する心拡張不全への血管内皮機能やCKDの関与を検討する臨床研究をすすめる。 基礎研究では、予定通り遂行された高食塩負荷DSラットへの投薬実験における腎組織を中心にした、その分子メカニズムの追及を特に重点的に行う。具体的には、腎組織における酸化ストレス関連因子(NADPHオキシダーゼのサブユニット、eNOSアンカップリングに関与するビオプテリン代謝関連酵素など)の発現をreal time RT-PCRやwestern blot法を用いmRNAおよびタンパクレベルで検討する。さらに、腎組織切片を免疫化学染色で病理学的に評価する。また、野生型マウスの腎臓ではeNOS活性に日内変動があることを生化学的に明らかにしているが、この結果を参照しeNOSが活性化される時相にあわせて、eNOS遺伝子欠損マウスにNOドナーを投与し、血圧の日内変化障害(non-dipper型高血圧)が改善するかを検討する。さらに、上記のマウスから得た組織サンプルを生化学的に解析し、そのメカニズムを特に時計遺伝子関連分子の転写活性あるいは蛋白発現レベルを中心に生化学的手法にて測定・定量する。 臨床研究では、引き続き心拡張不全患者の血管内皮機能検査を生理的血管内皮機能測定装置:Endo-PAT2000を用いて客観的・定量的に測定し、患者の採血上のBNP値や心エコー上のパラメーターにて定量化した心拡張不全の重症度や、eGFR値や尿中アルブミン量にて評価されるCKDの重症度との相関を明らかにする。また、患者のeNOSアンカップリングの指標として前述のマーカーを測定し上記項目との相関を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は、DSラットやeNOSノックアウトマウスを用いたin vivo実験を中心にした基礎研究と、心不全患者にて様々な生理検査を行う臨床研究のトランスレーショナルリサーチである。 in vivo実験に用いるDSラットは特別食で飼育し、eNOSの遺伝子欠損マウスは常に交配繁殖させる必要があることから、これら実験動物の購入・維持費等には相応な費用が必須である。また、解析は分子生物学的検討が中心で、マウス組織の免疫組織化学や、mRNAを細胞、組織より採取し遺伝子発現の定量を行い、さらには抗体を使用しラジオイノムアッセイ法、ELISA法、ウエスタンブロッティング法などの蛋白定量法を行う。これら定量に必要な抗体・ELISAキットなど研究試薬にも相応な費用が必要である。 臨床研究では、生理検査測定に必要な消耗品が中心となるが、予想される結果の差を実証するのに必要十分な検体数をこれまでの当教室の研究実績から算出し、その積算根拠とした。また、研究成果発表と当該研究分野の最新の情報収集のために国内・国際学会への参加は不可欠と考えるが、このための旅費も計上している。
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Research Products
(15 results)