2013 Fiscal Year Research-status Report
脳内ステロイドメタボロミクスを用いた新規抗うつ薬の開発
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24791209
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
杉山 暢宏 信州大学, 医学部附属病院, 講師 (30422695)
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Keywords | エストロゲン受容体 / うつ病 |
Research Abstract |
「うつ病を発症しやすい人とうつ病に生涯かからない人では,酵素活性の違いなどからエストロゲン受容体(ER)betaに親和性の高いステロイドの産生が異なるのではないか」という作業仮説にたち,健康正常群とうつ病の経験者で,血液中,唾液中のステロイドホルモンを定量的に比較し,うつ病の病態生理に関与する重要なホルモンはどれかを探索している.候補リガンドに期待される性質は,(1)ERbeta選択性が高く,ERalphaには作用しないこと.(2)中枢神経のERbetaのみに作用し,その他の臓器には作用しないこと. と要約できる.1970年~現在までの論文を検討し,dehydroepiandristerone (DHEA),cortisol,17beta E2,7alpha OH DHEAなど6種類のステロイドに対象を絞った.脳内ステロイド代謝物質は立体構造が酷似しているため,抗原抗体反応が原則使用できない.それぞれ化学的性質が少しずつ異なるため、脳内にいくつもある代謝物質の挙動を一度に俯瞰することは容易ではないが,メタボローム研究の最新テクノロジーを取り入れ,脳内ステロイド代謝物質解析という新たなアプローチを導入した(液体クロマトグラフィーと質量分析の組み合わせを用いる).対象とする被験者には,(1)過去および現在まで精神科受診歴のない健康被験者 男性(2)過去および現在まで精神科受診歴のない健康被験者 女性(3)DSM-IV-TR診断基準による大うつ病性障害,重症うつ病エピソード の3群を対象とする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね目標としていた症例数に到達しつつある.予備的研究としては一定の結論を導くためには,ほぼ計画通り十分な検体数であると考えている. ステロイドホルモンの測定に関しては,委託業者との連携は滞りなく,検査会社での測定にも,いまのところ,問題は生じていない.17 beta estradiolなど,過去に報告があるステロイドの実測値と本研究の測定値は,およそ一致しており,また,閉経している女性のステロイドホルモンも過去の報告通りの値であるので,実験系として信頼性があると考えられる.被験者の負担軽減に最大限配慮し,検体採取はうつ病症例にあっては寛解後,被験者の文書による同意を得て行っている.被験者の負担とならないことを最優先としているが,今までのところ,検体採取に関して,問題は生じていない. ただし,日内変動の問題があるので,検体採取に関して想定以上の困難があった.
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Strategy for Future Research Activity |
今回の研究で,目星がついた,うつ病の病態生理にとって重要と思われる内因性ステロイドホルモンが,本当にうつ病の予防,診断,治療,また予後に役立つのかどうか,さらなる検証をする必要がある.本研究の規模での被験者数では,予備的な検討に留まるので,さらに大規模に拡大して,実験が再現できるものか,確認する必要がある.その先には,動物実験などを通して,当該ステロイドホルモンの産生を遮断した場合,うつ病が生じうることを別の形で示す必要も出てくる.大規模臨床研究や動物実験での知見の追試がなされれば,これは極めて臨床上有用なステロイドホルモンであるということになるので,臨床への実際への応用,たとえば創薬をもにらんだ研究へ発展させることになる. 今後の課題としては,ホルモンの測定に関わる費用が非常に高価であるという問題点がある.液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた本研究で用いるホルモン測定は特異性,定量性に極めて優れているが,残念なことに外注料金が高価であり,提出できる検体数が限られている.つまり,限られた予算で測定できる検体数,ステロイドホルモンの数には限りがある.うつ病と関連がありそうな対象ステロイドホルモンを6種類から1,2種類に絞ることによって,一被験者あたりの測定料金をさらに減らし,測定できる被験者の数を今よりもずっと大規模にする必要がある.また,今後は,この測定系を自前の研究室で再現し,より安価に測定を実施していく工夫も必要かも知れない.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に試行錯誤して得られた被験者の集め方・検体の採取方法,ならびに外部委託会社でのステロイドホルモン測定の細かな条件指定を踏まえて,平成25年度には被験者を多数集め,基礎データや血液,唾液の検体収集を行う予定だった. しかし被験者が予想よりも少なかったため,検体採取が進んでおらず,未使用額が生じた. データに,さらに説得力を持たせるため,被験者の数をさらに増やす必要がある.未使用額は主に,被験者から採取した検体に含まれるステロイドホルモンの精密測定(外部専門業者に委託)の経費にあてることとしたい.
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