2012 Fiscal Year Research-status Report
過剰栄養による膵β細胞におけるインスリン遺伝子とIRS2遺伝子のエピゲノム修飾
Project/Area Number |
24790920
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
恒川 新 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (40612768)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 糖尿病 / エピジェネティクス / インスリン / 糖毒性 |
Research Abstract |
初期の糖尿病コントロールと後の合併症頻度との相関性はLegacy Effectといわれ、その機序には高血糖によるエピゲノム修飾の関与が指摘されている。その為、生活習慣病の原因となる長期間の高血糖高脂肪酸条件下での膵β細胞におけるインスリン遺伝子とIRS(insulin receptor substrate)2遺伝子のエピゲノム修飾の関与を検討した。ラットβ細胞株(INS-1細胞)を糖毒性条件(G)にて14日間培養し、インスリンとIRS2遺伝子発現をPCR法で評価した。Insulin gene promoter のcyclic response element (CRE)とIRS2 gen promoter のCREにはCpG配列が存在するため、そのメチル化をpyro sequence法にて評価した。CREメチル化と遺伝子発現の関与をLuciferase Assay(Luc)、またGと脱メチル化剤5-Aza-2`-deoxycytidine(Aza)との同時培養にて評価した。G培養によりにインスリン遺伝子発現は有意に低下を認めたがIRS2遺伝子発現は低下を認めなかった。G培養後のINS-1では、Forskolin+IBMX 5h刺激によるインスリン発現は有意に低下したが、IRS2発現低下を認めなかった。CREメチル化は培養開始7日目からインスリン遺伝子のみにおいて有意に上昇を認め時間依存性に増加した。その為、高グルコースによる遺伝子発現とDNAメチル化の関連はインスリン遺伝子のみで検討した。インスリンメチル化プロモーターによるLucではForskolin+IBMX刺激による反応低下を認めた。Azaとの同時培養にてGによるインスリン遺伝子発現は改善傾向を認めた。Gにおけるインスリン遺伝子発現低下には、CREメチル化によるインスリン遺伝子転写抑制が関与していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は生活習慣病の原因となる長期間の高血糖•高脂肪酸条件下での膵β細胞におけるエピゲノム修飾を検討し、エピジェネティック制御をターゲットとした糖尿病治療を開発する事である。初年度の研究計画は①膵β細胞における長期間の高グルコース、高脂肪酸処置によるインスリンとIRS2遺伝子発現抑制に関して、正常グルコース、脂肪酸条件下での遺伝子発現抑制様式を転写レベルで検討し、②高グルコース、高脂肪酸によってインスリンとIRS2遺伝子のプロモーター領域のDNA塩基配列のCpG部位のメチル化やヒストン修飾のエピゲノム修飾を検討することであった。 上述のごとく高血糖下ではInsulin遺伝子のみ転写レベルでの抑制がみとめられ、IRS2遺伝子では認められないことが判明した。その持続高血糖によるインスリン遺伝子発現調節のメカニズムにインスリンプロモーターのメチル化が関与していることが当初の予想通り各種実験によって明らかとされた。さらにそのインスリンプロモータのメチル化は高血糖条件下のみでまた糖濃度依存性に引き起こされることが分かり、高脂肪酸条件下では引き起こされないことが判明した。 一方、エピゲノム修飾のもう一つのメカニズムであるヒストン修飾に関しては、ヒストンの化学修飾にはアセチル化、メチル化、リン酸化、モノユビキチン化、SUMO化など実に多くの修飾が報告されており、未だ検討できていない。しかしながら、当初の仮説と実験結果より、生活習慣病の原因となる長期間の高血糖条件下でインスリン遺伝子にメチル化の変化が起きそれにより遺伝子発現が持続的に低下する機序が証明され、初年度の研究計画はおおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の次年度以降の目標としては、高血糖条件が膵β細胞のインスリンプロモーターに引き起こすDNAメチル化の分子メカニズムを検討することである。 まず第一にインスリン遺伝子ではInsulin gene promoter のcyclic response element (CRE)以外にもATG開始コドンから上流500 bp以内のプロモーター領域の数カ所の特定のCpGサイトが存在するため、その部分のメチル化と遺伝子発現の関係を調べるためにも、今まで行った特定領域の正確なメチル化の解析に有用なパイロシークエンス法にくわえ、上流500bpまでの全CpGサイトのメチル化の有無をバイサルファイトシークエンス法を用いて評価する。 次に膵β細胞での糖毒性によるインスリンプロモーターメチル化の分子機序を解明する。膵β細胞における糖毒性の機序としては、酸化ストレスや小胞体ストレスがあげられる。また、高血糖に伴うサイトカインの自己分泌合成からのオートクラインなども膵β細胞では報告されている。それら糖毒性で引き起こされる各種作用機序を、試薬を用いて再現しインスリンプロモーターのメチル化増加の有無を検討する。 そして、この糖毒性によるインスリンプロモーターのメチル化が実際に、膵β細胞株だけではなく、実際の生体で起きているかどうかを高脂肪食ラットや糖尿病モデル動物のランゲルハンス島を用いて、その糖尿病状態における膵β細胞のインスリンプロモーターのメチル化の変化を検討する予定です。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
バイサルファイトシークエンスの実験にはインスリンプロモーター部分の増幅とシークエンスを基本とした実験となるため、各種プローブと試薬、また細胞を培養、継代するためのメディウムなどが含まれる費用を使用予定である。 糖毒性によるインスリンプロモーターのメチル化の分子機序を検討するため、糖毒性によって活性化される細胞内条件を各種試薬で再現し、そのメチル化の増減を検討するために、またメチル化酵素活性を調べる為のELISAプレートを用いたキット、ウェスタンブロッティングの抗体、ChIP assayの為のビーズや各種抗体、Glucose、パルミチン酸やcAMP刺激剤、脱メチル化薬などの各種試薬、細胞を培養、継代するためのメディウムなどが含まれる費用を使用予定である。 実際に糖毒性によるインスリンプロモーターのメチル化がin vivoでも起きているかどうかを調べるためラットを用いて実験を行う予定のため、ラットの購入やその飼育費用、またin vivo での実験は膵ランゲルハンス島を摘出してからex vivoでインスリンプロモータの糖毒性のメチル化とその機序を研究するため、膵ランゲルハンス島の摘出のための各種試薬、またメチル化を調べる為の各種試薬、摘出膵ランゲルハンス島を培養するためのメディウムなどが含まれる費用を使用予定である。 また、2013年度はアメリカ糖尿病学会に現在までの本研究成果を発表し、また学術集会で情報収集するためその旅費のために費用を使用予定である。
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