2012 Fiscal Year Research-status Report
血清鉄調節を利用したがん微小環境制御による画期的な分子標的治療の効果増強法の開発
Project/Area Number |
24791424
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
大原 利章 岡山大学, 医学部, 客員研究員 (40623533)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 癌 / 鉄 / 血管新生 / 分子標的薬 |
Research Abstract |
固形癌に対する除鉄を用いた新規治療法の開発を主たる目的とする。in vitroでは除鉄による抗腫瘍効果の検討と血管新生作用の誘導の証明を行った。除鉄は鉄キレート剤(deferasirox)を用いて、擬似的に除鉄状態を作り出し、ヒト癌細胞株(A549, H1299, TE4, TE8)を用いて検討を行った。すべての細胞株においてキレート剤の濃度依存的に細胞増殖が抑制された。そのメカニズムについてフローサイトメトリーによる検討を行うとG1 arrestが生じており、細胞周期を止めて増殖抑制効果をもたらしていると考えられた。また血管新生作用の誘導については培養液中のVEGF-Aの濃度をELISA法で測定した。A549, H1299細胞でキレート剤の濃度依存的にVEGF-Aの増加が認められた。 in vivoでは除鉄マウスモデルを除鉄食の投与で作成した。6週齢のヌードマウスを準備し、3週間の除鉄食を与えるとHb(通常食群vs除鉄食群 = 14.9 ± 0.7 g/dl vs 11.4 ± 0.6g/dl p<0.001)、フェリチンは(255.0 ±108.6 ng/ml vs 113.8 ± 24.9ng/ml p=0.044)の低下が認められた。A549細胞で皮下腫瘍を作成し、除鉄食を継続すると腫瘍の増殖抑制効果が認められた。この皮下腫瘍(A549)を回収し、CD31による血管内皮細胞の免疫染色を行うと除鉄食群の皮下腫瘍で血管新生が増加していた。治療実験として除鉄食に血管新生阻害薬であるBevacizumabを併用すると非常に強い抗腫瘍効果が認められた。固形癌に対する除鉄と血管新生阻害薬の併用療法は有効な新規治療法と考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はin vitroでは除鉄がもたらす影響について抗腫瘍効果の検討に加えてシグナルについての検討を行った。まずcell cycleについてはA549, H1299細胞でキレート剤の濃度依存的にcyclin D1の発現低下が認められ、western blot法による解析でも細胞周期を止める事により増殖抑制が生じていると考えられた。またTUNEL法を用いてapoptosisについても検討を行ったが、明らかなapoptosisの誘導は認められなかった。また両細胞株を用いてELISA法で培養液中のVEGF-Aの濃度を測定すると増加が認められたが、さらに核タンパクを抽出しWestern blot法によるHIF-1αの検討を行うと、キレート剤の濃度依存的にHIF-1αの発現増強が認められ、HIF-1αを介したVEGF-Aの発現が増強していると考えられた。 in vivoでは皮下腫瘍(A549)を回収し、CD31による血管内皮細胞の免疫染色を行うと除鉄食群の皮下腫瘍で血管新生が通常食群に比べて増加していた。さらに腫瘍のタンパク抽出を行いWestern blot法による検討を行うと、in vitroと同様にHIF-1αを介したVEGF-Aの発現増強が認められた。 このようにin vitroおよびin vivoで除鉄による細胞シグナルへ与える影響について検討を行い、細胞周期の停止およびHIF-1αおよびVEGF-Aの発現増強を介した血管新生作用が生じている事を明らかにできた。これらの結果より除鉄による増殖抑制効果および血管新生誘導に対するシグナル解析は、おおむね予定通り達成できていると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により除鉄により抗腫瘍効果が認められるが逆にHIF-1αを介した血管新生の増強が生じている事が明らかになった。また除鉄に血管新生阻害薬を併用すると強い抗腫瘍効果が認められるが、今後は以下の方針でさらに研究成果が確固たるものになるように進めていきたい。①今回開発した治療法の論理的な有効性を証明するための傍証を集める研究、②除鉄による癌細胞への新規効果の解明 まず①についてはin vitroではキレート剤以外の除鉄実験は行えておらず、鉄なしの細胞培養液を準備し、キレート剤の抗腫瘍効果ではなく真に除鉄効果により抗腫瘍効果と血管新生誘導の効果が得られている事の証明を行う。またin vivoでは逆にキレート剤投与による実験が行えていないため、キレート剤(deferasirox)を用いた実験を行いin vitroおよびin vivoでの実験結果を揃えて有効性をしっかりと証明したい。 次に②については本年度のin vivoでの除鉄+血管新生阻害薬併用実験で非常に強い抗腫瘍効果が認められた。この効果は、癌細胞に除鉄の抗腫瘍効果と血管新生誘導効果の応用以外の効果が現れている可能性も考えられる。この除鉄による新規効果について遊走、浸潤能を調べる実験などを行い明らかにしていきたい。またこれらの実験を通じて、臨床応用が最も見込まれる癌種を選定し、臨床研究の準備を行いたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は除鉄培養液を用意し、各細胞株を用いて抗腫瘍効果の検討を行いキレート剤を用いた場合との比較を行う。またin vivoでは除鉄マウスモデルを食事ではなく、キレート剤を用いて作成し、食事で作成したマウスモデルとの比較を行う。Assayについては、方法は本年度の実験でほぼ確立されていため、試薬の購入によりスムーズに研究が進むことが推測される。 本研究で得られた新規治療法の治験について国内外の学会で発表していくと共に論文にまとめ発表を行う予定である。
|
Research Products
(4 results)