2012 Fiscal Year Research-status Report
報酬系神経回路の異常病態から見た過食メカニズムの解明と肥満症の治療戦略
Project/Area Number |
24790943
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 伸子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50400891)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 肥満 / 過食 / 報酬系 / 神経内分泌 / 食事性肥満モデルマウス / 高脂肪食 / 学習記憶 / 情動 |
Research Abstract |
肥満で認められる過食および減量後リバウンドのメカニズムの解析を動機づけ(報酬系)の破綻病態から解析する目的で研究を進めている。 高嗜好性食物である、60%高脂肪食を2週間摂食させた食事性肥満モデルマウス(HFDマウス)の解析を行った。HFDマウスの摂食量(kcal)は自由摂食時はCDマウスと差がなかったが、48時間絶食後、4時間再摂食させた時の摂食量(kcal)はCDマウスに比べ有意に増加していた。この絶食後の再摂食には、過去の研究により、報酬系が大きく関与していることが明らかにされている。また、摂食調節はエネルギー状態を反映したホメオスタティックな調節と、さらに報酬系や、情動・学習記憶、意志決定のコントロールなどによって調節されている。 そこで、このマウスの過食メカニズムを解析する目的で、ホメオスタティックな調節を行う視床下部および報酬系を主に調節する側坐核のメラノコルチン神経系、オピオイド神経系、ドーパミン神経系およびグルタミン酸神経系関連のmRNA発現を検討した。さらに、情動や学習記憶、意志決定のコントロールを行う扁桃体、海馬、大脳皮質におけるグルタミン酸関連のmRNA発現を検討した。その結果、CDマウスと比較し、自由摂食時にはHFDマウスの各mRNA発現パターンに明らかな差は認められなかったが、48時間絶食後および48時間絶食後4時間再摂食後では、いずれの検討部位においても差が認められた。この結果から、2週間の高脂肪食摂取単独では大きな変化は認められないが、絶食という負荷をかけることにより変化が明らかになることから、①2週間の高脂肪食負荷により、脳内の報酬系を含む摂食調節系に変化が潜在していること、②絶食により、その変化が顕在化すること、が明らかになり、絶食そのものが、脳内の報酬系を含む摂食調節系に大きな変化をもたらす可能性が示された (in preparation)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肥満の減量治療の後、長期に渡る体重の維持は非常に困難である。最近、肥満における過食や減量後リバウンドに、報酬系の異常が関係する可能性がヒト脳機能イメージングなどの研究報告から示されている。 申請者は、肥満で認められる過食は中脳辺縁系ドーパミン神経系(報酬系)の破綻によって生じるのではないか、さらに、その異常病態は、神経可塑性によって減量後も継続するため、容易にリバウンドするのではないかと考えている。 これまでの検討により、①2週間の高脂肪食負荷により、脳内の報酬系を含む摂食調節系に変化が潜在していること、②絶食により、その変化が顕在化すること、が明らかになり、2週間という比較的短期間の高脂肪食負荷単独、および絶食再摂食そのものが、脳内の報酬系を含む摂食調節系に大きな変化をもたらす可能性が示された。さらに、機能的な変化を確認するために、48時間絶食後、再摂食直前にメラノコルチン受容体拮抗薬、オピオイド受容体拮抗薬およびグルタミン酸神経系関連の受容体拮抗薬の脳室内投与を行い、再摂食量に対する作用を検討したところ、CDマウスとHFDマウスの反応(再摂食量の抑制程度)に違いが認められ、これらの神経伝達系が2週間の高脂肪食負荷および絶食再摂食により変化していることが明らかになった。また、レプチンの報酬系における役割を検討する目的で、レプチン過剰発現トランスジェニックマウスの側坐核におけるΔfosB mRNAおよびegr-1 mRNAの発現検討を行った。その結果、同部位におけるこれらのmRNA発現は対照群と比較し、有意に減少しており、同マウスの摂食抑制作用に、報酬系の抑制も関与している可能性が示された (in preparation)。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討で認められた変化が過食や減量後のリバウンドの手掛かりとなると考え、絶食や食事制限にフォーカスを充てていく。さらに、いずれの検討も、行動解析、機能解析、分子生物学的解析、代謝パラメーター解析、および摂食調節因子の血中濃度測定により包括的に解析し、内分泌代謝領域と精神科領域の臨床視点を統括して検討することで、肥満における報酬系の生理的意義を明らかにする。最終的に、これらの解析から、過食につながる報酬系の病態生理学的意義を明らかにし、新規抗肥満薬の創薬に繋がる基盤的情報を見出す。 具体的には、本年度の成果を踏まえ下記のモデルマウスを作成し、摂食量や体重変化、行動学的解析および代謝パラメーターの解析を先行して行い、その結果を基に、メカニズム解析を機能解析や分子生物学的解析を行う。 モデルマウスの検討:より長期の高脂肪食負荷である、8週間の高脂肪食負荷を行い解析する【A群】。さらに、8週間の高脂肪食負荷後に、体重を高脂肪食自由摂餌対照群【B群】に比べ、75%体重になるように高脂肪食制限摂餌下により2週間飼育した【C群】、8週間の高脂肪食負荷後に2週間正常食で飼育した【D群】さらに、C群およびD群に1週間高脂肪食を自由摂餌させた【E群】について検討を行う。さらに、高脂肪食飼育マウスを5日間自由摂食させ、48時間絶食後また5日間自由摂食させ、48時間絶食させ、を10週間行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述のマウスおよびレプチン・グレリン遺伝子改変動物について以下の解析を行う。(a)行動学的解析:①条件性場所選好試験、②2ボトルスクロース嗜好性試験、③不安行動(高架式十字迷路)、④自発運動能、⑤ストレス反応(強制水泳テストおよび拘束ストレス);(b)機能解析:①急性スライスを用いた電気生理学的解析、②in vivoマイクロダイアリシス法によるドーパミンおよびグルタミン酸分泌解析;(c)分子生物学的解析:定量的RT-PCR法およびウェスタンブロッティング法による側坐核でのドーパミンシグナル関連因子および神経可塑性調節因子の発現検討;(d)代謝パラメーターの解析:体重変化、摂食量、脂肪量、血中糖脂質代謝関連マーカー;(e)レプチン、グレリン、およびアミリンの血中濃度。 また、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の報酬系への作用についても検討する。本研究室で軟骨における解析が先行していたCNPおよびその受容体であるGC-Bは、中枢神経系に高濃度に存在し、取り分け視床下部、線条体尾状核および側坐核に多く発現している (J Comp Neurol, 1995)。さらに、CNP はコカインによる線条体での細胞外ドーパミン濃度の上昇を抑制することが報告されている(Eur J Neurosci, 2001)。また、当研究室の検討によりCNPはエネルギー調節系に関与する(Inuzuka et al, Endocrinology, 2010;Yamada-Goto et al, Diabetes, 2013)。既に当研究室では、脳特異的GC-B deficientマウスを作成し、エネルギー調節系についての検討を始めており(Yamashita et al, The Endocrine Society’s 95th annual meeting & Expo, 2013)。同マウスの解析を行う。
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[Journal Article] Intracerebroventricular administration of C-type natriuretic peptide suppresses food intake via activation of the melanocortin System in Mice.2013
Author(s)
Yamada-Goto N, Katsuura G, Ebihara K, Inuzuka M, Ochi Y, Yamashita Y, Kusakabe T, Yasoda A, Satoh-Asahara N, Ariyasu H, Hosoda K, Nakao K.
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Journal Title
Diabetes
Volume: 62
Pages: 1500-1504
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Salivary cortisol levels are associated with outcomes of weight reduction therapy in obese Japanese patients.2012
Author(s)
Himeno A, Satoh-Asahara N, Usui T, Wada H, Tochiya M, Kono S, Yamada-Goto N, Katsuura G, Hasegawa K, Nakao K, Shimatsu A.
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Journal Title
Metabolism
Volume: 61
Pages: 255-261
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 脳特異的GC-B欠損マウスを用いたCNP/GC-B系の中枢性エネルギー代謝調節に及ぼす作用の解析2012
Author(s)
山下 唯, 後藤 伸子, 勝浦 五郎, 越智 ゆかり, 有安 宏之, 金本 巨哲, 三浦 晶子, 海老原 健, 八十田 明宏, 荒井 宏司, 細田 公則, 中尾 一和
Organizer
第33回日本肥満学会
Place of Presentation
京都市
Year and Date
20121011-12
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[Presentation] 高脂肪食負荷による絶食後再摂食の反応とオピエイト受容体アンタゴニストの作用2012
Author(s)
後藤 伸子, 越智 ゆかり, 勝浦 五郎, 山下 唯, 有安 宏之, 浅原 哲子, 金本 巨哲, 海老原 健, 三浦 晶子, 八十田 明宏, 荒井 宏司, 細田 公則, 中尾 一和
Organizer
第33回日本肥満学会
Place of Presentation
京都市
Year and Date
20121011-12
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