2012 Fiscal Year Research-status Report
ROCK阻害による開口放出機構の調節を介した不安惹起メカニズムの解明
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24791257
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
橋本 富男 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 流動研究員 (10610751)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 神経科学 / 行動薬理 / 開口放出 / 不安 |
Research Abstract |
当研究部は、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤であるY-27632を脳室内投与することにより、マウスで不安様行動が惹起されることを明らかにした(Saitoh et al., 2006)。最近、ROCK活性調節による恐怖条件付け試験におけるすくみ行動の変化に、スパインの形態変化が関与することが報告されているが、十分に明らかになっていない。一方、ROCKはsyntaxin-1のリン酸化を促し、シナプス小胞のプレシナプス膜への融合を調節し神経伝達物質の開口放出を制御していることが報告された。そこで本研究では、ROCKによる開口放出機構の制御に着目し、不安惹起メカニズムを解明することを目的とした。3年計画の1年目である本年度は、マウスにROCKを活性化させるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid; LPA)を脳室内投与したときの情動行動変化を、種々の評価系を用いて探索的に検討した。また、情動行動のメカニズムを解明するために、前頭葉皮質、海馬、線条体、小脳、延髄、嗅球の各脳組織においてROCKのキナーゼ活性を測定する評価系の確立を試みた。さらに、シグナル経路の下流タンパク質LIMキナーゼ(LIMK)、ミオシンフォスファターゼ(MYPT)、Cofilinのリン酸化をWestern blot法により調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
はじめに、LPAをマウスに脳室内投与することにより、情動行動が変化することをホールボード試験、強制水泳試験の評価系において見出した。次に、ROCKの活性測定を行った。前頭葉皮質、海馬、線条体、小脳、延髄、嗅球の各脳組織においてROCKのキナーゼ活性をELISA法により測定する評価系を確立できた。また、ROCK阻害剤Y-27632及び、活性化剤であるLPAを用いてROCK調節による活性の解析を行った。まず、ROCK活性を阻害するY-27632をマウス脳室内に投与し、前頭葉皮質におけるROCKの活性の評価をELISA法により評価を試みた。Y-27632のROCKの阻害機構は可逆的な阻害機構であるため、サンプル調整中にROCKの阻害効果が低下することが考えられELISA法でのY-27632によるROCKの阻害評価を行うことは困難であった。そこで、ROCKシグナル経路の下流タンパク質LIMキナーゼ(LIMK)、ミオシンフォスファターゼ(MYPT)、Cofilinのリン酸化をWestern blot法により調べることでROCK活性の変化を間接的に解析した。ROCKを活性化するLPAをマウス脳室内に投与し、脳を摘出し、前頭葉、海馬に分割し、脳内各部位でのLIMK、MYPT、Cofilinのリン酸化をWestern blot法により調べた。結果、前頭葉、海馬においてLPAによるROCK活性調節による下流分子のリン酸化の変化は、対照と比較して有意な変化は検出されなかった。また、同様にsyntaxin-1のリ酸化も解析を行ったが、対照と比較して有意な変化は検出されなかった。 本年度は、研究計画のROCK阻害により不安様行動を示すマウスの脳内各部位におけるROCK活性を評価することが困難でありsyntaxin-1のリン酸化には変化はなかったが当初の計画通り遂行できた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、LPAによるROCK活性化を介した情動行動変化に、プレシナプスにおける神経伝達物質の開口放出機構の調節が関与することが考えられた。しかし、LPAによる開口放出のメカニズムは解明されていない。そこで、本年度は、培養細胞を用いてLPAによる開口放出のメカニズムを調べることを試みる。 神経伝達物質の開口放出のモデルとして、培養細胞に強制発現させたヒト成長ホルモン(hGH)の細胞外へのリリース量をELISA法により調べる方法が報告されている。そこで、ラット副腎髄質由来の褐色細胞腫由来のPC12細胞を用いて、hGHを組み込んだG418耐性を持つベクターをPC12細胞にトランスフェクションを行い、hGHを恒常的に発現する安定発現細胞株の樹立をG418耐性下で試みる。 まず、hGH安定発現株にROCKを活性化するLPAの濃度を変えて刺激を行い、濃度依存的なリリースの影響が起こるのかhGH ELISA Kitを用いて測定する。次に、LPA受容体のアンタゴニストを用いて、リリースの影響を調べ、LPA受容体からのROCKシグナル系の関与を断定する。さらに、ROCK阻害剤Y-27632を用いて、LPA刺激によるリリースの影響に変化が起こるのか検討する。ここまでの研究で、LPA刺激がLPA受容体を介しROCKを活性化させ開口放出に影響を与えるかどうか分かる。 また一方、LPA刺激を行った時のリン酸化syntaxin-1、tomosyn-syntaxin-1複合体、VAMP-2-syntaxin-1複合体等を、Western blot法、免疫沈降法により定量し、対照と比較する。 以上の計画からLPA-ROCKシグナルによる開口放出の変化のメカニズムが解明を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
プラスチック等消耗品(シャーレ、遠沈管、ピペット、チップ)等を40,000円、また、細胞試薬(培地、トランスフェクション試薬等)を100,000円と計上した。必要最低限のランニングコストを、生化学研究試薬10,0000円と考え計上した。開口放出による神経伝達物質のリリースの変化を調べるために、ヒト成長ホルモンELISA Kit 70,000円を4回購入すると考え280,000円を計上した。ROCK活性化剤LPAは、30,000円を5本購入すると考え150,000円を計上した。また、ROCK阻害剤Y-27632は、40,000円を2本購入すると考え80,000円を計上した。 本研究を社会・国民に発信するため、国内、国際学会での研究成果発表のための旅費を200,000円また、論文作成費用50,000円を計上した。
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