2013 Fiscal Year Research-status Report
神経因性疼痛発症における軸索輸送の位置づけと神経保護に関する基礎的研究
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24791624
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
磯中 理沙 北里大学, 医学部, 助教 (50550547)
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Keywords | 軸索輸送 / 神経因性疼痛 |
Research Abstract |
神経因性疼痛は中枢あるいは末梢神経の障害によって起こり、その痛みは患者のQOLを著しく低下させる。そのため、神経因性疼痛の緩和薬が果たす役割は大きい。本研究は、局所麻酔に起因する末梢神経障害をいかに防ぐことができるか、すなわち局所麻酔薬による神経因性疼痛を緩和するメカニズムの解明を目的としている。 当該年度は、前年度に引き続き、神経因性疼痛緩和薬の代表例として整形外科、ペインクリニック、皮膚科領域の治療にも用いられているノイロトロピンを使用して実験を行なった。また、ノイロトロピンに加え、局所麻酔薬および抗不整脈薬として広く知られているリドカインを新たに用いて以下の実験を遂行した。 マウスの脊髄後根神経節より感覚神経細胞を培養し、実験に供した。ビデオ増感顕微鏡を用いて、リドカイン単独、およびリドカインとノイロトロピンの混合薬処置による神経線維内の軸索輸送の変化をリアルタイムで観察、解析した。また、これらの薬物処置前後の軸索径を測定、比較した。 本実験と前年度の実験結果を考え合わせ、リドカインは神経線維内の粒子の輸送を減少させること、また、リドカインとノイロトロピンの混合薬はリドカインの単独処置時と比較して輸送粒子数の減少を有意に抑制すること示した。さらに、この混合薬処置による軸索径への有意な影響はみられないことを明らかにした。 当該年度における研究結果は、リドカインによる末梢神経障害に対するノイロトロピンの神経保護作用について検討した国内外初の知見となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度における研究計画に従い、本研究代表者は神経因性疼痛緩和薬の代表例であるノイロトロピンおよび強い神経毒性をもつことで知られているリドカインを用いて培養感覚神経細胞の軸索輸送への影響を観察する実験を遂行した。本研究結果については国内外の学会(日本生理学会、米国神経科学会議)にて発表し、多くの分野の研究者が関心を寄せる研究課題であることを確認した。また、ノイロトロピンが神経線維伸長に及ぼす影響を検討する次の実験項目に対しても予備実験を開始している。これらの点については当初の計画通りもしくはそれ以上に進展していると考える。 同大学医学部麻酔科竹浪講師らと共同して実施するクモ膜下腔にカテーテルを留置したラットをモデル系とする個体レベルでの実験の進行速度は緩徐ではあるが、データを米国神経科学会議にて発表するに至っている。 細胞内微細構造の観察に使用する共焦点レーザー顕微鏡は学内共用機器であり、研究進行速度が緩徐である。また、ノイロトロピン以外の神経因性疼痛緩和薬の実験が行えていないことに関しては、当初の計画にやや遅れが生じているといえる。 これらを考え合わせると、研究項目により進捗状況に差はあるが、本研究全体を通すとおおむね計画通りであると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ノイロトロピン、リドカインそれぞれ単独処置、およびリドカインとノイロトロピンの混合薬処置が神経線維の伸長に与える影響について検討する。また、共焦点レーザー顕微鏡を用いた細胞内微細構造の観察およびノイロトロピン以外の神経因性疼痛緩和薬の影響に関しても引き続き検討する。 さらに、同大学医学部麻酔科竹浪講師らと共同し、ラットのくも膜下腔に留置したカテーテルを用いてノイロトロピンを投与し、神経機能評価(運動機能検査テスト、痛覚閾値テスト)および電子顕微鏡による組織標本の観察を行ない、個体レベルでの検討を開始する。 本研究で得られたデータを解析し、成果を国内外の学会および国際学術誌に発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の実験計画である、細胞レベルでの薬物処置による神経線維の伸長変化の観察、神経細胞内微細構造の形態的変化の観察、さらに、ラットへの薬物処置と効果の検討を遂行するために必要な消耗品の購入、および本研究結果を国際学会で発表するための旅費、そして研究成果の国際学術誌への投稿料等として使用するために次年度使用額が生じた。旅費に関して、神経因性疼痛に対するノイロトロピンの効果は現在米国でも調査中であること、また、リドカインに関する研究が数多く展開されていることから、米国での発表は研究内容を吟味するには有意義とあると考えられる。 当該年度と同様に、消耗品は、ビデオ増感顕微鏡の記録ビデオであるベータカム記録テープ、実験用試薬、水銀ランプ等に使用予定である。実験用試薬は、細胞培養液、ノイロトロピン等の薬物、神経細胞の微細構造の組織化学染色等に用いる抗体等を含む。また、本研究代表者は国際的視野で研究内容の検討、討論を行うため、米国神経科学会議での研究成果の発表を希望する。先述の通り、現在米国でも神経因性疼痛に対するノイロトロピンの効果は調査中である。従って、すでに広く治療に用いられているリドカインとの関係についての新たな研究結果を発表することは、各国の多分野の専門家からさらなる発展的な意見を得る好機であり、研究内容を再度吟味するには有意義と考える。従って、学会発表および参加のため5泊6日の外国旅費に必要な経費としても使用予定である。その他の経費としては研究成果の国際学術誌への投稿料等への使用を予定している。
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