2012 Fiscal Year Research-status Report
メニエール病における内耳水代謝機構に関する基礎的研究ー新たな治療薬への応用ー
Project/Area Number |
24791748
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江上 直也 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10505895)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | メニエール病 / バゾプレッシン / アクアポリン |
Research Abstract |
メニエール病はめまい発作を繰り返し、難聴や耳鳴などの蝸牛症状を反復・消長することを特徴とする疾患で、メニエール病の内耳では病理組織学的には内リンパ水腫が生じていることが広く知られているが、その病態については解明されていない点も多い。 これまでにもメニエール病の病態解明を目的として様々な動物モデルを用いた組織学的、生理学的研究についての報告があるもののめまい発作誘発の報告がないことなどから臨床上のメニエール病の急性期の難聴・めまい発作という特徴を説明することができず、より実際の臨床像に即したモデルの開発が急務であった。 メニエール病患者の内リンパ嚢は解剖学的に低形成もしくは線維化が報告されており、内リンパ嚢における内リンパ液の吸収障害が内リンパ水腫の一因として考えられている。本研究では古典的な手術による内リンパ嚢閉塞モデルに、内耳水代謝に関与していると考えられている抗利尿ホルモンであるバゾプレッシンを負荷することで、新しい内リンパ水腫モデル動物を作成した。 このモデル動物では蝸牛、前庭において手術単独群と比較して有意に高度な水腫形成を定量的に認めた。また手術単独群ではメニエール病に特徴的な体平衡障害を伴うめまい発作は見られなかったが、我々のモデル動物では全例において体平衡障害と自発眼振の誘発を認めた。以上の結果より、実験的な内リンパ嚢閉塞により内リンパ嚢における内リンパ液の慢性的な吸収障害にバゾプレッシンの急性影響が加わることで実際にめまい発作が生じ、高度な内リンパ水腫を組織学的に証明できた。メニエール病の臨床像に近い良いモデルを作成できた。 内リンパ水腫を生じた内耳では、内リンパ嚢の機能不全或いはVP-AQP2システムを介した水代謝機構がそれぞれ単独で関与しているわけではなく、両者が相乗的に作用介在しているものと推測された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実際の臨床像と乖離のある古典的内リンパ嚢(管)閉塞モデル動物にバゾプレッシンを急性投与することにより新しい内リンパ水腫動物モデルを作成した。 この内リンパ水腫モデル動物を用いて急性のめまい発作による体平衡障害、自発眼振が誘発されることを記録し、その前庭機能について評価を行い、実際の臨床像と極めて近いモデル動物であることを証明できた。またこのモデル動物の側頭骨病理組織標本を用いて内リンパ水腫が蝸牛及び前庭球形嚢において古典的内リンパ嚢(管)閉塞モデル動物と比較して定量的に高度な内リンパ水腫を生じていることが組織学的にも比較証明できた。 分子細胞学的には蛍光免疫染色にて過去の報告と同様、蝸牛血管条の基底細胞や前庭の感覚細胞にAQP2が局在していることが確認できた。新しいモデル動物においてバゾプレッシンの投与によりメニエール病の臨床像に合致した機能変化が証明できたことより、内耳液の恒常性を維持する上でVP-AQP2システムを介した水代謝機構が内耳には介在し、このシステムの亢進が内リンパ腔への水の流入を促進し、内リンパ水腫形成に関与していることが強く示唆された。 VP-AQP2システムを抑制することで水の再吸収が抑制され、内リンパ腔への水の流入が抑制され、内リンパ水腫が軽減されるとの仮説に基づき、VP-AQP2システム阻害剤に関して、V2Rの拮抗的阻害剤であるOPC-31260及びOPC41061を内リンパ水腫モデル動物に投与すると水腫軽減効果が見られることが組織学的に同様の手法で証明できた。投与法及び投与経路や投与量等について追実験が必要ではあるが、VP-AQP2システムの阻害剤がメニエール病に対する新規の治療薬開発への応用できる可能性が示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
新しいメニエールモデル動物を作成し、機能的・形態的にメニエール病の臨床像に近いモデルであることは証明できたが、内リンパ嚢における慢性的な機能障害に伴う内リンパ液の吸収障害に加え、内耳における水代謝にVP-AQP2システムが関与していることを分子細胞学的に証明する必要がある。 そこでバゾプレッシン投与による細胞膜レベルでのAQP2の局在に関する検討を蛍光免疫染色にて証明することが次年度の課題である。血管条基底細胞に局在することが証明できたAQP2は細胞内小胞に蓄えられているが、バゾプレッシン負荷により、細胞膜表面に移動する(trafficking)ことが腎臓集合管の細胞では証明されており、内耳においても同様のメカニズムが介在しているものと考えられる。この細胞内でのAQP2の局在の変化は極めて短時間で行われている可能性もあり、細胞内での明確な変化が確認できなかった場合には、バゾプレッシン負荷による内耳全体におけるAQP2及びV2Rの蛋白量発現の変化についてWestern blottingにて比較検討することで内耳におけるVP-AQP2システムの関与について検討できるものと考えられる。 内リンパ嚢(管)閉塞術を施行した動物にV2R拮抗的阻害薬であるOPC-31260及びOPC-41061を経口投与すると水腫軽減効果がみられることが平成24年度の実験でわかったが、実験動物を増やし、投与法及び投与経路や投与量等について追実験を加え、組織学的に検討することが次年度の課題である。また予備実験において全身投与では投与量が多いと血中AVP値の上昇、血漿浸透圧の上昇することがわかっており、投与経路や投与量等、各条件の動物について血中AVP及び血漿浸透圧のモニタリングも合わせて行い、V2R拮抗的阻害薬をメニエール病に対する新規の治療薬として応用する上で最も適切な方法を検討する必要がある。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
新たにセットアップする設備備品はなく、消耗品として研究費を計上することになる。第一にモデル動物用、各種免疫染色用の実験動物が多く必要である。次にAQP及びV2R抗体、試薬としてバゾプレッシン及びV2R選択的阻害薬が相当量必要である。またバゾプレッシン及びV2R選択的阻害薬を投与した動物の血中AVP値、血漿浸透圧値の測定のために検体検査費用として相当額を計上する必要がある。
|
Research Products
(5 results)