2012 Fiscal Year Research-status Report
フィラグリン欠損マウスを用いた、低湿度環境によるアトピー性皮膚炎発症機序の解明
Project/Area Number |
24791176
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川崎 洋 慶應義塾大学, 医学部, 研究員 (70445344)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | アトピー性皮膚炎 / フィラグリン / 皮膚バリア |
Research Abstract |
アトピー性皮膚炎の主要な発症因子であり、角層の構成タンパク質であるフィラグリンの発現を完全に欠損したマウスを低湿度環境下で飼育し、乾燥環境がフィラグリン欠損皮膚に与える影響を解析した。 まず、飲水や糞尿の影響があっても、マウス飼育ケージ内の湿度を20%以下に維持できるしくみを確立した。続いて、C57BL/6バックグラウンドのフィラグリン欠損マウスを生後より低湿度環境下(湿度20%以下)で飼育した。通常環境下(湿度40-60%)で飼育したフィラグリン欠損マウスは、日齢4-5をピークにドライスキン様の外観と著しい落屑を認め、フィラグリンが原因遺伝子である尋常性魚鱗癬に類似した表現型を示すが、皮膚が体毛に覆われるとこれらの表現型は消失する。低湿度環境下で生後より飼育したフィラグリン欠損マウスでは、通常環境下で飼育するのに比べ尋常性魚鱗癬の表現型が増悪し、その症状がアダルトマウスまで遷延することがわかった。さらに同腹の野生型マウスに比べ、明らかな成長障害を観察した。低湿度環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスの皮膚バリア機能を評価したところ、同腹の野生型マウス及び通常飼育環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスに比べ、経皮水分蒸散量の著しい増加が認められ、角層内への蛍光物質の浸透性の亢進が観察された。 ここまでの結果は、フィラグリン欠損という遺伝的な角層機能異常を有するマウスに、低湿度環境という環境因子が加わることでさらに皮膚バリア機能が障害され、種々の抗原物質の皮膚透過性が亢進することでアトピー性皮膚炎の発症が導かれるという研究者の作業仮説に合致するものである。今後、種々の抗原物質を経皮的に塗布することでアトピー性皮膚炎様マウスモデルを作成し、アトピー性皮膚炎発症機序の解明を目指す予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去のいくつかの知見から、フィラグリン欠損により生じる角層バリア機能異常の増悪因子として“乾燥環境”が想起されたものの、フィラグリン欠損マウスを低湿度環境下で飼育することにより、本当に皮膚バリアの増悪・破綻が起こるのかどうか、という部分が本研究の最大の懸案事項であった。したがって、今年度いくつかの試行錯誤を経て、低湿度環境下で同様に飼育した野生型マウスや通常環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスに比べ、低湿度環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスで上述のように顕著な皮膚バリア障害を観察したことは、来年度に本研究から多方面への発展が期待できるという点で、“おおむね順調に進展している”と評価してよいものと考える。研究者は、これまでにフィラグリン欠損マウスを用いた研究を継続して行っており、皮膚バリア機能の解析や皮膚表面構造の観察に関する豊富な研究手技と研究実績(Kawasaki H et al. J Allergy Clin Immunol. 2012)を有したことが実験を順調に進めたものと思われる。計画を上回るまでの成果と言えないのは、まだアトピー性皮膚炎様の病態を安定して再現しうるマウスモデルの確立に至っていないからである。しかし、低湿度環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスでは、既に組織レベルで表皮肥厚、真皮浅層の血管拡張、細胞浸潤の増加等、皮膚炎形成を示唆する像を観察しており、今後適切な抗原物質を経皮的に塗布することでアトピー性皮膚炎に特徴的な病態をとるマウスモデルの作成に至るものと期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、フィラグリン欠損皮膚で生じる皮膚バリア機能の破綻に乾燥環境が影響することがわかった。今後は計画通りに、低湿度環境下で飼育したフィラグリン欠損マウスに適切な抗原物質を塗布することでアトピー性皮膚炎様マウスモデルの作成を目指す。そして本マウスの解析を通じて、フィラグリン欠損に起因するアトピー性皮膚炎発症機序の解明を目指すと共に、保湿剤外用による皮膚炎発症抑制効果の検討を行う。 アトピー性皮膚炎様マウスモデル作成に関して、研究者にはこれまで複数の抗原物質を様々な手法でマウスに経皮塗布し、解析した豊富な経験がある。過去の手法や抗原液、アジュバント使用等の知識、経験を十分に生かし、最適なマウスモデルの確立をできるだけ迅速に進めていく予定である。また、疾患発症過程の解析を円滑に進めるために、乾燥環境がもたらす皮膚バリア障害を詳細に解析検討する目的でフィラグリン欠損ヘアレスマウスを、皮膚炎発症過程でのランゲルハンス細胞による抗原取り込みの意義を明らかにする目的でフィラグリン欠損langerin-DTAマウスを、既に作成している。さらに、乾燥環境下でのフィラグリンの機能をより詳細に解析する目的で、フィラグリンが天然保湿因子に分解される過程で重要なブレオマイシン加水分解酵素を欠損するマウスの飼育を開始している。保湿剤外用効果の検討に関しては、どの時期からどういう形で保湿剤塗布をすれば乾燥環境の影響を緩和できるかに関する研究協力者との議論、予備検討を既に開始している。 また、次年度はいくつかの国内・国際学会に参加し、成果を発表すると共に今後の研究発展のために情報収集、他の研究者との情報交換を行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は、主に研究者が所属する施設の既存の研究機器を利用し、新たな機器を購入することなく遂行していく予定である。本研究の大部分がマウスを用いたin vivoの実験となるため、研究費はマウスの購入・飼育費に多くを充てる予定である。また、次年度は皮膚炎発症機構の解析にも力を入れる計画のため、ELISA解析やフローサイトメトリー解析、共焦点顕微鏡、電子顕微鏡観察等の実験に用いる各種試薬、抗体、器具、解析ソフト等の購入費が昨年以上に必要となる。 さらに次年度は、国内・国際学会に参加し、成果発表を行うと共に、必要時は技術習得あるいは今後の研究発展のための情報収集、他の研究者との情報交換を行う予定である。このための必要経費として、旅費を申請し、使用する予定である。また、研究成果発表費用として、英文誌投稿・校正に研究費を使用する予定である。 なお、今年度の未使用額の発生は、効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の消耗品購入に充てる予定である。
|