2013 Fiscal Year Research-status Report
新生児大脳皮質における睡眠時呼吸調整機能の発達過程の解明
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24791123
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
太田 真理子 日本女子大学, 人間社会学部, 助教 (50599412)
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Keywords | 脳・神経 / 新生児発達 / 皮質血行動態 / 呼吸 / 脳波 |
Research Abstract |
研究代表者はこれまで,脳波,NIRS(光トポグラフィ),呼吸運動を同時に計測して,神経活動と呼吸運動との因果関係を調べてきた。本研究課題では,新生児の大脳新皮質において呼吸調整に関与する部位を明らかにするとともに,早期産児と正期産児の発達的差異を評価することを目的とする。以上の目的を達成するため,慶應義塾大学医学部小児科学教室の協力のもと,新生児を対象に呼吸信号・脳波・NIRS信号の同時計測を実施している。 今年度(平成26年度)は,早期産児群と正期産児群の各群について,脳活動から呼吸運動への情報伝達の様子(因果関係)を分析する作業に重点的に取り組んだ。脳活動と呼吸運動の因果関係の抽出精度を向上させるため,Complex Demoduration (CD)法による脳波解析ソフトを購入し,解析過程に組み込んだところ,早期産児群と正期産児群の両群において,脳活動から呼吸運動への情報伝達が存在する結果を抽出することができた。 次年度は,脳活動から呼吸運動への情報伝達を支える神経システムが,早期産児群と正期産児群でどのように異なるかを詳細に調べる。また,先行研究において呼吸障害との相関が指摘されてきた新生児の臨床脳波(trace-alternant pattern, delta burst pattern)と,本研究において抽出された「呼吸運動調整に関与する脳活動」との関連を調べることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度と今年度(平成24~25年度)の2年間で合計48人の新生児の計測をし,35人分(早産児群16名,正期産児群19名)の計測を成功させた。これは実施予定の統計的検定(効果量1.0,有意水準5%, 検定力0.8)に必要なデータ数にほぼ達しており,計測は概ね順調に進んでいるといえる。 データ解析も順調に進んでいる。現在までに,早期産児14人(出生週数26週6日~35週2日;検査時週数34週2日~36週5日),正期産児15人(出生週数37週1日~41週3日;検査時週数38週0日~41週6日)のデータについて,因果関係解析(偏有向コヒーレンス解析)を実行した。解析過程では,前処理段階において特定の脳波成分を抽出してから因果関係を調べるが,今年度はComplex Demoduration (CD)法による成分抽出を試みた。その結果,抽出された成分の精度が向上し,それに伴い因果関係の検出性能も向上した。結果として,「脳波から呼吸への情報伝達」の存在を正期産児と早期産児の両群で確認することができた。また,「脳波から呼吸への情報伝達」に関与する大脳新皮質部位をNIRS信号を利用して調べたところ,正期産児では部位の特定に成功したものの,早産児では特定できなかった。早産児で特定できない理由については,今後も詳細を調べていく必要がある。具体的には,皮質間でのデフォルトモードネットワーク(皮質間結合)の様子を正期産児と早産児で比較したり,皮質血管における酸素供給能力をNIRS信号から推定する必要もあると考えており,現在,そのための解析プログラムを構築中である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(平成26年度)は,本研究課題の目的に応える重要結果をまとめることを目標にする。具体的な目標は以下の通りである。 ①「呼吸信号・脳波・NIRS信号の各種信号間の因果関係」と児の受胎後週数との関係を調べる。具体的には,脳から呼吸への情報伝達パタンや,大脳皮質における機能局在の観点から,早期産児と正期産児の差の有無について結論する。なお,この研究成果については,第17回国際心理生理学会議にて報告する予定である。 ②上記①で明らかになった呼吸運動に関わる大脳皮質部位について,皮質間での結合関係を詳細に調べることにより,新生児時期における大脳新皮質の発達過程の評価を試みる。皮質間結合を調べる際には,サロゲート法を用いて検討する。 ③新生児期の皮質に分布する血管は未熟であり,酸素の供給・消費能力の面において発達的変化が著しいと想定される。上記①②において早期産児と正期産児の間に差が認められた場合,それが新皮質の機能分化によるものではなく,単に皮質血管における酸素の供給・消費能力の発達的変化による可能性についても否定できないため,それについてもNIRS信号の解析的手法により調べる。 ④呼吸障害との関連が示唆される臨床脳波パタン(trace-alternant pattern, delta burst pattern)の出現時期と,上記①で明らかになった脳から呼吸への情報伝達パタンの出現時期との相関について調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題採択決定と同時期に,研究代表者の勤務先と業務内容が変更になり,本研究課題への予定エフォート(50 %)を確保できなくなった(現在の本研究課題エフォートは20~35 %である)。そのため研究の進め方を修正し,申請時に予定していた平成25年度分の研究成果報告(学会発表や論文投稿)を平成26年度に行うべく計画変更したため,次年度使用額が生じた。 研究成果報告をするために,9月23~27日に広島国際会議場で開催される第17回国際心理生理学会議に参加する予定である(参加費\45,000,交通費\35,000程度,宿泊費\44,000,日当\12,800)。さらに,研究成果を科学雑誌に投稿する予定である(ただし投稿先は現段階で未定;英文校閲費\100,000程度,論文印刷代\200,000~400,000程度)。なお,論文印刷代が科研費今年度予算残額を超える場合は,所属機関の個人研究費と合算して支払う予定である。 また,次年度はサロゲート法を利用したデータ解析を試みるが,この解析には時間的コストがかかるため,高速性能のパーソナルコンピュータ(\200,000程度)を追加する予定である。
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