2013 Fiscal Year Research-status Report
新奇Ca2+シグナル分子およびその作用機序の解明と不妊治療への展開
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24791731
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
原田 裕一郎 東京医科大学, 医学部, 助手 (80570168)
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Keywords | クエン酸合成酵素 / Ca2+濃度上昇 / 受精 |
Research Abstract |
受精は生命誕生の最初の一歩である。しかし、排卵時、ヒトを含めた哺乳類卵は減数分裂の途中(第二減数分裂中期;MII)で停止しており、眠った状態(休止状態)である。したがって、卵は発生を開始するためこの休止状態から脱し、卵子と精子それぞれの染色体からなる受精核を形成しなければならない。これら一連の過程を卵活性化と言い、精子により卵子が活性化することで受精は成立する。この卵子を活性化するために最も重要な鍵となる刺激が、卵内で起こるCa2+濃度の上昇である。 これまで、私の研究においてこの卵内でのCa2+濃度上昇を引き起こす精子由来の分子として、両生類アカハライモリにおいて精子尾部に局在するクエン酸合成酵素(CS)が機能することを示していた。さらに平成24年度までの研究においてほ乳類マウス精子にもクエン酸合成酵素がミトコンドリア以外にも存在していること、マウスCS-mRNAによってマウス卵の活性化が引き起こされることを示してきた。 そこで、平成25年度はこのクエン酸合成酵素(CS)によるCa2+濃度上昇のシグナル伝達経路を明らかにすることを目的として研究を進めた。まず、マウス精子由来のクエン酸合成酵素の受精時の必要性を確かめるために、抗CS抗体を用いてマウス精子抽出物のCSを除去してマウス卵に注入したところ、抽出物の卵活性化の活性が大きく減少した。次に、このCSの酵素活性に着目し、通常のCSの酵素反応で生成されるクエン酸、アセチルCoA、オキサロ酢酸をマウス未受精卵に注入した。しかし、これらの生成物ではマウス卵は活性化しなかった。さらにCSの酵素活性を抑える阻害剤を用いて精子抽出物とこの阻害剤を同時にマウス卵に注入したが、この阻害剤では卵活性化を抑えることはできなかった。これらの結果から、マウスの卵活性化におけるCSのシグナル伝達経路の詳細についてさらに検証が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書平成25年度の計画に基づいて、マウス受精時のクエン酸合成酵素によるCa2+上昇のシグナル伝達経路について解析を試みた。しかし、クエン酸合成酵素から次のシグナルへつながる分子を見つけることはできなかった。これは、クエン酸合成酵素の酵素活性に着目して研究を行った結果であるが、近年このクエン酸合成酵素と結合する分子が報告されており、おそらく精子由来のクエン酸合成酵素もほかの分子と結合することによりシグナル伝達している可能性が考えられ、今後さらに検証していく必要がある。 さらに、現在までに私はこのクエン酸合成酵素と相同性の極めて高いほかの新分子を見出しており、合わせて次年度以降、この新分子について検討を始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
マウスにはクエン酸合成酵素(CS)と非常に高い相同性を持つCitrate Synthase-Like(CS-Like)と呼ばれる分子が存在することが知られてる。このCS-Likeはこれまでにその機能や役割についての解析はおこなわれておらず、未知の分子となっている。しかし、これまでの私の配列の解析では、CS-Likeはクエン酸合成酵素の酵素活性に必要な配列を完全に保存しておりCSと同様な活性を持つと推測される。また、興味深いことにこのCS-Likeは精巣特異的に発現していることがデータベース上に示されており、精子において受精時の卵活性化に働く分子としての可能性が十分にある。 そこで、今年度はCSによるCa2+濃度上昇シグナル経路の解析について、マウスCSが他の分子と協調して機能する可能性を検証するために抗CS抗体を用いてマウス精子CSと結合する分子を免疫共沈降法によって探索する。さらにCS相同分子であるCS-Likeの受精への関与についてもCa2+濃度上昇の誘起活性やマウス精子への局在を検討していく予定である。これらによって、新奇Ca2+濃度上昇経路が見出されることが期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は既存の実験試薬・キット類が研究を進める上で必要な数と量がそろっており、新規に試薬類を購入することが少なかったため上記の次年度使用額となった。 平成26年度は新たに使用するマウスや、平成26年度から計画している研究に用いる蛍光色素、各種阻害剤や抗体、タンパク質精製システムの購入に充てる予定である。
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