2012 Fiscal Year Research-status Report
筋ジストロフィー患者の予後改善を目的とした新規治療方針の開発
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24791059
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
馬場 志郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60432382)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | Duchenne型筋ジストロフィー / iPS細胞 / 肥大型心筋症 / 心不全 |
Research Abstract |
臨床的にジストロフィン遺伝子エクソン44の欠失を確認されたDuchenne型 筋ジストロフィー(DMD)患者と欠失を認めない両親から皮膚線維芽細胞を培養増殖し、レトロウイルスでOct4, Sox2, Klf4, c-Mycの山中4因子を導入しiPS細胞を作成した。エクソン44の欠失の有無については、皮膚線維芽細胞と作成したiPS細胞においてもPCR法によって確認した。作成したiPS細胞クローンから、免疫染色上未分化マーカーを発現しているもの、正常ヒト染色体を有するもの、導入遺伝子のサイレンシングがされ、多分化能マーカーがqPCR上、胚性幹細胞(ES細胞)レベル程度まで発現しているもの、免疫不全マウス(NOGマウス)精巣内でテラトーマを形成するものを選択した。その結果、DMD iPS細胞2クローン、正常ヒトiPS細胞2クローン(父親由来1クローン、母親由来1クローン)を実験に用いることにした。次にこれらiPS細胞をJianhua Zhang(Circ Res, 2011)らが開発した心筋分化培養法によって心筋培養した。心筋は効率良く分化し、Cardiac Toroponin I 抗体を用いたFACS解析で60-80%の効率で心筋分化していることが判明した。この心筋細胞を酵素的に剥離し、MED64システムを用いて細胞外活動電位を測定し、蛍光付加カルシウムキレート試薬を用いたカルシウムイメージングにより細胞内カルシウム変化を評価した。DMD iPS細胞由来心筋細胞は、コントロールiPS細胞由来心筋細胞と比べて心筋刺激剤負荷前では活動電位に有意差は認めなかったが、β1受容体刺激後に活動電位を比べると、明らかにDMD iPS細胞由来心筋細胞で活動電位の低下を認めた。また薬剤負荷無しの状態で、細胞内カルシウム濃度はDMD iPS細胞由来心筋細胞で有意に高いという結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べた様に、現在までの実験結果は、DMD iPS細胞由来心筋細胞のin vitroでの機能評価を開始し、DMD iPS細胞由来心筋細胞がコントロールiPS細胞由来心筋細胞と比べて薬剤負荷前は電気生理学的に有意差がなく、薬剤負荷による心筋刺激を行なった後にのみ心筋の脆弱性(活動電位の有意な低下)を認めた。また定常状態においてDMD iPS細胞由来心筋細胞内のカルシウム濃度がコントロールiPS細胞由来心筋細胞に比べて有意に高かったことが示されたところまでである。 昨年度の予定としては、心筋保護作用を有するβブロッカーやアンジオテンシン変換酵素阻害剤などが有効かどうか、また細胞内カルシウム濃度を抑制するカルシウムブロッカーが有効かどうかを判定する予定であった。また、これら薬剤の添加タイミングによって心筋細胞の障害の受け方が変わるか検討予定であった。この部分については現在実験を開始しはじめたところである。本来の予定より開始が遅れた理由としては、分化培養した心筋細胞を同じレベルの濃度でコロニー集団でなく、単細胞に単離した状態で培養しなおすプロトコールの開発に時間がかかったからである。分化した心筋細胞集団の一部に線維芽細胞が含まれており、普通に酵素的に剥離、単離して新しい培養皿に培養しなおすと多くの場合が線維芽細胞の増殖優位性により心筋細胞の単離培養が困難であった。この線維芽細胞の増殖を抑制するために再培養時の培養液の組成の変更、培養細胞密度の検討、Sortingによる心筋細胞純化など試行錯誤を繰り返し、ある程度安定した細胞培養法を確立しつつある。 今後更なるプロトコールの改善が必要であるが、計画した実験をすすめながら行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は前述した様に、DMD iPS細胞由来心筋細胞、コントロールiPS細胞由来心筋細胞を用いたin vitroの系で電気生理学的、細胞内カルシウム代謝的に心筋障害予防作用が最も認められる薬剤を選択する。 その選択された薬剤をDMDモデルマウスに投与することで、心不全発症予防効果があるか検討する。 評価方法は、心エコーでの左室拡張末期径、左室収縮率、左心室壁厚、心臓カテーテル検査での左室収縮速度(dP/dt)、左室拡張速度(-dP/dt)、左室拡張末期圧、組織学的にHE染色、Masson-Trichrome染色での、心筋繊維配列様式,心筋の線維化、細胞浸潤などである。更に、有効薬剤の開始タイミング(心筋障害前か障害が起こってからか)を検討し、最も心筋ダメージを抑制する時期を判定する。 以上より、DMD患者の心不全発症予防プロトコールを確立する。治療法が確立されれば、DMD患者さんの生命予後が著しく改善することが期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、iPS細胞を未分化培養維持する培養液、試薬、分化培養する培養液やサイトカインを含めた試薬は引き続き必要となる。MED64システムを用いた細胞外電位測定とその試薬、カルシウムイメージングに用いる試薬が必要となる。心筋細胞を酵素的に単離し、再培養するためにSortingをする場合は、その抗体や試薬、機器使用量が必要となる。 in vitroでのDMD iPS細胞由来心筋細胞の障害を抑制する薬剤が選択できれば、DMDモデルマウスを用いてin vivoの実験を行なう。マウス購入費、飼育費に加えて、投与薬剤が必要となる。マウス解析のためのエコーや心臓カテーテル検査機器は既に配備されているが、麻酔薬など購入の必要がある。最終的にマウス心臓を取り出し、心筋の組織学的検討を行うが、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡は既に配備されているが、染色試薬などは購入予定である。また必要に応じて電子顕微鏡を使用する予定であるが、その場合は使用料が必要となる。
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