2012 Fiscal Year Research-status Report
オピオイドが癌細胞の抗がん剤感受性を低下させるか?
Project/Area Number |
24791620
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
瓦口 至孝 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (90433333)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | オピオイド / 癌 / 抗がん剤感受性 |
Research Abstract |
ヒト大腸癌細胞株HCT116及びHT29細胞に周術期使用オピオイドであるレミフェンタニル、モルヒネ、フェンタニルを6時間または24時間曝露し、これらオピオイドが増殖能に与える影響についてMTTアッセイを用いて調べた。レミフェンタニル、フェンタニルはどちらの細胞株においても、臨床使用濃度およびどちらの曝露時間でも細胞増殖能に変化は見られなかった。一方で、HCT116細胞においてモルヒネに6時間曝露した場合、コントロール群に比べて細胞増殖能は有意に亢進した(しかしモルヒネ24時間曝露では変化がなかった)。また、HT29細胞においてはモルヒネ6時間曝露でどの濃度においても増殖能に変化はなかったが、高濃度(50ng/ml)かつ 24時間曝露では増殖能が有意に抑制された。さらに、癌性疼痛に使用されμオピオイド受容体アゴニストとしての鎮痛作用を持つトラマドールについても同様の実験を行い、増殖能への影響がないことが分かった。 次に各種オピオイドが抗がん剤感受性に与える影響について調べた。まず予備実験として、5-フルオロウラシル(5-FU)による抗がん作用(増殖抑制効果)についてMTTアッセイを用いて検討した。HCT116細胞において48時間5-FUに曝露することで濃度依存性に増殖能を抑制することが再現できた(一方でHT29細胞ではばらつきが大きく、以降の実験には使用することが出来なかった)。5ng/mlの5-FU(細胞増殖をコントロールの70-80%に抑制することが出来る濃度)が臨床使用濃度に近いことから、モルヒネ及びフェンタニル24時間曝露後に5-FUを投与し、これらオピオイドが5-FUの増殖抑制効果に影響を与えるか検討した。モルヒネ、フェンタニルともに5-FUの抗がん作用に影響しないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は計画書通りにオピオイド、特に周術期に臨床使用されるレミフェンタニル、モルヒネ、フェンタニルが癌細胞の生存に及ぼす影響について、screeningとしてtrypan blue染色を用いて細胞死の様子に変化があるかを調べた。計画書に記載したレミフェンタニルのデータと同様に各オピオイド曝露後の細胞死の割合は3%を切る状況で、オピオイド単独で有意に細胞死の割合を変化させるような結果を得ることが出来なかった。また抗がん剤(5-FU)を用いた実験では、5-FUに長時間(24-48時間)曝露する必要があり、その期間に細胞増殖の程度が各群で異なることから細胞数に違いが生じ、細胞死の割合やアポトーシスで評価を行うことが難しいことが分かった。従って、評価項目として、細胞死ではなく癌細胞の増殖能に及ぼす影響について検討することに変更を余儀なくされた。 増殖能に与える影響について、当初はモルヒネと比較してμオピオイド受容体への選択性が高く作用も強いと考えられるレミフェンタニルやフェンタニルが、モルヒネと比較してより大きな影響を及ぼすと考えられたが、実際には増殖能には影響を及ぼさないことが分かった。一方で、研究実績の概要に記載したが、モルヒネは癌細胞の増殖能に影響することが分かり、蛋白レベルやmRNAレベルでの検討が必要と考えたが、今年度は予算の都合で実施出来なかった。 さらに、あらかじめ各種オピオイドに暴露された癌細胞に、細胞ストレスとして抗がん剤(5-FU)による増殖能抑制を行い、MTTアッセイを用いて抗がん剤感受性への影響を評価したが、positiveなデータ取得には至っていない。以上のことにより、メカニズムとしてcaveolinとの関連性については検討が困難な状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の結果を踏まえて今年度も引き続いてオピオイドが癌細胞の増殖能にどのような影響を与えるかについて検討する。まず、モルヒネ曝露によるHCT116細胞の増殖能亢進についてより確からしさを高めるため、蛋白質レベルやmRNAレベルで再現性があるかどうかについて、western blottingやreal-time PCRを用いて検討する。またHT29細胞におけるモルヒネによる増殖能抑制についても同様の検討を行い、さらに細胞分裂周期の変化についてFACSを利用して調べることで、どの細胞周期で抑制されているかについても検討を行う。 また、合成麻薬であるフェンタニルやレミフェンタニルは増殖能に影響しないことから、モルヒネの癌の増殖能に対する作用としてμオピオイド受容体以外のメカニズムが考えられる。そこで、μ以外のオピオイド受容体拮抗薬(κ、δ受容体拮抗薬)やアデノシン受容体拮抗薬などを同時投与してモルヒネの効果がキャンセルされるかを調べることで、どの受容体を介するシグナル経路が影響しているのかについても検討する。 さらに、細胞増殖にはエネルギーを要すること、また癌細胞においてはATP生成を解糖系に依存していることを考慮すると、オピオイド、特にモルヒネがグルコース細胞内取り込みに影響を及ぼす可能性が考えられる。そこでコスモバイオ社製の2-デオキシグルコース代謝速度測定キットを用いて、モルヒネが癌細胞のグルコース取り込みに与える影響について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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