2012 Fiscal Year Research-status Report
アダプタータンパク質ASC下流シグナルを標的とした新規大腸がん治療標的分子の同定
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24791405
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
藤井 千文 信州大学, 医学部, 助教 (10361982)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 大腸がん / シグナル伝達 / 細胞増殖抑制 |
Research Abstract |
大腸がんは、がん死の原因としては肺がんに次いで2番目に多く、致死人口が多い。本研究の目的は、大腸がんの悪性化に伴い遺伝子発現量の低下が見られるapoptosis-associated speck-like protein containing a CARD(以下ASC)の下流シグナル分子の同定を試み、ASCを介した大腸がん細胞増殖抑制の分子メカニズムを解明することにより、新規大腸がん治療標的分子を同定することである。 我々の研究グループでは、これまでに、ASCの発現抑制が認められるヒト大腸がん細胞株DLD-1およびヒト線維肉腫細胞株HT-1080にASCを過剰発現させると、細胞増殖能やコロニー形成能が低下することを見出した。さらに、ASCはN末端側のPyrinドメイン(以下PYD)とC末端側のCARDドメインから成るタンパク質であるが、PYDのみのASC変異体をDLD-1またはHT-1080に過剰発現させた際には、野生型以上の細胞増殖抑制効果を示した。 そこで、本年度は、この細胞増殖抑制の分子メカニズムについてさらに詳細に解析するため、細胞増殖、細胞死に関与する分子であるp53、p21、カスパーゼ等のノックダウン細胞株を作製し、ASCによる細胞増殖抑制への関与を解析した。 また、ASCのPYDを介した下流シグナル分子が新たな大腸がん治療の標的分子となりうることから、ASCのPYD結合タンパク質が大腸がんの治療標的分子の候補であると考え、本年度はその網羅的解析も試みた。DLD-1およびHT-1080にASCおよび種々の変異体とFlagタグとの融合タンパク質を発現させ、LC-QTOF-MSおよびMALDI-TOF-MSによる包括的解析を行い、これまでにPYD結合候補分子を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ASCのPYD結合候補分子のスクリーニングに終始した。DLD-1細胞に、レトロウイルスベクターを用いてASC-Flag、PYD-FlagまたはΔPYD-Flag(細胞増殖抑抑制効果が見られないPYDの一部欠損体)融合タンパク質を発現させ、細胞抽出物のanti-Flagビーズによる免疫沈降を行った。得られた生成物のLC-QTOF-MSによる包括的解析を行い、ASC-Flag、PYD-Flagには結合するがΔPYD-Flagには結合しないタンパク質を選択し、PYDと特異的に結合する分子を同定した。その結果、約100種のタンパク質が得られた。これらの中には細胞増殖、シグナル伝達、タンパク質合成、細胞骨格の形成に関わるものが含まれていた。また、がん細胞で特異的に発現が亢進することが報告されているタンパク質も含まれていた。一方、HT-1080細胞での包括的解析の結果では、約50種のPYD結合候補タンパク質が得られた。両細胞間で共通の結合タンパク質が、ASCによる細胞増殖抑制に重要であると考え、得られた分子群を両者で比較したところ、共通のタンパク質が約10種含まれていた。これらには、細胞増殖への関与が報告されている分子、タンパク質合成に関与する分子、タンパク質分解過程に関与する分子、細胞骨格の形成に関与する分子が含まれていた。これらのタンパク質は、ASCのPYDと特異的に結合していると考えられる。 また、上記包括的解析とは別に、HT-1080細胞においてp53、p21、および種々のカスパーゼのノックダウン株を作成し、解析を行ったところ、ASCによる細胞増殖抑制は、p53、p21、カスパーゼ1、カスパーゼ7には非依存的であることが示唆された。 以上の結果を得たことより、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究で得られたタンパク質のうち、細胞増殖およびタンパク質合成に関与することが報告されている分子を選択し、解析を行う。結合候補分子とASCまたはその変異体とを共発現させ、双方の免疫沈降により結合の確認を行う。また、結合候補分子の種々の変異体を用いてASCとの結合部位を同定する。さらに、結合候補分子のDLD-1細胞、HT-1080細胞細胞での過剰発現、ノックダウンにより、細胞増殖過程への影響を解析する。 また、本年度はASCを発現していない細胞株にASCを過剰発現させる実験系を用いたが、逆に、ASCを発現している大腸がん細胞株を中心に、種々のがん細胞株においてASCをノックダウンし、リン酸化等のシグナルが変化する分子の解析も試みる。 以上の方法で、ASCの下流シグナル分子を同定し、大腸がん治療標的分子の同定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由としては、LC-QTOF-MSによる網羅的解析を外注せず、本学に設置の機器を用いて行ったため、当初計画よりも安価に完了したことが挙げられる。また、次年度に、リン酸化シグナルの網羅的解析を行う予定のため、外注費用等が必要となる。さらに次年度は、細胞培養、動物実験による機能解析を行う。使用予定額は以下の通りである(概算値)。試薬、キット等の消耗品と外注費1,950千円。動物購入、飼育費用500千円。成果発表のための国内旅費100千円。論文投稿・掲載費用150千円。共通機器使用料200千円。
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