2012 Fiscal Year Research-status Report
膵癌の循環血中腫瘍細胞における細胞骨格タンパク質の役割の解明
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24791451
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
萩尾 真人 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任助教 (00623927)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 膵臓外科学 |
Research Abstract |
平成24年度は、「ヒト膵癌培養細胞の同所移植によるマウス転移モデルを用いた循環血中腫瘍細胞(CTCs)の分離採取」の検討を行った。蛍光標識したヒト膵癌細胞株(DsRed (+) PANC-1 cell)を同所移植することでその後発生するCTCsをあらかじめ標識しておくことができる。そのためEpCAMなどの既存マーカーの使用に比べ精度の高いCTCsの分離採取が可能であると考えた。検討の結果、3-4匹分のマウス腹部大静脈血のプールサンプルを溶血処理後にフローサイトメーターに供することで、10の2乗オーダーのDsRed陽性細胞を回収することが可能となった。これまでの報告に比べ、回収細胞数が増加したことによって遺伝子発現解析やプロテオーム解析を行う場合などに有用であると考えられる。 また、平成25年度に実施予定の「LC/MSによるCTCsの細胞骨格タンパク質の定性、定量」に向け、LC/MSによるタンパク質定量法を検討した。細胞骨格タンパク質の一つである中間径フィラメントのnestinを標的とし、LC/MSによる絶対定量を試みた。Nestinを構成する1621アミノ酸残基の中から、in silicoによって特定のアミノ酸配列を選択し、定量分析のための標品となるリコンビナントペプチドを合成した。この合成ペプチドのMSによる検出を検討した結果、10 nMから100 uMの範囲での検量線で非常に良好な直線性を得られるMRMプログラムが決定した。このMRMプログラムを用い、あらかじめnestinの発現が高いことが明らかとなっているACBRI513細胞から抽出したタンパク質をMSに供したところ、nestinを検出することができた。今後は、生体組織から抽出したタンパク質からも同様に検出できるか検討していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の達成度は、「②おおむね順調に進展している」と考えられる。「ヒト膵癌培養細胞の同所移植によるマウス転移モデルを用いた循環血中腫瘍細胞(CTCs)の分離採取」という今年度の目的に対し、(1) 転移モデルマウスの血中からCTC細胞としてDsRed陽性細胞を分離採取できた点、(2) 次年度の目標である「LC/MSによる細胞骨格タンパク質発現パターン解析」の足掛かりとなる、培養細胞サンプル中nestinをLC/MSで検出できた点、が判断の根拠である。 (1) 当初マウス一匹からの血中DsRed陽性細胞の分離採取を目標としたが、マウス一匹からの回収血液量が少なくさらに検出細胞数も非常に少なかったため、3-4匹分の血液プールを使用することにした。それでも10の2乗個程度が細胞回収の上限であり、その後のプロテオーム解析に用いるには不十分であると考えられた。あらかじめCTC細胞を標識しておくことで多くの細胞を回収できると想定していたが、実際の回収量は予想を下回った。本研究では、マウス膵尾部にDsRed発現PANC-1細胞を移植してから8週後の屠殺であり、肝臓への転移も確認した。しかしCTCの血液中での存在量が転移の段階によって増減する可能性、さらには日内変動によって増減する可能性を考慮していなかったため、今後最適なタイミングが明らかになれば回収細胞数がさらに増加する可能性がある。 (2) 細胞骨格タンパク質の一つであるnestinを培養細胞サンプルからLC/MSで検出できたことは、その他の標的タンパク質も同様に検出できることを示唆しており、今後CTCにおける細胞骨格タンパク質の発現パターン解析を行ううえで大きく寄与することが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、おおむね当初計画していた通りに研究を進めることができたが課題点、変更すべき点も明らかになった。(1) CTC回収後にタンパク質発現パターンを解析する点、(2) 細胞骨格タンパク質を網羅的に解析する点、の2点に関し実験計画の再検討が必要であると考えられた。 (1) 上記のように、DsRed標識によるCTCsの回収量が予想を下回ったことから、以降の網羅的タンパク質発現解析を成功させるためには、CTCs回収率のさらなる上昇、および少数細胞解析のためにLC/MSによる標的タンパク質の検出感度の上昇を検討する必要がある。特にCTCの回収率改善検討を行うにはその都度マウス転移モデルによる長期飼育を必要とするため、現時点で着手した場合多くの時間と研究費を要することが予想された。そこで、DsRed標識によるCTCsの回収が可能である知見はH24年度ですでに得られたので、次年度は培養細胞を用いた実験系に移行し、後述する標的タンパク質の変更とともに、CTC評価につながる新たな知見の獲得を目指す。 (2) 細胞骨格タンパク質の中でも中間径フィラメントは様々な分化段階や細胞の性質に応じて発現パターンが変化することが報告されているため、発現変化の詳細をLC/MSによって解析する方法の確立は非常に有用だと考えられる。しかし、H24年度の検討結果を考慮すると未だその機能性が十分に理解されていないタンパク質も含めたすべての細胞骨格タンパク質に対しLC/MS定量メソッドを確立するには多くの時間を要することが予想されたため、標的タンパク質を絞る必要性が感じられた。例えば、近年上皮間葉転換 (EMT)における細胞骨格タンパク質の発現パターンが変化(E-cadherinの発現減弱、vimentinの発現増強)することが明らかになってきたため、これをLC/MSを用いて評価する方法を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度MSによる検出を検討予定の、E-cadherin、vimentinのリコンビナントペプチドの合成費に充てる予定である。
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