2013 Fiscal Year Research-status Report
ラットにおけるアンギオテンシンII遺伝子ワクチンを用いた脳梗塞新規治療法の開発
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24791487
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
若山 幸示 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (50349263)
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Keywords | 脳梗塞 / ワクチン / 非感染性疾患 / 予防的治療 |
Research Abstract |
平成25年度の研究成果からDNAワクチンでは研究遂行のために十分な抗AngII抗体産生が得られないことが判明したため、新たにAngIIペプチドワクチンを使用し研究をすすめた。AngIIペプチドワクチンの3回接種の結果、脳梗塞作成時点である8週齢のラット血清抗AngII抗体価は80―62000(ED50%)と値はまちまちであった。また抗AngIIワクチン接種群とコントロール群(生理食塩水投与)との比較で収縮期血圧の有意差は認めなかった。 脳梗塞体積についても被殻線条体に限局するものから、皮質を含む半球全体におよぶものまで種々の程度で認められ、ワクチン接種群、コントロール群の2群間で脳梗塞体積の有意な差は認められなかった。そこで抗体価6000をカットオフ値として、抗AngII抗体価高値群と抗体価低値群に分けて定量比較をおこなった結果、抗AngII抗体価高値群における脳梗塞体積は、抗AngII抗体価低値群、コントロール群に比較して有意に梗塞体積の縮小がみられた(p<0.05)。神経機能評価のため行った脳梗塞24時間後のmodified Neurological Severity Score(mNSS)では、コントロール群と比較して、抗AngII抗体価高値群、低値群いずれにおいても有意な(p<0.05)スコアの改善をみとめた。Fluorojade B (FJB) 染色による梗塞巣における変性神経細胞数を各群で比較したところ、抗AngII抗体価高値群では、抗AngII抗体価低値群、コントロール群に比し有意なFJB陽性細胞減少を認めた( vs. 抗体価低値群 p<0.01, vs. コントロール群 p<0.05)。AngIIワクチン接種抗体価高値群における、脳保護効果のメカニズムの検証の一環で抗酸化ストレスの関連を検討するため、4-HNE免疫染色を行った。コントロール群に比較し、抗AngII抗体価高値群で有意な4-HNE陽性細胞の減少を認め(p<0.05)、抗AngIIペプチドワクチンによる脳梗塞縮小効果には抗酸化作用の関連が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、DNAワクチンによる脳梗塞予防的治療の有効性を検証する予定であったが、ナイロン糸塞栓子による中大脳動脈閉塞法による脳梗塞モデル作成に適切な週齢に合わせて十分な抗アンギオテンシン抗体価を増加させることが難しいという問題が判明した。この問題を解決すべく、DNAワクチンの接種量、接種時期の変更、ラット脳梗塞作成時期の変更などを多様なパターンで行い、改良を試みるが、最終的にはDNAワクチンの免疫誘導能の低さが大きな障害となり、同法による研究継続は難しいものと判断した。以上の理由により、研究に遅れが生じているものの、ワクチンを用いた脳梗塞予防的治療法の有効性の検証という研究テーマの新規性は、DNAワクチンの代わりにペプチドワクチンに変更することでも十分に保たれるものと考えられ、抗AngIIペプチドワクチンによる抗AngII抗体価上昇作用はDNAワクチンと比較して非常に強いことが確認されたため、以降の研究はペプチドワクチンに変更して進めた。ペプチドワクチンに変更後は、治療効果を示すに十分な抗AngII抗体産生がみられる個体が一定の割合で得られている。現時点までの結果で脳梗塞病変の縮小がワクチン接種群で確認されていることから、引き続き、治療効果の作用機序を解明すべく検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ワクチンにより産生が誘導された抗AngII抗体が全身循環、脳局所のRASコンポーネントにどのように影響を与えるか、全身循環における抗体価、脳梗塞組織での抗体価の関連性、ワクチン治療高抗体価群における酸化ストレス低減効果や神経保護効果(抗アポトーシス効果、抗ネクローシス効果)が、どのようなメカニズムで作用しているのかについて解明すべく、分子生物学的手法を用い検討を進めている。これらの実験はH25年度に行ったワクチンの脳梗塞縮小作用を証明するための、脳組織を用いた病理学的検討とは別の実験系で行っていることから、現時点では検討個体数が足りておらず、今後さらに個体数をふやすことで、抗AngII抗体産生による脳保護効果のメカニズムを検証する。 またペプチドワクチンでも脳梗塞治療効果を示すに十分な抗体産生が得られる確率は約30%であることから、さらなる治療効率の改善をめざし、ワクチン接種量と抗体価の関連、治療効果の関連も検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでの研究結果から脳虚血保護効果を得るには十分高い抗AngII抗体価である必要があることが示されたが、DNAワクチン接種により、本研究で用いる脳梗塞モデルラットの適齢手術期に合わせて抗体価を上げることは不可能であることが判明した。研究継続のため、抗AngIIワクチンをDNAワクチンからペプチドワクチンに変更し、接種タイミングなどの条件検討を進めた結果、効率的に抗体価を上げることができた。ただペプチドワクチンであっても治療効果を示す抗体価まで上がる確率は約30%であり、治療効果の検証に加え、メカニズムの解明まで進めるためには、当初予定した検討個体数をさらに増やす必要が生じた。以上の理由により研究行程に半年ほどの遅れが生じており、研究費の未使用額が発生している。 循環、組織レニンアンギオテンシン評価のためのELISAに6万円、ワクチンによる脳保護作用の機序を評価するために行う、ウエスタンブロッティング、リアルタイムPCR関連試薬の6万円、その他動物購入費用に3万ほどの支出を予定している。
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