2013 Fiscal Year Research-status Report
過剰栄養による膵β細胞におけるインスリン遺伝子とIRS2遺伝子のエピゲノム修飾
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24790920
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
恒川 新 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (40612768)
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Keywords | エピジェネティクス / 糖毒性 / インスリン / メチレーション |
Research Abstract |
生活習慣病おける過剰栄養状態として長期間の高血糖、高脂肪酸条件下での膵β細胞におけるインスリン遺伝子(Ins1)とIRS(insulin receptor substrate)2遺伝子のエピゲノム修飾の関与を検討した。ラット膵ベータ細胞株のINS-1細胞では22.4mM高グルコース培養条件(HG)でインスリンmRNA量は有意に低下、Ins1-CRE(cyclic-AMP response element)領域のメチル化は有意に増加した。メチル化は3日目以降時間依存性に、16.7mM以上でグルコース濃度依存性に増加した。単独高脂肪酸培養はIns1-CREメチル化に影響しなかった。Ins1メチル化プロモーターではプロモーター活性は有意に低下し、cAMP刺激による反応は完全に消失した。一方、脱メチル化剤はHGでのインスリンmRNA量低下を有意に改善した。また、この糖毒性におけるメチル化はIRS2遺伝子では認められずにインスリン遺伝子特異的であり、また、上流500bpまでの全CpGサイトのメチル化の有無をバイサルファイトシークエンス法を用いて評価したところインスリンプロモーターに存在するCRE以外の5カ所のCpGサイトもメチル化が優位に増加していることが判明した。つまり、インスリン遺伝子では糖毒性がプロモーターのメチル化を増加させその発現を低下させる事が判明した。 糖毒性のメチル化に及ぼす作用機序を解明するため、糖毒性の主要機序である酸化ストレス(H2O2負荷)、小胞体ストレス(Thapsigargin負荷)のメチル化への影響を検討したが両者のメチル化への影響は認められなかった。一方グルコースと脂肪酸濃度条件によるTAG蓄積はメチル化のパターンと同様にHG存在下でのみ増加し、その変動パターンはIns1-CREメチル化と類似していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画は『過剰栄養によって引き起こされるとエピゲノム修飾の分子メカニズムの機序を明らかにする』ことである。 上述のごとく長期間の高グルコース曝露はIns1-CREメチル化増加とインスリン遺伝子発現低下を来し、糖尿病における不可逆的な膵β細胞機能低下と高血糖自体によるエピゲノム修飾の関与が想定され、またそのメカニズムとして糖毒性が重要であり、高脂肪単独では起きないことが判明した。また糖毒性によるインスリン遺伝子のメチル化には酸化ストレスや小胞体ストレスの関与は膵ベータ細胞では関与が認められず、一方、その増加パターンの類似性から中性脂肪の蓄積とインスリン遺伝子のメチル化の関与の可能性が実験結果より明らかになった。また、これらの遺伝子プロモータのメチル化は高脂肪酸条件下では引き起こされないこと、高血糖下ではInsulin遺伝子のみ転写レベルでの抑制がみとめられ、IRS2遺伝子では認められないことが判明した。 このように、持続する高血糖がメチル化を引き起こし、本年度はそのメカニズムも当初の予想する結果とは異なる結果が出てきたのであるが、その採用機序を解明するという点では予定通りに段階的に解明を勧めており、研究計画はおおむね順調に進んでいると言える。 当初予定していた、エピゲノム修飾のもう一つのメカニズムであるヒストン修飾に関しては未だ検討できていないが、現在のメチル化の作用機序の解明を進める事により、今後のヒストン修飾の研究にもつながるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の目標としては、膵ベータ細胞における糖毒性が引き起こすインスリンプロモーターのDNAメチル化の分子メカニズムの更なる検討を行うことである。 まず第一に膵β細胞への異所性中性脂肪の蓄積とインスリン遺伝子プロモーターのメチル化の関与が示唆されたため、その蓄積を予防する薬剤(メトフォルミンやベザフィブラート)によって実際に糖毒性によるメチル化の増加が改善できるかを検討する事によって脂肪蓄積のメチル化への影響を検討する。 第二に、更なるメチル化誘導機序を解明する為、メチル化関連酵素(メチル化酵素(DNMT)、脱メチル化関連酵素(TET))の発現をreal time PCRで、その活性化をELISA法で測定する。メチル化関連酵素の活性は発現量のみで影響を受けずにその基質も重要となる。そのため、高血糖状態化におけるその基質(メチル化酵素はメチオニン代謝、脱メチル化関連酵素はケトグルタル酸)の発現量の検討も行う予定である。 第三に、この糖毒性によるインスリンプロモーターのメチル化が実際に、膵β細胞株だけではなく、実際の生体で起きているかどうかを高脂肪食ラットや糖尿病モデル動物のランゲルハンス島を用いて、その糖尿病状態における膵β細胞のインスリンプロモーターのメチル化の変化を検討する予定である。糖尿病モデル動物であるZDF ratの表現系を確認し、高血糖状態で膵島内のアルファ細胞数とベータ細胞数の比がcontrol ratと同程度になる時期を決めて、膵島を取り出しパイロシークエンス法で検討する予定である。
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[Presentation] Over-nutrition Increased DNA Methylation of Insulin Gene Promoter in Pancreatic Beta-Cells2013
Author(s)
Kota Ishikawa, Shin Tsunekawa, Takako Izumoto, Atsushi Iida, Hidetada Ogata, Tetsuji Okawa, Atsushi Fujiya, Eita Uenishi, Yusuke Seino, Yoji Hamada, Yutaka Oiso
Organizer
America Diabetes Association 73rd Scientific Sessions
Place of Presentation
Chicago, USA
Year and Date
20130621-20130625
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