2012 Fiscal Year Research-status Report
チオレドキシンによる炎症性大腸発がん制御とその機構解明
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24791407
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
鳥井 美江 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), リサーチアソシエイト (60615285)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | チオレドキシン / 大腸炎 / 大腸がん / MIF / サイトカイン |
Research Abstract |
潰瘍性大腸炎とそれに高率に合併する大腸癌においても、MIFとIL-13が重要な役割を果たしていることから、申請者はTRXが大腸炎症に伴う大腸発がん過程にいかなる影響を及ぼしているかを検討してきた。その結果、TRXを過剰発現するTRXトランスジェニックマウスにおいて、発生する腫瘍数が著明に減少していたが、生じた個々の腫瘍は大型化していることを見いだした。このことは、TRXは大腸発がんを抑制するが、生じた腫瘍の進展を促進している可能性を示す。これを基盤に、本申請研究では、炎症性大腸がんの発生と進展におけるTRXの制御作用機序を明らかにする。本年度はTRX-Tgと野生型マウスそれぞれに、発がんイニシエーターであるアゾキシメタン(AOM)を腹腔内前投与、さらにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)反復投与し、大腸炎症の再燃と寛解を繰り返す潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌を摸したマウスモデルを作成し、この炎症性大腸発がんモデルマウスから大腸と腸管膜リンパ節を採取し、リアルタイムPCR法を用いて、大腸炎症時と腫瘍発生時期の炎症ないし発がんに関与する遺伝子の発現パターンを解析した。その結果、TRX-Tgマウスの大腸において多くのMIF以外の炎症性サイトカインやケモカインの発現は野生型マウスの大腸に比較して低下していた。一方、アレルギー性気道炎症の場合と異なり、大腸においては炎症と発がんの全過程においてMIFの発現はTRX-Tgで高まっていた。この結果から、TRX-Tgにおいては、腫瘍に発生に関与する複数の炎症性サイトカインの発現が低下することで発がんが抑制される一方、MIF産生が高まることで生じた腫瘍の生存と増殖が促進され、生じた腫瘍が大型化したと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度には1)TRXによる大腸発がん抑制における炎症抑制とMIF/IL-13産生抑制の関与を明らかにすることと、2)TRXによる大腸発がん抑制に伴って活性化あるいは抑制されるT細胞サブセットを明らかにすることを当初の計画し、大腸組織のパラフィンブロックを作製したが、免疫組織染色による病理学的解析には凍結組織を用いる必要があることが判明し、この件に関しては進捗が遅れた。一方、炎症と発がんに関与する遺伝子の発現解析は予定通り行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
野生型マウスとTRX-Tgマウスを用いた炎症性大腸発がんモデルマウスから大腸、腸管膜リンパ節、粘膜固有層を経時的に採取し、各臓器の組織切片をH&E染色や免疫染色法を用いて、またそのホモジェネートをELISAやリアルタイムPCR法を用いて、炎症の程度、腫瘍の浸潤度合い、血管新生状態、ならびに種々のサイトカインや転写因子の発現を詳細に解析する。その結果から、TRXによる発がん抑制がMIFとIL-13の発現抑制による炎症もしくは腫瘍化の抑制に起因しているのか、また、腫瘍進展促進作用が、腫瘍の増殖促進もしくはアポトーシス抑制によるものかを、明らかにする。さらに腫瘍化する上皮細胞のみにTRXを高発現する骨髄キメラマウスを作成し、TRXによる腫瘍増殖促進作用が腫瘍内因性のTRXに起因している可能性を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)炎症性大腸発がんにより、TRX-Tgマウスと野生型マウスに生じた大腸がんの組織切片を増殖指標となるKi67を核染色する、あるいはTUNEL法を用いたアポトーシス指標となるDNA切断3’-OH部位を標識し、腫瘍の増殖とアポトーシスに関して解析する。(2)大腸がん組織のホモジェネートからタンパク画分とRNA画分を回収し、それぞれウエスタン法とリアルタイムRT-PCR法を用いて、Bcl-2、Bcl-xL、活性化カスパーゼ3の発現を解析する。また、マウスにBrdUをパルスし、回収した大腸がん組織のBrdU免疫染色により、細胞増殖周期を解析する。(3)TRX-Tgマウスと野生型マウスに生じた、上記の大腸がん組織をH&E染色し、病理組織学的検討から腫瘍の悪性度を判定し、両マウスでの比較検討をおこなう。(4)TRX-Tgマウスあるいはコンジェニックマーカをつけた野生型マウスに放射線照射し(8Gy)、それぞれにTRX-Tgマウスもしくは野生型マウスの骨髄細胞(3x106個)を尾静脈より輸注する。骨髄系細胞にのみTRXを過剰発現するマウスと、腫瘍化する上皮細胞を含む非骨髄細胞にのみTRXを高発現する骨髄キメラマウスを作成する。TRX-TgマウスにTRX-Tgマウス骨髄、野生型マウスに野生型マウス骨髄を移入したキメラマウスを対照群として作成する。コンジェニックマーカを指標にキメラ化を確認した後(およそ4週後)に、炎症性大腸発がんを誘発する。発生した腫瘍数、腫瘍径を測定し、TRX過剰発現細胞の違いが、発がんと腫瘍進展にどの様に関わっているかを検討する。(5)上述のキメラマウスから回収した大腸がん組織を③で述べた方法で詳細に解析する。 次年度の研究費はこれらの実験に用いる試薬の購入に充てる。
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