2012 Fiscal Year Research-status Report
天疱瘡の新治療に向けたIgGサブクラス解析とIgG4除去療法
Project/Area Number |
24791175
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
舩越 建 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80365353)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 天疱瘡 / IgG4 / 治療 |
Research Abstract |
活動期の天疱瘡患者において総IgGに占めるIgG4の割合と抗Dsg-IgG4について解析し、さらに増加しているIgG4を選択的に除去することで、治療効果が期待できるかどうかを検討した。 はじめに天疱瘡患者におけるDsg特異的IgGサブクラスを定量するため、定量可能な抗Dsgモノクローナル抗体(IgG1)のプラスミドをもとに同一の抗原を認識するIgG4抗体を作成した。これらの抗体をもとにDsg1、Dsg3がウェルに固相化されたプレートを用いたELISA法で標準曲線を作成し、PV 27例、PF 16例の抗Dsg-IgG1、-IgG4を測定した。また、商業ベースのキットを用いてPV患者、PF患者と健常人の血清総IgGに占める各サブクラスの定量を行った。さらに3例のPV患者血清からカラムを用いてIgG4のみを除去し、IgG4除去前後の病原性の変化および精製したIgG4の病原性の比較を、表皮細胞解離アッセイを用いて行った。 その結果、PV患者のIgG4に占める抗Dsg3-IgG4の割合は0.1~67.0%(中央値 7.1%)であった。IgG1に占める抗Dsg3-IgG1の割合の中央値は0.5%であり、有意な差がみられた。PF患者においてもそれぞれ4.2%、1.2%とIgG4の割合が高かった。また、IgGサブクラスについてPV、PF患者と健常人を比較すると、血清総IgG4のみが有意差をもって増加していた。さらにIgG4を除去したPV患者IgGと、除去前のPV患者IgGとを比較したところ、表皮細胞解離アッセイで病原性を平均81%減少させていた。さらに吸着除去したカラムから精製したIgG4が他の血清IgG画分よりも病原性があることが示された。致死的な感染症や二次発癌のリスクを有する現在の免疫抑制治療に代わり、IgG4特異的除去療法が安全かつ有効な治療として有用である可能性が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を進めるために必要な病原性・非病原性モノクローナル抗体(IgG1)は、研究協力者であるAimee S. Payneより提供を受けている。これにより研究の効率化が図られている。また、すでに行っていた基礎実験である、天疱瘡患者と健常人のIgGサブクラス解析の結果より、天疱瘡患者におけるIgG4の上昇が明らかになっていた。 今年度の研究においては、非病原性モノクローナル抗体(IgG1)から非病原性モノクローナル抗体(IgG4)の作成から開始したが、プラスミドから制限酵素およびPCRを使用した抗体作成において、適切な指導を享受しながら実験を進めることができ、この間は非常に順調であった。また、抗Dsg IgG1およびIgG4の測定に関しては、商業ベースで購入が可能なDsg ELISAキットを使用することで、確実に結果を得ることができ、研究は順調に進んだ。 患者が保有する自己抗体からIgG4を除去することによる病原性の変化をみるために、器官培養した正常ヒト皮膚中に血清を注射し水疱形成の有無を見る方法と、培養表皮シートを用いた患者血清による分離アッセイとを行ったが、前者については有意な結果が得られなかった。この部分において、研究が停滞したが、後者の実験により、IgG4除去による病原性の変化を示すことが出来た。 全体としては、我々の教室は天疱瘡研究で多くの研究成果を発表してきており、教授の天谷雅行のもとで定期的にミーティングを行い、進捗状況を確認し、進めて行く研究体制が順調な進展に寄与していると思われる。一方で、一般診療を行いながらすすめていく研究ゆえに時間的な制約があり、計画を上回る成果は得られていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究が概ね順調に進展していることから、今後も体制を維持して研究を進めていく予定である。 次年度はまず、前年度の研究に続き、IgG1除去により天疱瘡患者血清の病原性がどう変化するのかを解析する。すなわち前年度にIgG4について行った研究と同様に、IgG1についても抗体除去を行い病原性を評価する。病原性の評価については、IgG4の解析と同様に2通りの方法を用いるが、前年度に結果が得られなかった正常ヒト皮膚を用いた器官培養中への血清の注射については、問題点を検証しながら進めていく。また、これらの実験結果から、IgG4と病勢の相関が示唆された場合には、抗Dsg IgG4 ELISAの標準化を目指し、検査としての安定性と信頼性(鋭敏度・特異度)を検証する。 また、IgG4産生が上昇している疾患活動期の天疱瘡患者においては、IgG4陽性メモリーB細胞が増加していることが予想されることから、フローサイトメトリー、ELISPOT解析により、疾患活動期天疱瘡患者血中のIgG4陽性メモリーB細胞を解析する。さらに、ジフテリア毒素を結合させた抗IgG4抗体を作成し、IgG4陽性メモリーB細胞を選択的に破壊する実験を行う。 これらの研究と平行して、IgE, IgAに関して、患者血清の抗体の定量と病原性の解析を行う。すなわち、病原性・非病原性モノクローナル抗体(IgG1)のプラスミドからIgG4を作成した方法を用いて、病原性・非病原性モノクローナル抗体(IgA, IgE)を作成する。これらを用いたELISA法を成功させることを含めて次年度の目標とし、さらにはIgA, IgE除去による病原性評価へと、継続的に研究を進めていく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度と同様に、主に各種試薬、器具、培地などの購入に研究費が必要で、その他にIgGサブクラスまたはIgAまたはIgE除去のためのカラム作成、表皮細胞解離アッセイ、フローサイトメトリー、ELISPOT解析や抗体作成に研究費を使用する。また、研究成果を発表するため学会参加をするとともに、論文を作成し投稿する。 研究の際に最も必要とされるのは、抗体の解析および病原性の解析に使用される消耗品(Human IgG subclass ELISA Kit, Dsg ELISA Kit)および陽性・陰性コントロールとして必要な病原性・非病原性天疱瘡抗体である。次年度の目標である抗体(病原性・非病原性モノクローナル抗体(IgA, IgE))は制限酵素法、PCR法により作成するため、これらに必要な試薬の購入に研究費を充てる。また器官培養、細胞培養のための培地や血清の購入が必要である。 その他、国内学会および国際学会にて成果を発表するために必要な諸経費として、移動費と3~4泊の宿泊費に使用する予定である。また研究成果発表のため、英文誌投稿・校正に使用する予定である。 なお、未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の消耗品購入に充てる予定である。
|